第97話 羅伊戦争Ⅰ 火の魔女と義眼

ローマ帝国 ローマ


3月6日


あまり気分はよくはないが、残酷にも翌日になるものだ。

ステラ達に慰めてもらうのはなんか違うのような気がして、喪失感のようなものを持ちながら朝食を食べた。

今日は、アレッシアの父、Arnoldo(アルノルド)・Marino(マリーノ)が働いている研究所に向かった。

研究所は、ローマから少し離れた海の近くにあり、そこまで移動した。

軍の兵士が見張りをしており、いくつかの棟があり、所内はたくさんの部屋があり多種多様な研究が行なわれていた。


「…どうだ、広いだろう。私の研究室はこっちだ。」


そういうと、アルノルドについていき病院のような感じのする建物に入った。

彼の研究は生体工学らしく、人の部品の研究をしていた。

その中でも特に目…眼球を魔術を使いながら制作していた。


「さて、それでは…そこに座ってくれるかい?」


病院の診察室のような部屋に座り、白衣に着替えたアルノルドは手を洗い、消毒し、ゴム手袋を嵌め、俺の目を診た。


「…よしっ、昇(のぼる)君。急で悪いのだが手術を行う。」

「…何の手術ですか?」

「目の手術だ、3時間くらいですむ。」

「何か病気にかかっているんですか、俺は…。」

「病気ではないから安心して、ただアップグレートするだけだから。」

「アップグレードって…。」

「大したことはない、見ての通り私は、研究者であり一応医者でもある。今回の手術は君の両目を摘出して、魔術による能力を付加した目に交換するだけだ。よく行われている手術だからそんなに心配はない。」

「本当ですか?」

「ああ、ただ今回は君の意思に関係なく実行する。…今、君にそのことを通知したので早速手術室へ行こう。」

「…ええ、いくらなんでも…それは…。」


そう言い終わる前に兵士が入って来て俺を押さえつけた。

看護師はすぐさま、俺の服を捲り、点滴を行った。

すぐに、眠気に襲われた。


目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

ただ目には包帯が巻かれていて、視界もなく、服も病人の服装だった。


「おはようございます、そのままじっとしていてくださいね。」


看護師の声が聞こえ、包帯を解かれ、まぶしく感じながら目を開いた。

目には、ちゃんと看護師の顔が見えていた。


「お待たせ、手術は成功だったよ。これから、テストをするから移動しよう。まだ麻酔が残っているかもしれないから、車椅子に乗ってくれ。」


朝、起きた時のような倦怠感が体を覆っていながら、車椅子に乗り視力検査などの検査を行った。


「検査はだいたい済んだから、手術で付加した能力について説明しょう。」

「…どんな能力だったんですか?」


麻酔がまだ効いてはいたようだが、ぼんやりとそんなことを口にできた。

ものすごく眠い。


「まずは、暗視能力で暗いことろが若干見やすくなる。色自体は見えないが目である程度修正されて緑色の線として大雑把に形がわかる。2つ目がスキャン能力だ。ちょうど兵士を呼んでいるから測って見てくれ…。」


そう言って呼ばれた兵士は、女性で年は20歳位で下着の上に緑色のTシャツを着ていただけだった。


「能力を使うのは簡単だ、少し彼女に注視すればいい。一度使ったらそのまま表示されつづけるからキャンセルする時はもう一度、彼女を見るとキャンセルされるようになっている。それじゃあ、オンオフの切り替えを確認するから、見えているときは手を挙げてくれ。それじゃあ、オン、オフ…オン、オン…そうそう、オフ、オン、オフと…よしっ…それじゃあ、もう一度起動されてくれ。今、君の目に表示されているのは彼女の身長などの情報だ。まずは、身長を言ってみてくれ。」

「163㎝。」

「その身長は、あくまで推定だから誤差が出ている。彼女の身長は162㎝で1㎝分が靴で問題ない。次の機能を試そう。横を向いてくれ。」

「はい…。」

「昇君、彼女の3サイズは?」

「ええっと…88-62-86。」

「ああ、そのくらいか…。」

「マリーノ先生?」

「いやっ、これはただの機能チェックで…。」

「まったく…。」

「よしっ、次は体重の推定値を言ってみて…あいたっ!」

「君は、優しいから言わないわよね?」

「はっ、…はい。」

「まったく…セクハラ行為なんですけど。ところで、先生…まさかとは思いますが他にも不埒な機能がついてあるのではないでしょうか?」

「そんな機能は…。」

「たとえば…透視とか?」

「そこまで、夢のあるような機能はないよ。」

「それで、他には?」

「しいて言うのであれば、年齢の推定に肌年齢も考慮されているってところかと…。」

「昇君、お姉さんは何歳くらいかな?」

「…。」

「じゅっ、十代後半…です。」

「あらっ、先生いい機能じゃないですか!」

「えっ…ああ、そうだね。」

「では、これにて失礼いたしました。」


そう、彼女は言い終えると部屋を出ていった。


「いやあ、助かったよ。彼女は、私の部屋付きの兵士でね。…浮気相手ではないから、安心してくれ。…まあ、家内は信じてくれいないのが問題だが…ところで、本当は何歳だったのか、教えてくれるかい?」

