第38話
玄関に向かうと既に父が待機していた。私の姿を見るなり頬を緩めて近づいてくる。
「ヴィオ、とても綺麗だ。女神様かと思ったよ」
「ありがとうございます」
相変わらず親馬鹿全開の父は褒め方が異常だ。女神様に失礼だろうと思いつつ笑顔でお礼を言う。
「ヴィオ、今日は変な女に気をつけるんだよ」
「その変な方を呼んだのはお父様ではありませんか」
「すまない。どうしてもあの馬鹿にヴィオの幸せな姿を見てもらいたくてね」
変な女だったり、馬鹿だったり酷い言いようだ。それだけのことを向こうはしたのだから当たり前だけど。
「まあ大丈夫だ。何かあってもお父様が助けてあげるし、レア君が守ってくれるからね。それに私の優秀な部下達もいる。問題は起こらないはずだよ」
魔法省の長を父に持つ私と魔法省勤めのレアンドルとの婚約披露式なのだ。招待客の大半が魔法省に勤めている人となっている。
初めて会う人も多いので失礼のないように挨拶をしなければいけない。
あわよくば魔法省について色々と聞けたら嬉しいのだけど。主役なので聞けるかどうかは分からない。
考えごとをしていると離れた位置にいた母が父に近づいてくるのが見えた。
「旦那様、私からお願いがあるのですけど」
「君から?いいよ、なんでも聞こう」
父は私だけじゃなく母にも甘い。
お願いと聞いて心底嬉しそうに笑った。
子供の立場から見ると恥ずかしい夫婦だけど、好きな人を持つ身から見ると羨ましくて仕方ない。
「実はヴィオの外泊を許可して欲しいのです」
私からお願いするのは気不味かったので代わりに言ってくれるのは助かるけど私の居ないところで伝えてほしかった。
父は驚いた表情をこちらに向けてくる。
おそらく私から確認を取りたいのでしょう。
「あの、実はお母様とレーヌからレアと話し合った方が良いと言われまして…。だから、ゆっくりとお話する為にも外泊の許可をお願いします」
嘘っぽいけど本当のことだからね。
ただ私の言い方が嘘臭かったからか母が「本当の事ですわ」と伝えていた。それにしてもちょっと楽しそうだ。
私と母が頼んだのだから快諾してもらえるかと思っていたのに父は怪訝な表情を見せてくる。
「話し合う?何を話し合うのかな?」
「えっと、それは…」
そういえば二人から話し合うように言われたけどなにを話し合えば良いのかは聞いていない。
助けを求めるように母を見ると父に「無駄なすれ違いが起きているみたいですわ」と伝えていた。
無駄なすれ違いってなに?
私が疑問に思っている横で父は納得の表情を見せていた。
「レア君はまだ伝えていないのか…?」
「うーん、伝えていないというより伝わっていないと言った方が正しいかと。話を聞いただけのレーヌちゃんでも伝わっているのに」
「鈍感なところは君に似たのかな」
「あら、私はヴィオほど鈍感ではありませんわ」
なんの話をしているのだろうか。
首を傾げていると私を見た両親が苦笑いで溜め息を吐いた。
鈍感だと呆れられることが増えた気がするけど。なにか大切なことに気がついていないのだろうか。
考えてみるがさっぱり分からない。
「お父様、お母様。私、大切なことを見落としているのでしょうか?」
「それは私達から伝える事じゃないわ」
「え?」
「ヴィオ、外泊は許可しよう。ちゃんと話し合っておいで」
は、はぐらかされた。
レアンドルに聞けば全てが分かるのだろうか?
しかし彼まで教えてくれない可能性がある。
もっとちゃんと考えるべきなのかもしれない。
ここ最近のことを振り返ってみるがやっぱり分からなかった。
一人落ち込む私に両親は楽しそうに笑う。
「そう気を落とさなくても良いよ。すぐに分かることだ」
「そうね。ヴィオが鈍感なのもあるけど、ちゃんと言わない向こうにも責任があるわ」
「ヘタレなんだろうね」
「大胆な事をしておいて今更尻込みしないで欲しいですわ」
全然分からないけどレアンドルが揶揄われていることだけは分かった。
「さて、そろそろレア君が来るかな」
「そうですわね」
「彼には文句を言ってやらんと」
「背中を押してあげてください、旦那様」
文句を言う?背中を押す?
さっきの会話から察するにレアンドルは私に言いづらいことがある。周りはそれに気がついている。
はっ、もしかして彼は私は他に好きな人が出来たと伝えたがっているのかしら。
つまり私が気づいていない大切なことはレアンドルが私と別れたがっているってことなのだ。
話し合うように言われたのは別れ話をするようにって意味なのね…。
「ヴィオ?どうしたんだい?」
「お父様、二回も婚約解消を受けた貴族令嬢って居ますか?」
「二回も婚約解消?いきなりどうしたの?」
「お母様、フラれたら一緒にやけ酒してください」
「ヴィオ?何を言ってるのよ」
屋敷の中でやけ酒をすればきっと問題は起こらないはずよ。
両親は顔を見合わせ後にハッとした表情を見せる。
「ヴィオ。貴女、勘違いしているわ」
「ああ、くそ。あのヘタレのせいでヴィオが落ち込んでいるじゃないか」
「大丈夫です。お父様、お母様。慰めの言葉より美味しいお酒をたくさん用意してください」
うん、お酒を飲めばきっと全部忘れられるわ。
にっこりと微笑むと両親は揃って「あの馬鹿公爵!」と叫んだ。
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