第96話 血まみれのオリハルコン

ローマ帝国 カゼルタ・グラッツァニーゼ空軍基地


2月21日


源氏日本との共同演習を終え、彼らは帰国することになった。

源氏日本は平家日本と現在は停戦の最中にあった。

この源氏日本と平家日本の関係は…ようするに、歴史の授業と同じで京都を境に東を源氏、西を平家が支配していた。東の将は源の名がつく者、西の将は安徳天皇と平の名のつく者が治めているという。


打ち上げとばかりに、ローマ帝国の兵士と日本の兵士はグラスを叩き合い、共に踊り、笑いあった。

それは、もちろん俺も同じだった。


「主殿、飲み過ぎでは?」

「…いやっ、大丈夫…まだ、一口目だし。」

「一口の量が多すぎます。」

「…じゃあ、飲んでいいぞ。残り全部。」

「…では、お言葉に甘えて。」


紅(くれない)は、俺からビールの入ったジョッキを取り上げると一気に全部飲んでしまった。


「…なっ、さすがに全部は…飲み過ぎだって!」

「主殿との間接キス…と言ったところですね。」

「紅…?」

「どうしましたか、主殿?私は酔いませんので…。」

「じゃあ、今のは?」

「冗談ですよ、いつかお使いになってください…。」

「そんな時、いつ来るかな…。」


まあ、自分も酔わない…というか、本当は飲んじゃダメなんだけどね。

普通に、頭が悪くなるし、薬物に並みに依存性あるし…基本的に規制のない清涼飲料とかのソフトドラックだけど。


とか、なんとか思っていると新田中尉の姿を見つけたのだが…。


「主殿!いけません!」

「紅っ、ちょっと!」

「おっ、昇ではありませんか?どうですか、一杯飲みます?晩酌しますよ!」

「新田殿、早く服を!」

「服ですか?いいじゃないですか、皆さん上半身裸ですし?紅ちゃんもそんな服着てないで脱いで見るのはどうですか?」

「遠慮します!」

「そうですか…それは、残念。ああ、昇さん。言いたいことがあるのですがまず私の酒を飲みやがれです、失礼いたしました。」

「ああ、主殿!見てはなりません。」

「むむっ、嫉妬ですか紅さん?そうですよね、あなたの胸貧相でしょうし…くすくすつ。」

「なっ、大きいですよ!私は!」

「本当ですか?」

「ええ、驚かないでください。」

「こらっ、紅!」


背後から両目を覆っていた紅の手が外れ、酒に酔って何故か胸にさらしを巻いて下が袴のままで帯刀と銃を持っている新田愛奈中尉はさらしが巻かれていない上部の谷間が見えていたというか、大佐はどこに行った!

寄せているのはわかるが、それでもかなりの胸の大きさだとわかるくらいの谷がそこにはあった。

Dカップよりもっとあるのかな?

