『犬神家の一族』

 石坂浩二が初めて金田一耕助を演じた『犬神家』は1976年に公開された。角川映画第1弾の演出を託されたのは市川崑であった。巨匠の称号に相応しい実績を持ちながら、少しも偉ぶらないのが、市川監督の素敵なところである。

 犬神家は、観る度に面白味が増すスルメ映画である。最初の鑑賞は学生時代だが、その際の俺には、いささか退屈に感じられた。理由は幾つかあるが、映画について「わかっていなかった」のが最大の要因だ。

 配役の妙を楽しむだけでも、観る価値があると云うのに。演出の仕事の七割は配役であるとは、市川監督の言葉ではなかったか。


 序盤から終盤まで、陰惨なムードに塗り潰された映画だが、不思議にワクワクする。市川監督の演出が巧みなのは無論だが、大野雄二の音楽も貢献度が高い。なにやら「ルパンっぽい」のである。犬神家とカリ城は舞台設定が似ている気がする。劇中曲の交換使用も可能ではないかと考える。


 帝王(犬神)佐兵衛が支配する那須の町に金田一が現れたのは、法律事務所に勤める若林なる人物に不気味な内容の手紙をもらったからである。

 探偵たる者、依頼者に会って、話を聞くのが鉄則だが、我らが金田一はそれさえもできない。面談の前に毒殺されてしまったからである。この人はいつも「一歩遅い」のだ。まるで「わざとやっているのではないか?」と思うぐらいに遅いのである。


 悪魔の仕業めいた連続殺人の発生。惨劇の原因となるのが、佐兵衛が作成した遺言状である。生前の彼について、俺たちはほとんど知らない。開幕早々に舞台を去ってしまうからである。だが、相当に精神が病んだ(歪んだ)人物であったことは推測できる。で、なければ、あのような異常な遺言状は遺すまい。

 金田一のやり方は独特である。表面的捜査と道化役は現地の警察に任せておいて、自らは事件の核心たる「犬神佐兵衛のルーツ」に踏み込む。

 帝王の過去に肉迫すれば、それが最も有効な鍵となって、謎の扉が開くことを金田一は知っている。この男、やはり只者ではない。ではないが、犯罪の防止に関しては、あまり役に立たぬ。立つつもりもなさそうだ。


 最終局面、解説屋然として「事件の真相」を語ってくれるが、その時点では、犯人は目的をほぼ達してしまっている。勝ちか負けかと云えば、明らかに後者だ。しかし、気にしている様子はない。金田一もまた目的を果たし終えているからだろう。〔12月1日〕


[柳乃奈緒さんのコメント]

犬神家の一族と言うと私はどうしても

ドリフがコントでやってたやつを思い浮かべて笑ってしまいます。

もちろん、本家本元も原作も映画も拝見しましたよ~。


[闇塚の返信]

確かにギャグに転化し易い内容ではありますね。(笑)


おおっ。原作を読まれましたか。白状しますと、俺は横溝先生の作品はほとんど読んだことがないのです。『本陣殺人事件』ぐらいで……。


[柳乃奈緒さんのコメント]

犬神家の一族じゃなくあれは「八墓村」のパロディだったかもしれません。

金田一のキャラに当時はまってしまい、「悪魔が来たりて笛を吹く」や「悪魔の手鞠歌」も読んだ記憶があります。


[闇塚の返信]

そうですか。充分ありえますね。俺もドリフはよく観ていたのですが、まったく記憶がないなあ……。(苦笑)


映画版は観ましたが、原作は未読です。スミマセン。(再苦笑)

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