「…二十代後半です。」

「…ありがとう、助かった。測定にはある程度誤差があることに気をつけてくれ。今日は、手術は終わったからもう大丈夫だ。研究所の中を歩いて来るといい。私は、報告書を書かなければならないのでこの部屋に居るから、2時間くらい経ったらその時には終わっていると思う。」


俺は、部屋を出てしばらく研究所の中を歩いていた。

しばらく歩いて、施設の境にある庭に足を運び、白いベンチに腰を下ろした。

目は特に変わったことは無さそうで、ただベンチに座っていると誰か来るのがわかった。


「レベッカ?」

「こんにちは、昇さん。」


どこからともなく、彼女が現れた。

今日は、可愛らしい服装で研究所には似合わなさそうなスカートを履いていた。


「なんで、こんなところに?」


そう尋ねると、俺に会いに来たのだと彼女は言った。


「手術は済んだようですね。」

「ああ、何かいろいろと能力をつけてもらえたみたい。」

「そうですか…。」


俺は、こっそりレベッカの年齢を確認したところ表示が999+になっていた。

…たぶん、エラーだろう。

レベッカは、特に気にせず俺の隣に座った。


「では、本題に入りましょう。忙しいので、今日はそれを話したら私は行きますね。」

「それは、残念…。」

「昇級おめでとうございます、長篠昇少尉。」

「えっ?」

「今日付けで、あなたはローマ帝国特務少尉になりました。おめでとうございます。」

「…そうなんだ。」

「はい…。」

「少尉か…でも、なんで急に?」

「もうすぐ戦争が始まります…いえっ、既に始まっています。イタリア王国がウェールズ近海に進出していることがわかっています。おそらく、私と同じ魔女もそこには居ると思います。」

「なんて名前の魔女なの?その…女の子は?」

「彼女は、水の魔女Angela(アンジェラ)です。イタリア王国大艦隊を率いて侵攻してくるでしょう。」

「イタリア王国にも、ピョートルさんみたいな人は居るの?」

「ええ、居ますよ。Benito Amilcare Andrea Mussolini(ベニート・アミルカレ・アンドレーア・ムッソリーニ)という方です。」

「…ムッソリーニって、あの人?」

「ええ、そうです。日独伊三国同盟の際の東條英機、ヒトラー、そして、ムッソリーニです。ヒトラーはナチス・ドイツ、東條は大日本帝国を治めています。」

「…敵なの…その3人は?」

「それは、内緒です。私達は人を見るのでなく国を見ています。そして、イタリア王国の歴史も昇さんの世界と違うのであまりお気になさらず。」

「…。」

「イタリア王国はサルデーニャ王国を併合してから早500年、今世界は世界大戦と言ってもいいほど立て続けに戦争が起きています。昇さんもそう感じませんか?」

「感じるというか、戦争に参加しているというか…。」

「まだまだ続きますよ…おそらく…。」

「でも、俺は戦わないと…。」

「はい、その通りです。昇さんには機械兵1個小隊の指揮を任せます。数は少ないですが、性能は最上位の物です。イタリア王国は、おそらく北部からの侵攻だと考えられます。アンジェラが津波を起こすと考えられるので私は彼女と戦わなければなりません。」

「津波か…。」

「はい…ローマ帝国艦隊もすでに海に出ているので開戦はもうすぐです。よろしくお願いいたしますね、少尉。」


レベッカは、俺のことを名前で呼ばなかったのは兵士として戦えと言いたかったからだと思った。


「それじゃあ、もう行きますね…少し離れてください。」


ベンチから立ち上がって俺は彼女と少し距離を取ると暑さを感じた。

彼女には、白いファンタジーの世界でよく見られる天使のような大きな翼を広げていた。


「…レベッカも飛べるの?」


ムガル帝国でガルダ部隊と会っていた俺は、人が飛べること自体には特に驚かなかったが、彼女から神々しさを感じていた。


「ええ、勿論。それに…言い忘れていましたが私は火の魔女なんです。このローマ帝国を紡いできた皇帝と共にあった核、崩壊、塵、雷、知、質量、速度、夢の8人、そして、その最後である9人目の魔女です。」

「レベッカ…その…最後って、この国が滅びるの?」

「ムガル帝国は滅びました、ならこの国もその可能性があっても不思議ではありません。」

「…そっか、そうだよね。」

「では、また会いましょう。」


そう言い残し、彼女は飛び立ってしまった。

空気を燃やしながら進んでいるのだろうか?

北西の方へ飛んで行ったんだと思った。


「最後の魔女か…。」


そうつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る