『お葬式』

 日本映画に伊丹旋風が巻き起こった時期があった。その起爆剤となったのが、長篇映画第1作『お葬式』である。実体験に基づいた脚本を書き、自ら演出したもの。但し、出演はしていない。伊丹十三に該当するキャラクターは山崎努が演じている。妻役は宮本信子である。

 宮本さんは、自分で自分の役を演じたことになる。現実と虚構がミックスされた独特の作風が、この時点で形成されつつある。無論それは、後になってわかったことである。お葬式に関しては、制作費の確保も含めて、伊丹監督も相当必死であったろうと思う。

 苦心と奔走は作品に反映され、邦画にも洋画にも例のないようなユニークな映画が誕生した。なにしろ「全篇葬式」である。表現が大袈裟になるが、これは映画史上初の試みと云っていい。


 お葬式を観たのは、高校生の頃だったと記憶しているが、正直何が面白いのかよくわからなかった。鑑賞のキッカケも「山崎さんが主演だから」という理由であった。当時の俺は、映画、テレビを問わず、山崎努の出演作を片っ端から観ていたのだ。お葬式はその内の一本であった。

 映画にも色々ある。全世代が楽しめる作品もあれば、ある程度人生経験を重ねないと、理解できない作品もある。お葬式は後者に属する。俺も俺なりに生きてきて、ようやく可能になったというわけ。


 配役が贅沢である。俳優出身の監督だけに、主役から端役まで、細かい神経が行き届いている。お葬式に「自分が演じたくないキャラ」は一人も登場していない筈である。愛すべきキャラたちを誰に演じてもらうのか、部隊編制に頭を悩ませるのは当然である。

 葬儀屋役もなかなか決まらなかったそうだ。この役こそ、監督が演じる可能性があった役だ。もし、猫八さんに断られていたら、多分演(や)っていたと思う。どんな芝居をしてくれただろうか。想像は膨らむ。


 映画の中盤に映し出されるサイレント風のモノクロ映像は、写真家の浅井慎平が撮ったものである。全伊丹映画の中で最も好きなシーンだ。背景音楽として、バッハ先生の『G線上のアリア』が選択されており、画面に格調を加えている。このような優雅な趣向は、後期の伊丹映画にはほとんど見られなくなった。

 伊丹映画の内容的衰弱は第4作『マルサの女2』から始まった。第2作『タンポポ』の不入りと、第3作『マルサの女』の大ヒットが関係しているように思われるのだが、推測に過ぎない。〔11月17日〕


[シンカワメグムさんのコメント]

俳優伊丹十三。北の国からの田中邦衛の離婚した嫁の再婚相手役で、

(再放送ドラマではありましたが…。)幼心にあっやべ超カッコええ!!

と思った事を今思い出しました。チョイ役なのにニヒルな存在感…。

だから、山崎努氏の起用が多かったのかなと(笑) 似てますもんねえ~

猫八師匠じゃなく、俳優伊丹十三だったら、かなりのハードボイルド

葬儀屋になっていたかもしれない。銜えタバコの(笑)


お葬式。自分もぼんやりとした記憶しかありませんが、

葬式準備に追われる最中、山崎努演じる主人公と愛人の情事を、

遠くからブランコ漕ぎながら、うつろに眺めている妻役の宮本信子を

強烈に覚えております。 こ、こわあ~~~~……。(゚Д゚;)

エロシーン必要?とかその時は思いましたが、いや、やっぱりエロ大事!

何十年経っても、映像が浮かぶ映画は素晴らしいです!

随所に実験的な映像が差し込まれていて、芸術的な映画だったと

自分は記憶しております!(`・ω・´)ゞ


お葬式…ヒットし過ぎましたかね…自分もマルサの女まででしたね…

あとの作品は段々自分とは合わなくなった…(´;ω;`) 

もっと応援していたら、伊丹氏、今も映画撮り続けていたかなあ…


[闇塚の返信]

確かに似てますね(笑)。お二人は友達みたいです。山崎氏は伊丹氏が最も信頼していた俳優の一人。意外に共演は少ないですが。


松田優作案もあったそうです。


映画の詳しい友人によりますと、伊丹氏は「ああいうのが好きなんだよ」ということでした(苦笑)。俺はどうも苦手ですね。子供に観せられません。子供いないけど。


マルサ2以降、戯画色が濃くなっちゃいましたからね。いつの間にか、山崎氏も離脱しちゃったし(苦笑)。

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