北の大地に軍靴は響き


 それぞれの選択の時はもうすぐそこまできている。

 不吉な足音を伴って。



 白雪の大地を蹴立て、その軍勢は進む。

 地響きのごとき音をたてる騎馬にまたがるのは、マントをなびかせる騎士達である。

 その先頭には、黄金の太陽を頂いた白銀の獅子の紋章。紺碧の空を表現した旗が冷たい風に翻る。

 その隣に並ぶのは純白の旗。中央には目の覚めるような鮮やかな青色で、太陽と翼の聖印が縫い取られている。

 サザンダイズとソレア教。どちらも中央大陸では知る者のいない紋である。

 だがソレア教が『絶対中立』を謳う以上、この2つが馬を並べることはありえない。もとい、あってはいけないことだ。

 しかし、さらに異常なのはそこに続く3つ目の旗印。藍と白、2色の地に銀の月と1つ目の龍。イストムーンの紋章だ。

 中央大陸を支配するこの3つが手を結べば、おそらく世界すら容易く飲み干せるに違いない。

 だが、その強大な力が集う目的はまったくもって明かされていない。


 彼らが何を目指し、どこへと向かっているのか。

 遠くで鳴り響く軍馬の音に怯えながら、北大陸の住人達は日々を過ごす。

 だが、この時点ではまだその暴力がまさか自分達に向けられるなどと、彼らのうちの誰一人として思っていなかっただろう。


 白き軍勢はまず、港をすべて封鎖した。軍用魔術結界まで張った、徹底したものだ。

 整えられた舞台。

 閉じ込められた世界で、惨劇は幕を開ける。


 最初に犠牲になったのは、北大陸の中で最も南に位置する村だった。

 雪を染め上げる紅蓮の炎。蹂躙され、踏みしだかれる家屋と家畜。まるで見せしめのように殺される男達。

 彼らは全て『塔』となった。

 血と臓物と悲鳴は、白く美しい形をした終焉おわりを迎えた。


 そして、生き残った女子供は告げられるのだ。

 恨むのならば、かの大罪人を恨めと。

 そして「伝えろ、広めろ」と。

 紺青の髪に漆黒の瞳を持つ不死の悪魔に。同じく北の大地に住むすべての者に。



 ――1人で来い。逃げれば殺し続ける



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