失われし、トキ

 都内、時々市ときどきし時間町じかんちょうにて、午後五時三十二分に時計坂トキさん(八十八歳)がその長い人生に幕を下ろした。



 同時刻。時間町動物園にて、一羽の朱鷺ときが逃げ出した。朱鷺は今にも夕暮れに溶けそうな羽を広げ、泣いている家族に囲まれ惜しまれるトキさんの元へやってくると、頭を掴んでさらっていった。



 彼らは動物園で、名前が同じと意気投合した仲である。



 名前も同じなので言葉が通じた。死んだら死体を浚うという言葉にトキさんは頷いた。



 朱鷺はハゲタカのような死体フェチだった。



 ランデヴーは朱鷺がその身を食うまで続く。しかし字数がもうない。それは語り手としても非常に残念である。嗚呼どうか、トキさんと朱鷺の恋が幸あらん事を!あらん事を!




 Twitter300字SS第九回お題より……「時」(本文ちょうど300字)

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