第99話 羅伊戦争Ⅲ 西方からの使者
ローマ帝国領 ウェールズ近海 第二海上防衛線
イタリア王国軍は、ローマ帝国北部にあるウェールズ方面へ大規模な艦隊を送り込んでいた。
これに対して、ローマ帝国は地中海への入り口となるジブラルタル海峡の艦をアゾレス諸島付近に配備。
テルセイラ島のラジェス航空基地の航空機により、哨戒が行なわれていた。
3月13日 午後5時、ラジェス航空基地の航空機がウェールズを目指すイタリア王国艦隊を発見。
同日、水の魔女Angela(アンジェラ)によりアゾレス諸島のラジェス航空基地及びその他軍施設が津波により水没、倒壊などの被害を受け無力化、駆逐艦5隻、巡洋艦3隻、戦艦2隻が座礁し、うち3隻が砲撃により大破。
残る戦艦2隻、巡洋艦2隻、駆逐艦1隻はジブラルタルへ撤退。
その途中、巡洋艦ロサにより主力艦隊へその情報が伝えられた。
イタリア王国陸軍により、ラジェス航空基地が占拠された。
3月14日 ローマ帝国戦艦 Soria(ソリア)
ローマ帝国艦隊旗艦ソリアの艦内では会議が行われていた。
そこには、レベッカと艦隊指揮官をはじめとする多くの兵士が集められていた。
議題は勿論、艦隊決戦であり、結論はもう既に出ていた。
とはいえ、それで終わりにはならない。
ラジェス航空基地は、水の魔女により襲撃がされたがおそらく滑走路が無事であり、イタリア陸軍により占拠された後、航空機の運用が予想されていた。
ローマ帝国、イタリア王国共に空母は運用してないが陸上基地からの偵察、攻撃が想定され、今後の作戦の支障となった。
「現在、敵主力艦隊はジブラルタル方面ではなく、ウェールズに進路を向けています。アゾレス諸島は、我がローマ帝国の防衛ラインとなっていましたが事実上の占領状態にあり、既に復旧されたものと考えられます。アゾレス諸島残存艦隊は、レベッカ様の命に従い再びアゾレス諸島に向かい、新たに旧型戦艦5隻、巡洋艦5隻、駆逐艦10隻と合流し明朝午前3時ラジェス航空基地の艦砲に報復攻撃を行います。」
「レベッカ様、ラジェス航空基地の奪還は必要でしょうか?まだ、水の魔女…Siren(シーレーン、(セイレーン))が付近にいるかもしれません。」
「そうです…返り討ちにある可能性があり、この艦隊決戦において我が国は質ではなく量による大規模砲雷撃戦となり戦力の一部を削ぐと言うのには賛同できません。」
「レベッカ様、ここはラジェス航空基地を諦めるしかないかと…。」
「Marco(マルコ)艦隊司令は、どう考えていますか?」
「レベッカ様、私はやはりこのまま艦隊決戦に挑むべきかと…。」
「そうですか…私は先の戦闘は陽動作戦の一環だと考えています。」
レベッカが、そう言うと会議室が少しざわついたがすぐに収まった。
「レベッカ様…しかし、陽動作戦としては確かに考えられますが…一体どういうことでしょうか?」
「アンジェラ…セイレーンは、おそらく南からの攻撃を考えていることでしょう。アゾレス諸島はここから南側にあり、勿論、私も彼女を探しにそちらに向かいます。別に、それなら何も問題はありません…が、ここで先の戦いを振り帰りましょう。まず、我が国は敵の主力艦隊を発見してすぐに、アゾレス諸島が襲撃されました。…ですが、敵の輸送船団や上陸艦隊は発見できていません。」
「はい…しかし、それならすぐに見つかることでしょう。」
「…どうやって、捜索します?」
「本艦にもレーダーはありますが、おそらく甲板員や航空機による目視となるでしょう。」
「そうでしょうね。私の予想となりますがおそらく見つからないでしょう。」
「…レベッカ様、それでは陽動というのは敵艦隊の捜索に我々がやっけになるということですか?」
「いえっ、違います。敵艦隊と水の魔女、そして、誰も発見出来なかった敵の陸上部隊とその輸送船団…それをどう考えるかです。」
「それは…ひとまず輸送船団のことは後に考えるとして主力艦隊を…。」
「はい、そこにラジェス航空基地に敵の陸上航空機を加えます。明日の明朝の攻撃を行わなければ脅威になるでしょう。」
「そうではありますが…これでは欺瞞作戦になるのではないでしょうか?」
「はい…ですから、これはこの主力艦隊から艦隊を派遣させないという目的の陽動作戦です。」
「…なるほど、であるのなら…セイレーンはやはり南に…レベッカ様、彼女とお戦いになるつもりですか?」
