神の石
神の石、紅の予言。
さまざまな名で呼ばれる「それ」がサザンダイズ領土内の遺跡から発見されたのは、今からざっと二十年近く前だと言われている。
そう、彼は話した。
「発見された当初、これは紅く脈打って心臓そっくりだったらしい。発掘隊も、初めはこれが何かわからなかったんだと」
誰もが、その発掘物の奇妙さと不気味さを恐れた。
それが流れに流れて、国の研究所にて管理・分析をされることになったのだ。
そして、国でもトップレベルの魔術師や考古学者が集まって正体を探ろうとした。
「だが、結局そいつの正体は不明なまま五年の時が流れた」
石はいかなる魔術も受け付けず、あらゆる武器でも砕けなかった。
わかったことは、その石が現存する魔術体系とは全く別の、想像も出来ないほどに高度な技術で作られていること。
「正体不明の石の手がかりを得るため、ついに研究機関は禁忌に手を染めた」
「禁忌?」
「ああ。――人間の脳に、そいつの情報を直接送り込んだのさ」
意識操作系の魔術を利用したその実験は、高い有用性があった。
被験者に選ばれたのは、死刑を待つのみの囚人たち。
当初は人間の意識と石を繋げ、被験者は手に入れた情報を報告する予定だった。
だが、すぐにそれは無理だとわかる。
――被験者が、実験中に高確率で死んでいったからだ。
運よく生きていた者達も、もはや話せる状態ではなかった。気が狂った彼らは、一時間以内には死んだという。
だから、研究者達は方法を変更した。実験中に被験者たちに紙とペンを持たせ、情報を描かせたのだ。
「幾人もの犠牲を払った末にわかったことが、これがどうやら神話の時代に作られたらしいものだということ。そして、人間の身体に近い機能を持っているらしいこと」
そうしているうちに、囚人達は全ていなくなった。
次の被験者を探さざるを得なくなった国は、ある計画を打ち立てる。
「目をつけたのは、身寄りのない子供だった」
「嘘だろう…?」
クロスは茫然と呟いた。
そんなこと、あまりにも人間としての良識に外れた行為だ。
華やかに栄えている大国が、裏でそんなことを行っていたなど許されることではない。
「事実だよ。成長過程にある子供は、力が馴染みやすいからな。それに、サザンダイズには孤児が溢れていた。実験台には困らなかったというわけだ」
彼らがいなくなっても、誰も気にしない。
気にしたところで、力無い者の訴えをもみ消すことなんて簡単だ。
死ねばまた補充すれば良い。
囚人達と違って、子供はいくらでも生まれる。
どうせ飢えや寒さで死んでいくところを、先に間引いてやっているのだ。手間を省いてやってる分、むしろ感謝されても良いくらいだ、と笑いながら当事者達は言っていた。
「嫌な考えだな。吐き気がする」
「俺もだよ」
吐き捨てるようなクロスに真顔でアッシュも同意した。
そこで、クロスは何かに気づいたように首を傾げた。
「しかし、お前はさっきサザンダイズの者ではないと言ってなかったか?」
「そうだよ。俺はその時サザンダイズにはいなかった」
「なら、どうしてそんな計画のことを知っているんだ。まさか連中はわざわざ他国からも子供を連れてきていたのか?」
クロスの疑問に、アッシュは首を横に振った。
「いや、あいつらはそんな危険はおかさなかった。さらってきてたのは、みんなサザンダイズのスラムで捕まえた子供達だけだ」
だが、それならアッシュが巻き込まれたことと矛盾する。
ますます不可解そうなクロスへ向けて、アッシュは言った。
「いるだろう。当時から、サザンダイズの動向を確認したがっていた奴らが」
クロスの顔がこわばった。
サザンダイズとは決して良好な関係ではなく、現在でも大陸の覇権を巡って争っている大国。中央大陸を二分する双華の一つ。
「お前、イストムーンの兵士だったのか?」
「兵士、なんて上等なものじゃなかったけどな。ちょうど十年前。俺はサザンダイズが狂う遺物の真相を探るため、あの国から派遣された」
そして、そこで見てしまった。
地獄を。
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