第98話 羅伊戦争Ⅱ 開戦

イタリア王国 ヴェネツィア


3月11日 午前11時


イタリア王国はローマ帝国に対して宣戦布告した。

数時間後、ヴェネツィアにてBenito Amilcare Andrea Mussolini(ベニート・アミルカレ・アンドレーア・ムッソリーニ)は演説を行った。


「陸海空軍の諸君…我々には遂にこの時が来た…世界は変革の時である。

我が国は、これよりローマ帝国に侵攻を開始する。

ローマ帝国は我が国に比べてそれはそれは豊かな国だ。

そして、我が国よりも大きな領土を領海を領空を持っている。

故に、強き国であるのだろう。

しかし、そうだろうか?

…あの国を我が国が手に入れたらどうなるだろうか?

ローマ帝国は1つではない、亀裂があるのだ。

一方、我が国には亀裂は存在しない、国民、兵士、全てが1つとなっている。

亀裂を閉じ開けるには、純粋な1つの力あるのみだ。

この力だけで、ローマ帝国であろうが、容易く崩壊させることができる。

…我々は戦場へ赴く、東にあるローマ帝国は脅威であった、昨日までは、西のサルデーニャ王国は既に滅びた、我が国と同盟を結んだ、ドイツ、日本も戦場へ向かう途中である。

我々は、彼らに見せつけなくてはならない。

我々の強さを、我々の団結を!

世界は、変わる時だ!

我々は、その先駆者として世界に呼びかけるだろう。

我々は、必ずや勝利する!

困難な時代は終わり、我々の正義による長い平和を同胞たちと喜びあうだろう。

既に、通達された。

ローマ帝国の終焉と共に兵士よ、武器を執れ。

新世界はここで、その姿を現したのだ!」




ローマ帝国 ローマ


通達を受けた、ローマ帝国も皇帝ネロによる演説を行った。

開戦したとはいえ、電撃戦…所為、イタリア王国の大攻勢は航空機の航続距離とお互いに空母の非保有状態である為、既存の艦隊による海戦と上陸作戦の為、ある方法を除いては時間が掛かるものだとしていた。

イタリア王国は、大日本帝国から大和型戦艦5隻を譲渡され、それを主力艦隊の幹としたが、いくら旧式の戦艦が多くを占めるローマ帝国に対しても船の絶対数は不足していた。


3月11日 午後1時


昇は、アレッシアの家で彼女共々テレビを見ていた。

朝、電話が鳴り家で待機せよとの命令が出たからであった。

そして、慌てて帰ってきたアレッシアの母がテレビをつけ、国営放送を見た。

ネロは、どこかの場所で演説を行うようであり、たくさんの人が彼の前に居た。


「親愛なるローマ帝国の諸君、そして、前線の兵士達。

悲しいことについにこの日が来てしまった。

…ああ、なんて悲しいことだろう。

宣戦布告した彼らは、すぐに私と終戦交渉の席に着かなけばならないことだろう。

…今日は、レベッカがここに居ない。

彼女は、前線の兵士と共にあるからだ。

…サルデーニャ王国が滅んで以降、イタリア王国との戦いは避けられぬものであると考えられていた。

今日が、その日であった。

ウェールズに住む、ローマ国民よ。

武器を持て、家族を集め、他の家族とも協力し、守りを固めよ。

弾は作られ続けている。

我が艦隊の兵士達は尖兵となり、ローマ帝国の強さを彼らに示すことになるだろ。

我々は、この国を守る為に戦うのだ。

故に、我々こそが正義なのだ。

この国は、全て我々の国だ。

隣の家ではない、家族を守る為の戦いが、人々を守る為の戦いになるのである。

イタリアのムッソリーニは先刻、こう言った…この国には亀裂があると!

しかし、それは亀裂ではなかった。

この国が1つであるという余裕という隙間である。

彼らは、その隙間を弱点だと思い自ら突っ込んだ。

今、その亀裂は閉じつつあり、先に挟まれたイタリアが砕け散ることになるだろう!

我が国は1つの家族だ。

それこそがローマなのである。

今こそ、立ち上がる時だ。

彼らに、正義の鉄槌を下す時が来たのだ!