「ええ、その為に私はここにいます。では、艦隊決戦について話しましょう。マルコ艦隊司令?」
「はっ!」
「作戦を…。」
「はい。我が艦隊はまず、駆逐艦による前方M字型の陣形と通常の輪形陣を取りながら付近での潜水艦の発見や、偵察を行いながらイタリア王国方面へ侵攻します。中核となる巡洋艦は駆逐艦よりも内側に輪形陣を取り、旧型の戦艦は本艦を中心とした左右に展開し、前方後方に標準戦艦、そして新鋭艦隊は艦隊の指示を取ります。敵発見後は、まず駆逐艦、潜水艦による雷撃、そして艦隊は楔形の陣形を取り3方向からの集中砲火を考えています。」
「セオリー通りですね。おそらく大和型戦艦も敵艦隊の中枢にいると考えれますし…。」
「はい、ですが…長距離からの砲撃戦の場合、この戦法は通用しません。そのまま、近距離に肉薄しての撃ち合いとなり、大和型戦艦の場合、大中小砲弾250発程度撃ち込む必要があるかと…。こちらとしては、標準戦艦による正面火力での撃ち合いが好ましく、何とかそれに持ち込むしかありません。狙うべきは砲の破壊であり、主砲、副砲塔の計7基21門の撃破が必要になります。…雷撃による損傷を望みますが、敵艦隊は厚いことでしょう。」
「…460mmの砲と最大381mmの砲、中古とはいえあの日米海戦でアメリカに勝利した日本艦隊の船だ。艦を貫くのは容易だろう。」
「確かにそうですね…ところで、海戦の日の天気の予想はどうなっています?」
「晴れです。」
「私は、海を燃やして低気圧を発生させようと思います。」
「…嵐を起こすつもりですか?」
「はい、彼女が津波なら私は嵐ですよ。…では、私は南へ向かいます。艦隊は敵主力艦隊との海戦、そして、ラジェス航空基地への攻撃を命じます。」
「了解しました。…これより、敵主力艦隊との艦隊戦に移る。総員奮起せよ!」
「「はっ!」」
「では、ご武運を!」
「はい、必ずや敵艦隊を沈めてみせます。」
「期待しています。…それと、海で何か奇妙な音がしたのならすぐに、爆雷を投げなさい。」
「はっ!」
レベッカは、甲板に出ると北西面を目指して飛んだ。
海水を温め低気圧を無理やり発生させるためである。
「まったく…けっこう大変なんですけどね。」
そう愚痴をこぼしながら、空を飛び海を温め始めた。
アゾレス諸島 テルセイラ島 近海
午前3時
「撃ち方、はじめ!」
アゾレス諸島に戻ってきたローマ帝国艦隊は、ラジェス航空基地への艦砲による陸上攻撃を行った。
駆逐艦により、潜水艦1隻を沈め。
断続的に砲撃を行っていた。
津波により、沿岸部の街は静かであり、奪還のための陸上部隊はまだ投入されることはなく、その後は哨戒と偵察が行われていた。
「…ソナーに不信な音を感知!」
「敵艦か!」
「いえっ…なんでしょうか、人の声のようなものとエンジン音が…。」
「そんなわけあるか、貸してみろ…。まさかな…。艦橋に連絡、海面下に不審な音源を検知、深度90m。」
「了解、海面下に不審な音源を検知、深度90m。」
「…音源、移動中…。」
「爆雷による攻撃が認められました!」
付近の駆逐艦と共に爆雷を投下した。
「…音源消失。」
「引き続き、探知を継続しろ。私は、海面を見てくる。」
敵の潜水艦であれば海面には異常がないが、やはり気になったのは人の声だった。
何よりも潜水艦乗りであるなら潜水中は声を沈めているはずであり、艦内を歩き回りはしないと思ったからだ。
そして、その結果はすぐに明らかになった。
「何か見つかったか!」
「はい、敵の潜水艦の兵士が…。」
「生きていたのか?」
「いえっ…死にました…おそらく、減圧症でしょ。パニックになって船から逃げ出したんでしょうか?それにしては、奇妙でしたが…。」
「他には、何か気が付いたことは?」
「はい、どうやら陸軍の兵士のような服装でした。濡れていますが、緑色系の色合いです。」
「…艦長に報告は?」
「しました。」
「…ラジェス航空基地を攻撃した地上部隊は海中から現れたのかもしれない。」
「そんなことは…。」
「いやっ、セイレーン…水の魔女ならその可能性があるかもしれません。」
「…。」
「…浮遊物、発見…敵軍兵士の可能性あり。」
「緑色…間違いありません、敵陸軍兵士です。」
「…艦長に連絡しろ、早く!」
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