第89話 謁見と不要な奴隷
ローマ帝国 ローマ
俺はボナパルトさんと部屋を出て、桜達と合流し部屋を出て、皇帝の間という部屋に向かった。
その部屋は、絵本で見た舞踏会が行われている場所かホールのようにも見えた。
ただ一直線に玉座へと金色の模様が道のように描かれていた。
スポットライトのような照明が暗い部屋の中をその一本の道のみを照らし、花道のようになっていた。
そして、玉座には彼が居た。
そう…ネロだ。
「これはこれは、ネロ皇帝殿…日仏露連合から来ましたNapoléon Bonaparte(ナポレオン・ボナパルト)と申します。」
「…はぁ、まったく…貴様とはそのような間柄ではないだろうに。」
「ええ、皇帝陛下…そうでしたね。」
「桜(さくら)も…こうして会うのは久しぶりだな。」
「はい…そうですね、皇帝陛下。」
ボナパルトさんと桜は、そうネロに話した。
畏れ多いことであるはずなのに、2人はかなりラフに話しているし、Rebecca(レベッカ)に至ってはふわふわしていた。
桜もボナパルトも2人とも偉いはずで、大使…としてこの国に来たのではないかと疑いたくなるくらい、実に自然な話し方をしていた。
「ふむっ、それで…その少年が例の彼だな。」
「ええ、そうです…ついに、この日がやってまいりました。ネロ叔父様。」
「初めまして、長篠(ながしの)昇(のぼる)少年。」
「初めまして…その…皇帝陛下。」
「う~ん、緊張しているな…。」
「陛下がそんな高圧的な態度なのが原因なのではないでしょうか?」
「叔父様も人のことを言えたようなものではないではありませんか!」
「ネロ叔父様、緊張するのは仕方ありませんよ。何より、初対面ですし…生前の行いによる後世の評価によりやはりこういうことになるのは当たり前のことではないでしょうか?」
「それも…そうだな。安心しろ長篠少年、君のことを知っているのは…いやっ…そうではなく…LLFについて、この場で話した方がよいか?」
「まだ、その時ではない…。」
「そうだったな…長篠少年、この世界に君らが来たのを知っているのはこの世界の人口のうちのほんの少しだ。我…もとい私達ははるか昔より国を統べる組織に属している。その中で、情報を共有しているから知っている…っと言ったところだ。」
「陛下…それはもう答えなのではないかと思うのですが?」
「…口が滑ってしまった。人の口に戸は立てられぬと言うが、それは王も死者も同じであるのだな。」
「出来れば、私が言うべきだったのかもしれないのだが…。」
「それはそれは、残念だったなナポレオンよ。詳しくは言っていないがこの場では伝えられぬので、他の者の役割と今なった。」
「お人が悪い。」
「我は皇帝であるぞ、そして、彼の父である。」
「…御冗談を。」
「では、この子の父は蒙古の子であると?」
「…その可能性もあるのでは?」
「父も母も姉妹も兄弟も何人居ても構わぬのではないか?この子に至っては…。」
「まったく…かなわないな…あなたには…。」
「生まれるのが遅いわ…。貴様は…。」
「…桜、えっと…どういうこと?」
「先人にしかわからないジョークですので、お気になさらず…。」
「えっ、ああ…そうなのか…わかった。」
「では、昇は任せてくれ。レベッカ、昇を頼む。…少年、この後…我は桜とナポレオンに用があるゆえ、レベッカについていけ。」
「はい…わかりました。…皇帝陛?ネロさん…?」
「…ネロさんか…まあ、いいだろう。国民の前では、皇帝陛下と呼ぶことを忘れぬなよ、少年。」
「はい、皇帝陛下。」
「ふっ…はははっ、よいよい…男はそうでなければ…では、少年…また会おう。」
そう言うと、ネロはボナパルトと桜を連れて部屋を出て行った。
照明は、そのままに俺とレベッカはその場所に居た。
「では、昇さん。…少しお話しましょうか。」
「ああ…それは、構わないけど…。」
そして、俺は彼女と部屋を出た。
部屋を出てすぐに、レベッカは兵士に何かを言うとその兵士は駆け足気味に走っていった。
彼女と王の間から少し離れた部屋に入り、手前の椅子に向かい合うように座った。
「さて…お話と言ってもこの国についてですので、そう気構えることはないですよ。」
