第95話 First enemy
ローマ帝国 カゼルタ・グラッツァニーゼ空軍基地
温泉旅行から帰り、再びアレッシアの家と軍基地を往復しているような生活に戻って来た。
今日は、西方にある源氏日本からやって来た軍人達との共同演習をすることになっていた。
日本ではなく、源氏日本と呼ばれているのはこの世界の日本がいくつかあるので、その呼び方だという。
いくつかというのは、日本が藩ごとに分かれているのではなく普通に国として存在しているからだ。
「…主(あるじ)殿、あれが侍という方でございますか?」
「う~ん、どうだろう…。」
「源氏の兵士は、刀を持っている兵士が普通なのですか?」
「いやっ…さすがに、あんな長い刀は持っていないと思うよ。」
今、俺が居るのはカゼルタ・グラッツァニーゼ空軍基地で3日前からこの基地に居た。
ロボットの紅(くれない)も一緒について行くことになり他のロボットと共に仕事をしている。
ローマのアレッシアの家から、この基地までは片道200キロメートル以上離れてはいるが何と言ってもあのナポリの町の近く!
これだけで、おつりは出そうなのだが今は2月である。
なので、海沿いはめちゃくちゃ寒い。
共同演習と言ってもほぼ交流会みたいな物で、俺はFiat CR.32と言う複翼機の戦闘機に乗っていた。
ローマ帝国の航空機の開発は遅れているようで、最新鋭のMC.200、サエッタと呼ばれる戦闘機はローマ付近の基地に配備されており、大規模な更新を行っているのだが生産が追いついておらず、大半が旧式か複翼機である。
源氏日本は、ローマ帝国よりも技術は進んでいるが航空母艦を持っておらず、大日本帝国よりも見劣りはするが将来的な友好関係を築いておきたいと遠く離れたこの国に来てくれたという。
源氏の兵士は、若い兵士が多く…その中でも紅が気になったのはとある女性の兵士だった。
彼女は、1メートルくらいある長い刀を小柄ながらに持っていた。
反りの大きな刀ではなく、侍が持つような反りの少ない刀だった。
服装は、軍服ではなく若干大正浪漫が感じられるような装いで袖は締まっており、刀を振るには良さそうだと思った。
「主殿、あのような長い刀をあの方はどう振るのでしょうか?」
「大きく振るんじゃないの?」
「手合わせを…してみたいのですが…。」
「…やめといた方がいいんじゃないかな…間合いで負けそうだし。」
「むっ。」
そう、紅は不機嫌そうに声を出した。
紅達は、勿論というか兵器を操ることができる。
なので、ただのメイドロボットではないのだ(?)
とまあ、そんな感じで彼女を見ていたわけだが…。
「嬢ちゃん、その剣はなんだい?」
「…。」
「おっと、いやあ…おっかねえ。」
「やめとけ、やめとけ…源氏のお偉いさんだぞ…。」
「しっかし…かなり長い剣だな。日本刀というか、なんていうか…いかにも侍って感じ。」
「おいおい…。」
何やら嫌な予感がしてきたというよりは、平常運転である。
少なくとも、彼女のことを異性として見てない振る舞いだし…。
何より、この国の男は女性恐怖症が多くなっているらしく、俺もそれに該当しているらしい。
まあ、別に驚きはしないが…。
「…。」
「新田中尉、そんなに怖い顔をしなくても…。」
「この刀を面白がられるのはあまりうれしくはない。」
「しかし、やはりその刀は目立ちますよ。」
「…。」
「すいません。」
彼女は、黒色の長い髪で、瞳の色は薄い青色のような透き通る色だった。
身長はだいたい標準的な日本人女性より小さいくらいで、小柄な印象であり、黒いヒールのある靴で背を盛っていた。
それはそれは、一つ間違えれば幽霊のように見えてしまう日本人女性像そのままだった。
年はたぶん、同じくらい…。
なんとなく、彼女の背後から近づきながら右から回り込むようにゆっくり移動した。
案の定、彼女に気が付かれてしまったが何も言わなかったのでそのまま、通り過ぎようとしたのだが…。
「ずいぶん、長い刀をお持ちですね。」っと、紅が彼女に話しかけてしまった。
「ええ…そうよ。…何か?」
「いえっ、是非ともお手合わせを願いたいなと思いまして…。」
「…。」
「紅!すいません、ほら…行くよ…。」
「おっ、嬢ちゃん達…何かやんのか。」
「よしっ、賭けは無しだが…交流は交流だ。」
「大佐!」
「新田(にった)中尉、少しは見せてあげたらどうだ?」
「…それは、命令ですか?」
「さあ、どうだろう…。」
どうやら、源氏の大佐は手合わせに賛成した感じだった。
まあ、結果としては良かったのだろう。
人が格納庫の前に集まってきた。
髪を解けばこれから戦う新田という兵士と同じ見た目になる紅は、彼女とは異なる装い…ようするに、巫女装束のような色合いのもので、ちゃんと靴も履いている。
こんないかにも、間違って伝わってきた2本差しのイタリアのロボット娘が、袴の長い刀を使う少女と戦うのだから、人目を引いているのは間違いない…。
そして、袴の少女は心の中では求めていたとばかりかなり気合を入れていた。