ローマ帝国、万歳!」


すでに、戦争は始まっており、俺もそれに向けて準備をしなくてはならなくなった。

演説を聞き終え、ステラ達と一緒に武器の手入れを行い、他は何事もなく眠った。


翌日、軍から俺に電話が来た。

内容はどうやらこの前レベッカが言っていた、機械兵の支給とネロからの呼び出しだった。

午後にネロの近衛部隊が俺を迎えに来た。


「おはようございます、長篠昇特務少尉。お迎えに上がりました。」

「…ああ、わかった。ステラ達も一緒に行くように言われたのだが、ロザナは連れて行かなくていいんですか?」

「はい、ロザナはこの家に居てもらいます。では、3人は後ろの車で運びますので昇さんは乗ってください。」

「ありがとう、中尉。」

「ええ、では参りましょう。」


曹長から特務少尉になったが、変化はそれだけではなかった。

実階級での権限は少尉のままだが、敬称が付けられるようになった。

ようは、ネロのお気に入りといった感じで偉いというよりは、敬遠されていると言った方が正しいだろう。

この国での特務というのは、皇帝関連の出来事を担当しており、マフィアの掃討から処刑の手配とか、いわゆる…血まみれの仕事(ウェットワーク)だったり、技術医療関連の管理もそうした特務部隊が担っている。


その中でも、近衛部隊は大型の陸上魔術機械の運用が出来る部隊で、全長32m級の機械狼を乗りこなしたり、はたまたガルダ部隊のように空を魔法で飛んだりすることもできるエリート部隊だ。


とはいえ、近衛部隊全員がそうした能力を持ち合わせておらず、他の歩兵部隊のように戦う兵士も居る。


俺は、中尉に続き皇帝の間の前に行った。

前に、ネロと話した場所であり、中尉はここで待っていると言い、俺は部屋の中に入った。

以前とは、印象が違い…ものすごく無機質な白色の光が部屋を照らしていて家具が展示されているビルの一室のような倉庫のような印象を受けた。


「いらっしゃい、待っていたよ。長篠少年。」

「…皇帝陛下。」

「ああ、久しぶりだね。時間がないので本題に入るとしよう。…こっちに来てくれ。」


ネロは玉座に座っておらず、玉座の隣にこれまた野戦服をと防弾チョッキを着ていた。

恐る恐る彼の方に近づき、玉座の後ろに下がった。


「この下に、隠し部屋がある。使うのは今日で最後だけどね。」

「隠し部屋ですか?」

「ああ、そんなに大したものではないよ。よしっ…。」


ネロは玉座の裏でいくつか操作をすると、玉座が浮き上がり四角いシェルターの入り口のような扉が出てきた。

ネロがその扉を開けるとそこには梯子があり、その中はぼんやりと明るくなっていた。


「…部屋まで遠いのが問題だがね。この部屋の通路はヘスティアの神殿や、ローマ郊外までの5つ出入り口がある。使うことがあるかはわからないが覚えておくといい。じゃあ、ついて来てくれ。」


梯子と階段を降り、長い通路を歩き部屋に入った。

ネロが明かりをつけるとそこはやけに近代的な設備がある大きな部屋だった。


「今日、呼んだのは他でもなく今後の戦争の進行についてだ。とりあえず、そのモニターを見てくれ。」

「…これは?」


モニターには、ローマ帝国とイタリアが2つ映し出されており、無数の赤と青の光点が地図の上に表示されていた。


「これが現在の戦況で、今後の予想進行ルートは2つだ。一つは、ウェールズ占領後、ドイツ、フランスを攻め、このローマへ。2つ目は、南からの進行が予想されている。南は、カイロ、トリポリ、バンガージーなどの都市が防衛線となり、内海での艦隊による航空機との交戦が予想されている。比較的南からの侵攻がしやすとは思うのだが、おそらく北部からの侵攻となるだろう。君は南で指揮を執ってくれ。」

「…わかりました。けれど、こうしてみるとローマ帝国の敗北は考えられませんが。」

「そうだね…確かにそうだが…敵には水の魔女が居る。そして、彼女による攻撃がこれだ…。」

「…水没。北部がほぼ全部水浸しに…どうして?」

「津波だよ。彼女は、沿岸部を津波で襲った後、川を遡上してそこから氾濫させる。ライン川流域は壊滅するだろう。そして、彼女の能力は水を操る能力だ。だから、何度も津波を起こせるし、水を何度も落下させて地面をならすことも出来る。」

「…これじゃあ。」

「ああ、だからレベッカは彼女と戦いに行ったが会えるかはわからない。そこで、君への命令を下す。」

「…命令ですか?」

「ああ…レベッカからナイフを貰っただろう?私の命令はただ1つ…水の魔女を倒せ…以上だ、長篠昇少尉。」

「…わかりました。」

「大丈夫、武器も他の兵士も準備する。空は飛べなくても何とかなるさ。」

「…不安ですよ。それに…どうすればいいのか…。」

「引き金を引けばいい、そうすれば結果は帰ってくる。」


ネロは、そう言った。


海にある光の点は、どこか一点を定めるようにゆっくりと集まって動いていた。


「それじゃあ、そろそろ行こうか。君に渡す機械もあることだし…少年、この国は良い所だったか?」

「はい、一度は来てみたいと思っていましたから。」

「…そうか、ここはもう君の故郷だ。そして、君はローマの子だ。この国を忘れないでいてくれよ…。」


ネロは、何か思い老けたように…ただ、そう話した。

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