月の匂い、不思議の匂い

「月の匂いがするね」


 満月の空の下、月乃が言った。


「雨の匂い、太陽の匂いってあるでしょう。月の匂いもあるんだよ」


 最後のだけ覚えがない。


「星の匂いもあるのか?」

「無いんじゃないかな。一つ一つが小さいもの。惑星の匂いはあるかもね。草の匂い。誰かが干した洗濯物の匂い。焼き芋の匂い」

「それ惑星の匂いって言うのか」

「言うんだよ」


 漂う星々のようなフワフワとした言葉。月乃の言い切り方のせいで本当みたいだ。


「ねえ、月の匂いする?」


 月乃の着ていた淡いイエローのカーディガン。彼女が俺に作る卵焼きのイメージから、段々と、遠い宇宙の冷たく輝く月に変わっていくのを感じていた。


 Twitter300字SS第十回お題より……「匂い」(本文277字)

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