よくわからんけど…。


「それで、話ってなんだ愛奈?」


酔ってるのをいいことに、タメ口で彼女に話しかけた。

大佐とその他の兵士は遠くの方で死屍累々の状態になっていた。


「交流しましょうよ、私の脇差しとその刀を交換しましょうよ!」


そう、空になったジョッキに持っていたワインの瓶からワインが注がれていた。


「素面なんて、ずるいですよ!一気、一気!天の国までレッツゴー!」

「それじゃあ、行っちゃいますか!」

「いぇい、紅ちゃん見てみて!」

「主殿!私が上着脱いで帰った間に何飲んでいるんですか!」

「…紅、なんでそんな下着を!」

「ああ、もう…見ないでください!」


紅の赤いブラウスと、前にも言ったように大きな胸を俺はもちろん見ていたが急に恥ずかしがるので罪悪感がしてきた。

とはいえ、彼女はロボットなのであって…いや、そう考えるのは人として問題がある。

周囲の兵士は、ひやかしの声を上げるがそれも少しだけ、彼女たちよりも過激な格好というか、普通にポールダンスまで始まり盛り上がっていた。


「紅ちゃん、大きいじゃないですか。いいですね、昇は幸せ者で!死んしまえ!変態、エッチ!<<自主規制>>にまみれて逝っちゃえ!」

「それでまでに、千人送って見せるさ。」

「それじゃあ、この刀貰いますね。」

「えっ?」

「は~い、脇差しでぇす。予備のだから安心してね。そんで、このぶっとい刀なんていうの?」

「spada(シュパータ)。」

「えっ、そっ…そんなこと言うなんてえっちですね。紅ちゃんにしてもらってくださいよ、そういうことは!それじゃあ、またいつか会いましょう!グラシアス!」

「ああ、さようなら!」


そういうと、酒に酔いまくっている侍娘は自分の上司である大佐にビールをかけ起こし、また酒を飲み始めた。


「…紅、服着て。」

「…主殿。」

「紅?」

「今夜は、お任せください?」

「…何を?」

「内緒です。」


酔えないのはけっこうつらいのかなと思いながら、翌日。

彼らを乗せた飛行機を見送った。




ローマ帝国 ローマ


3月5日


ローマへと戻った俺と紅は、アレッシアの家に帰った。

そして、今日俺はRebecca(レベッカ)に呼び出された。

家の前に、車が止まり乗り込んだ俺はローマにある、神殿のような場所へと向かった。


車を降りると、巫女…シスターのような女性たちが働いていた。


「こんにちは、昇さん。お元気そうで何よりです。」

「ああ、うん…。ところで、レベッカ…ここはどこ?」

「ウェスタ神殿です。」

「ウェスタ神殿?」

「はい、竈(かまど)の神ウェスタを祀っているんです。それで、彼女達はウェスタの巫女達です。」

「そうなんだ。」

「ええ、綺麗ですよね。彼女達は…でも、手を出してはいけませんよ。ウェスタの巫女は処女でなくてはいけません。淫行に及んだ場合処刑されてしまいますので…。」

「…。」

「昇さん?」

「ああ、いやっ…別に何も考えてはいないというか…。」

「まったく…。昇さん…あなた酒も女も煙草も全部やっていたでしょう?」

「やってない…です。」

「紅ちゃんが見ていましたよ。」

「うっ…。」

「どうせ、そうなるとわかっていましたが…。」

「ごめん…ところで、俺をここに呼んだ理由はなに?」

「見せたいものがあったのでお呼びしました。バチカンへ向かいましょう。」

「バチカン?あのバチカン市国?」

「はい。国ではありませんけどね。」

「そうなんだ…。」

「では、行きましょう。すぐに、着きます。」


再び車に乗り込み、バチカンへ。


そして、あの有名なBasilica di San Pietro in Vaticano(サンピエトロ大聖堂)の前の広場に着いた。

テレビ番組で見た時のより、さらに古い感じがしていて広場にはローマ帝国の兵士が居た。


そして、そのまま兵士とロボットに守られている大聖堂の中に入り奥にある聖ペトロの司教座の前に着いた。


「…この下です。」

「どうやって、下に下りるの?」

「入るのは、簡単ですよ。」


そういうと、レベッカは椅子に乗り左手から炎を出しステンドグラスの鳩の前に掲げた。

その瞬間、椅子の下の部分が浮き上がり4人の像の下の部分がちょうど柱となって台座を持ち上げた。


「…エレベーター?」

「はい、2人で乗るには少し狭いですけどね。」


エレベーターに乗るとそのまま、地下に降りていった。

レベッカのよい香水のにおいと、代謝がいいのか少し高めの体温を服越しに感じていた。


「着きましたね。」


エレベーターの扉を開けるとそこは金属の海だった。

比喩というよりは、本当にそうで液体状の金属が蠢いていた。

洞窟のような感じはするが、真っ暗というわけでもなく青白い照明が奇妙な感じをしていて不気味だった。


「触っても平気ですよ。」

「触りたくはないかな…。」

「オリハルコンと名付けています。」

「レア装備っぽい。」

「常温の液体金属で、スライムや、艦船の装甲に用いられています。」

「なるほど…スライム?」

「ええ、そうですよ…ああ、昇さんは見ていませんか。建設現場に工事用のスライムがいるのですぐに、見れますよ。」

「…?…ああ、わかった。」


理解は追いつかないが、なんかすごいのはわかった。


「では、入りましょう。」

「いやっ、かぶれちゃうかも…。」

「大丈夫ですから!」

「うわっ!」


後ろから押されて、液体金属の海に落とされたと思ったら液体金属は俺を受け止めてくれた。


「どうですか?」

「…柔らかい?」


そう言った矢先、すべり防止の溝のある床のように硬くなったスライムが俺を持ち上げて、1本の道を作り出していた。

二人で、その長い一本道を先に進むと金属のインゴットと大量の武器があった。


「…レベッカ、これは?」

「最終決戦の為の武器です…昇さん、これを…。」


レベッカはそこにあったナイフを手に取り、俺に渡して来た。

アメリカ軍で使われているような黒いナイフだった。


「そのナイフに使われている金属は私達にとっての脅威です。」

「どういうこと?」

「この世界の人達には危害がないですが、私達…昇さんのような他の世界の存在…つまり、魂を破壊することができるんです。」

「…魂が破壊されるって…どういうこと?」

「私達はこの世界、元の世界でも死者なので魂が破壊されることなく3㎏ほどの石になります。昇さんは、この世界では死者ですが、元の世界では生者なので…この世界で魂を破壊された場合、還れなくなります。」

「…つまり、死ぬってこと?」

「勿論、そうでもありますが…それだけではありません。この世界は元から不安定なんですけど…。昇さんたちはさらに不安定な存在なんです。入間基地に居た方々、何人までの魂が破壊されてもちゃんと元に戻るかわかりませんが、予測される最悪の死者数はこの世界の全人類とこの世界と繋がっている世界の全人類です。昇さんの世界だけで70億人、全員死にます。」

「じゃあっ…もう帰っても…。」

「その場合は、昇さんはもう元の世界には帰れません。この世界で何億年も生きるだけです。」

「…。」

「ですが、私達とあなた方には最後のチャンスがあります。」

「どうすればいいの?…というか、わからないよ…なんでこんなことに…。」

「これは人為的な要因なんですよ…昇さんはまだ知らないとは思いますが、つらいんですよ…私も…。死んだはずなのに、死後の世界に行けずこの世界で生きるのは…。」

「いったい、どうすれば…。」

「世界なんか救わなくていいんです、勿論そう思わなくても…。ただ、誰も自分のことを知らず、死ぬことも出来なくなる…私達みたいになるのは止めてください。私達は、あなたを導きます。…昇さんは、他の方々と同じように人々と、魔女と戦い続けてください。」

「…それだけでいいの?」

「そうです…もうすぐローマ帝国とイタリア王国の戦争が始まります。」

「戦争が…。」

「生命に解放あれ…おつらいのはわかりますが、ここを出ましょう。その後は、私が何でも聞きます。」


そう、レベッカは笑顔で微笑んでいた。

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