「ならいいけど…。」
「そろそろ…来るはずですね。」
「誰が?」
「お待たせいたしました、レベッカ様…昇さん。」
入って来たのはアレッシアで、俺とレベッカの前にコーヒーを置いた。
「ありがとう、アレッシア。」
「はい…では、私はこれで…。」
「いいえ、あなたもここに居なさい。」
「はい、レベッカ様。」
「昇さん、彼女のことは知っていますよね?」
「はい。」
「彼女はアリッシアと言って、私の配下とはいえ…ローマ帝国陸軍から派遣されている兵士です。」
「…そうなんですか。」
「ええ、それと…この場を持って日仏露連合、ローマ帝国の文書に従い昇さんには二月十日までの休暇を与えます。その間は、アリッシアとその家族があなたに付きますので生活にはご心配なく…。」
「本当ですか?」
「はい。本当です。」
「それなら…モンゴル帝国に行ってこようかな。」
「…ダメです。移動できるのはローマ帝国領内のみです。」
「ええ…。」
「それに、休暇と言っても演習と訓練に参加してもらいますからね!」
「演習って、ローマ帝国の?」
「はい、なので休暇中の旅行計画も出来ていますので…楽しんで来てくださいね。」
「それじゃあ、休暇じゃないんじゃ…。」
俺がそうごねるとレベッカは呆れた様子でコーヒーを口に含んだ。
コーヒーはあまり好きではないのだが、ゆっくりと全部飲み干した。
「レベッカ様、昇さんのことはお任せください。徹底的に管理致しますので…。」
「お手柔らかにお願いします…。」
「嫌です!」
困ったな…これじゃあ…あんまり休めそうにない。
そう思っていた、矢先レベッカはアレッシアを近くに呼ぶと何かを告げ、アレッシアはお待ちくださいというと部屋を出た。
「何かあったの…レベッカ?」
「はい、ネロ様からあなたへの贈り物を持って来させるように言いました。ところで、昇さんは奴隷について知っていますか?」
何故か、レベッカはそう話を切り出した。
「ああ…古代ローマの奴隷制は知ってはいるけど。」
そう、俺はレベッカに返した。
「現在、このローマ帝国においてそのような身分の者はおりません。」
「…えっ?」
居ないことに越したことはないが…そんなことがあるのだろうか?
そう思った。
ローマ帝国と奴隷の反乱は、かなり有名なことであり彼らの食事は彼らの主が口にした後孔雀の羽を使い<自主規制>したものだという話があったような気がする。
しかし、千夜一夜物語のようなイスラム圏での奴隷の扱いとは違う、ローマという国において労働力である奴隷が居ないということはどういうことなのか…疑問に思った。
「奴隷解放でもしたの?」
「いいえ、していませんよ…。贈り物がまさしくそれですね…。」
「…どういうこと?」
「ロボットが奴隷の代わりとなったんですよ。」
「…そういうことか…ロボット?」
「そうですよ?」
自信ありげにレベッカはそう言った。
ロボットがどうとはいえ、人の労働力を手放すだろうか…。
「見てもらえば、わかると思いますよ。」
「そんなに凄いの?」
「はい…魔術と科学の賜物ですよ。ネロ様のお力でもあります。」
自動掃除機の大型化した物とか、配線むき出しの人型の機械を想像してみた。
やはり、まだ存在していない以上…アニメのような物はこの世界でも出来ていないだろうと思った。
だが…それはすぐに覆された。
「…お待たせいたしました。」
アレッシアが、部屋に戻って来ると3人の女性を連れて来た。
「昇さん…ネロ皇帝からの贈り物を受け取り下さい。」
「…贈り物って?」
「ヒューマノイド、ガイノイド…アンドロイド…言い方は様々ですが…ロボットです。」
「…これが?…人に見えるけど?」
「あなた専用のアンドロイドですよ。再生体を使用している為外見上は人に見えますが中身は別物です。身体調整、成分分解の為にナノマシンが搭載されており、戦闘から家事までなんでもこなせます。」
「はあ…なるほど…。」
何となく、このローマに奴隷が居ない理由がわかったような気がした。
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