「…では、勝敗はどうやって決めましょうか?」
「…大佐、審判は任せます。」
「新田中尉、くれぐれも殺さぬように…。」
「はい。」
「…いいか、これは交流だ。それをくれぐれも忘れないように…。」
「はい。」
「…不安だな。勝負は簡単だ、先に有効打を打った方が勝ちで刃を相手に当てないこと!当てた場合はその時点で敗北とする。」
「了解しました。主殿、見ていてください。」
「…気を付けてね。…いやっ…やっぱりやめた方が…。」
「大丈夫です。心配なさらず。勝ったらハグしてください。」
「…おっ…おう。保障するよ。」
「よしっ、やる気が出てまいりました。新田さん、私は紫(むらさき)紅(くれない)と申します。」
「…新田愛奈(あいな)だ。」
「よろしく、お願いします。」っと、抜刀し構えた紅に対して、愛奈は刀を抜かなかった。
居合切りの構えだろうか、刃が上を向いていることに気がついた。
刀を抜きやすくはなるのだが、俺はやらない刀の持ち方だ。
「…。」
「…。」
「では、はじめ!」
その合図で、愛奈は居合切り…突進しながらの抜刀を行ったのだが、金属音がなった。
紅が最初の一撃を弾いたのだ。
「…くっ。」
そういい、距離を取る愛奈に対して再び構え直す紅。
「…中尉の居合切りを弾いた。」
そう、一緒に来ていた兵士達が驚きを示していたが大佐は試合に集中していた。
続いて紅がわざと刀をぶつけながら遠くに弾くことで肉薄していくのだが、愛奈は手の動きでそれを封じていた。
「…さすがですね。…楽しいです。」
「…。」
お互いに距離を取り、紅はそう言ったが愛奈は何も言わなかった。
再び刃がぶつかり合うのだが、愛奈はかなり余裕があった。
「…っ。」
紅が今度は一気に距離を詰めようと振りかぶりながら突っ込んだ矢先、愛奈が刀を大きく振りかぶった。
紅は、それを弾いた…のだが…。
「そこまで!」
そう、勝負がついたことが告げられた。
刀を弾いたはずなのに、刃は確かに紅の首を捉えていた。
「主殿…申し訳ございません。」
「いいって…お疲れ様。」
力が抜けたように腰を落とした紅に近寄り、抱きついた。
「主殿?…私は勝手いませんよ?」
「…いいから、お疲れ様。」
「…はい、ありがとうございます。主殿…。」
紅を立たせ帰ろうとしたのだが…。
「おっ、どうした怖じ気着いたのか?」
「…。」
「行こう、紅…。」
「主殿…。」
「逃げるのか!この…腰抜けめ!」
この一言で俺は、愛奈と試合をすることになった。
「…主殿?」
「紅…刀を貸してくれ…。」
「えっ、主殿?」
俺が装備を整える間に、愛奈に休憩を取ってもらい。
再度、大佐に審判を頼んだ。
「…試合ができて嬉しく思います。新田中尉。」
「どうして、試合をする気になった?」
「腰抜けと言われてはいけないんですよ…意地です。」
「そうか…。」
たぶん、彼女は知らないのだろう。
だけど、俺は腰抜けと言われ続けるのは癪なので勝負はするつもりだった。
「はじめ!」
「…っ。」
早速、愛奈の居合切りが今度は逆方向からの攻撃だった。
基本的に、居合切りは左下から右下に振り上げる動きなのだが、それをわざわざ身体を動かすことで右下から左上に振り上げてきた。
俺は、その最初の一撃を左に避け、脇差しを左手で抜き腹部を狙うのだが、振り上げた剣が落ちてきたので距離を取った。
逆に持っていた脇差しを持ち替え、刀を叩き合う。
「…主殿。」
「大丈夫。」
残念ながら、2刀流の経験はそんなに無い。
なので、筋力で無理やり動かす感じだった。
「…。」
ふと、彼女がこちらに突っ込んできた。
大きく振りかぶって来たのでそれを弾く準備をするが、彼女は剣を下に叩きつけるようにし、すぐに切り上げを行った。
刀を踏むつもりでいた俺は足をひっこめた。
「…。」
燕返しなのだろう…あの長い刀は扱えるからこそあそこまで長いのだ。
刀を自由自在に緩急を変え、自由に操る。
それだけで、高速で追撃を行う燕返しを行わなくても勝利できるのだ。
だから、俺は…。
「…。」
彼女が大きく振りかぶり下に落ちてくる途中でハサミのように刀を挟み下に落とさせ、剣を脇差しで押さえ、右手で刀を持ち替え彼女の顔の前に刺した。
「そこまで…。」
「…くっ。」
「おおっ、やったぞ!」
結果は一勝一敗ということで、そこでお開きとなり後は普段通りに個々に散っていった。
「貴様…名前は?」
「長篠(ながしの)昇(のぼる)です。」
「…次、会えたのなら私は貴様に負けないからな。新田家の顔に泥を塗るわけにはいかない。」
「交流だぞ、交流…部下がお見苦しいところを…。」
「いいえ、大丈夫です。」
「そうですか…。」
「何か奢りますよ…会えた記念にワインでもどうですか?」
「いやっ、残念ながら…今は飲めない。」
「それは、失礼いたしました。…では、私はこれで。」
そう、大佐と愛奈に言い残して俺と紅は飲み物を飲みに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます