幕間 罪人 

 森の奥の、さらに深く。簡素なつくりの山小屋が一軒建っていた。

 家には明かりが入り、そこでは数人の男たちが車座になって座っている。

 そのうちの幾人かは、先ほどアッシュ達を襲った者達である。

 彼らが口々に話すのを、他の男たちは黙って聞いている。

 彼らはこのあたりを縄張りとする盗賊団である。先ほど二人に襲い掛かったのは、その一部に過ぎない。

「なにもんだ、その男?」

 話おわった男たちが黙ると、聞き手に徹していた他の男たちが口を開いた。

「この暗い森の中で、てめぇらと戦って返り討ちにしただと?」

「へぇ、それがめっぽう強くて…」

「人間じゃねぇっすよ! あんなヤワな外見で、俺たちの誰にもできねぇような動きしやがったんだ。もののけに違いねぇ」

「あいつのせいで、お頭もやられちまったんだ!」

 本人が聞くと「濡れ衣だ」とぼやきそうな言葉を、男たちは矢継ぎ早にまくしたてる。

「だからってなぁ…」

 気のない返事をする他の組員達に、男たちがさらに捲し立てようとした時。


「気になるな」


 上座のほうに座っていた髭面の男が、小さくつぶやいた。

「でっしょう! さすがはロウドの親分」

「おれたちディガルの仇、取ってくだせぇよ!」

 ロウドの親分と呼ばれた男に、他の者達がいっせいに顔を向けた。

「おいおい、マジかよ」

「話聞いてたら、やっても実入りは少なそうだぜ」

「まさかとは思うが、売るのかよ。いくら見目が良いからって、大の男を買うところがあるかねぇ」

「ちげぇねぇや」

 冗談めかして一人が言った言葉に、全員がゲラゲラ笑う。

 だが、ロウドは怒らなかった。真剣な顔と声で言ったものである。

「買い取るさ。それも目が飛び出るくらいの額で」

「はん? どういうことだよ」

 胡乱げな男たちに、ロウドは懐から一枚の紙を取り出す。

「ちょっと前に連れが王都に行ってきてな。そこらじゃあ、今こんなのが出回ってるそうだ」

 それは、ある男の似顔絵と特徴が列挙されている手配書だった。

 紺色の髪に漆黒の瞳。長身痩躯の優男で、歳は二十代前半。

 他でもない、先ほどディガルの者達が語った特徴にぴたりと合致する。

 興味深そうに、項目を順に追っていた男たちの目がある一点で驚愕に見開かれた。

「お、おい! なんだぁ、この金はよ?!」

「しかも手配元は町じゃねぇ! 国だ! サザンダイズじゃねぇか!」

 騒然とする男たちに、さらにロウドは驚愕の事実を伝えた。

「それだけじゃねぇ。連れが言うには、俺たち傷もんがふん捕まえていったら、それまでの罪状がチャラになるそうだ」

 その言葉に、興味無さそうにしていた男たちまでが、色めき立って手配書をのぞき込んだ。

 特にディガルの男たちは、恨みもあるため目をぎらつかせて読み上げていく。

「生死問わず。首を持ってくれば良し。てーことは、殺す前にちょっとくらい痛い目にあってもらっても問題はねぇってことっすよね」

 他の男たちも舌なめずりせんばかりだったが、あることに気が付いて顔を上げる。

「なぁ、おかしいぜ。何で罪状が書かれてないんだ?」

 指摘されると確かに妙なものだった。手配書には、特徴や捕まえる際の条件、賞金額は書かれているのに、肝心の罪状については何一つ触れられていない。

 ロウドも口をへの字に曲げる。

「それが、そこについてはどこも何も喋りやがらねぇ。連れも正確なことは知らんと言っていた」

「んだよそれ。本当に大丈夫なのかよ、この手配書」

「国の印が入ってるから、手配書は本物だぜ。それに、だ。連れが言うには、その男の罪状についての噂が、王都ではまことしやかに囁かれているんだと」

 顔を見合わせた男たちは、口々に一体それは何だと問いかける。

 もったいぶるように間をおき、ようやっとロウドは口を開いた。



「何でも、国の所有するとんでもねぇお宝を奪ったらしい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る