第88話 ようこそ、ローマへ

ローマ帝国 ローマ


船に乗り、電車に乗って…一度は来てみたかったローマに…。

休日と言いながら、ラブロマンスをしてみたい…そんな風な気分だった。

とはいえ、ビーチでゆっくりするのも良かったのかもしれない。

けれど、あのビーチには水着を着ている人は居なかった。

なぜかというと、もうこの世界では11月…ようするに冬…のはずだが…なぜか温かいままだった。

けれど、海に入るほど冷たくはない。

だけど、この休暇中に雪は降った…それも、クリスマスに…。

貰った休暇は、2月10日まで…。

この世界に来たのが、4月1日なのでそのうち1年経つだろう…。

なんていうか、休暇の方が多いような気もするが…。

休暇中も色々駆り出されたり、名目上休暇期間だったりしたので…それでも、休みの方が多いかもしれない。

まあ、休暇が多いに越したことはないが…。


俺が今居るのは、Palazzo Venezia(ヴェネツィア宮殿)と呼ばれる場所だった。

ここは、昔見た旅行会社のパンフレットのようなイタリアの風景の場所だった。

なぜか、このローマとその周辺は、そんな歴史のある風景だった。

だが、人々は普通に現代と変わらなそうな装いをしていた。

別に、それはこの世界でおかしいことではないのだが…。

日仏露連合、モンゴル帝国、ムガル帝国よりも技術的に進んでいた。

まるで、どこか違う未来に迷い込んだように…なぜかそんな違和感を感じていた。


駅から、車に乗り…この建物へ。


「どうぞ…こちらに…。」

「ありがとう…。」

「では、私は…ここで…。」


Alessia(アレッシア)は、どうやら中には入れないようだった。


そして、そのまま…また、兵士が扉の前で銃を構えている部屋の中に入った。

違ったのはそのうちの左側の兵士が、Modello 38/42(サブマシンガン)を持っていたところだ。

普及しているのか、実験的な物なのかはわからなかった。


部屋は…豪華絢爛。

たまにしか、入れないのだが…何というかそろそろ慣れて来たというのが本音で、奥にはまた女性が居た。

彼女の名前は、桔梗(ききょう)桜。

日仏露連合で会ったのが最後だったので…かなり久しぶりだった。

部屋に居たのは、彼女だけでなくも男もそこには居て、さらに名前を知らない少女が居た。


「久しぶりですね…昇(のぼる)さん。」

「…桜。何でここに?」

「ローマ皇帝に謁見に参りました。それと、この方は我が日仏露連合の…。」

「初めまして…長篠少年、私はNapoléon Bonaparte(ナポレオン・ボナパルト)だ…よろしく。」

「…よろしくお願いします。」

「そう固くならなくても大丈夫だ…まあ、そうは行かないとは思うが…君のことは知っているし、こうして会えたのは実に喜ばしいことだ。山本も君に、今後会えるといいがね…。」

「はい…。」

「まったく…叔父様、それでは、余計に緊張させてしまいますよ。」

「…そうか。」

「ジャンヌなら、殴ってたところです。」

「手厳しいね…。」

「まったく…。」

「大使を叩くとは…ジャンヌらしいというか、まあ、緊張は解れるでしょう。」

「…君は?」


桜とボナパルトの他に、部屋に居たのは古代ローマの白い装いのようなドレスを着た少女だった。

桜もボナパルトも正装であるのに…いやっ…たぶん、それが正装なのだろう。

なんていうか、女神が着ていそうな服で彼女の胸の曲線が3割ぐらいみえており、x型の間もわかる。


「初めまして、長篠(ながしの)昇さん。私は…Rebecca(レベッカ)と申します。」

「初めまして、レベッカさん。」

「レベッカ…で、構いませんよ。」

「そう…それじゃあ、よろしくレベッカ。桜とは友達なの?」

「はい…そうです。」

「彼女は、このローマの魔女でこの国での呼び名はVesta(ウェスタ)だ。火の魔法を使うから…気を付けた方がいい。」

「むっ…ボナパルト様…私は、その名で昇さんに呼ばれたくはありません。」

「…だっ、そうだ。くれぐれもそう呼ばないように…それじゃあ、とりあえず着替えに行こうか。そんなシャツとズボンだけでは情けないからね。ちゃんと仕立てておいたからついてきたまえ。」

「あっ、はい。」

「桜とレベッカは、コーヒーでも飲んでいてくれ。」

「はい、叔父様。」

「どうぞ…ごゆっくり。」


桜は自然に、レベッカは含みのある言い方をした。

部屋を出て、すぐ近くの部屋に入った。

中には、俺のジャケットと思われる物が2つ飾ってあり、机にはネクタイなどがあった他には鏡台のみという何も無いような部屋で殺風景だった。


「…さて、とりあえず…そのジャケットを着てくれ。…よしっ、ぴったりだ。一度、脱いで机の右にある白いベストを着て、もう一度ジャケットを羽織ってくれ…あとは、ネクタイと…ああ、これでいい…鏡を見るといい。」


かのナポレオンに、服装を整えてもらうのはかなりレアというか、ありえないことだろう。

初めて、高校の制服を着た時のようにネクタイを締めてもらい、俺は鏡を見た。

そこには、白い蝶ネクタイを締めた俺が居た。

だが、どこか違和感があるように感じた。


「それは、イブニングドレスコードと言って…午前中から午後の決まった時間まで着る服なんだ。あまり、なじみがないとは思うが…。」

「はい…。う~ん…。」

「どうしたんだい?」

「目に違和感が…。あれっ?」


明らかに、自分の目の光彩の色が違うことに気が付いた。

カラーコンタクトは入れたことが無いので…これは、本当に光彩の色が違うということになる。


「…目の色が違う…ええっ…なんで…。」

「大丈夫かい?」

「いえっ…目の色が違うんですよ…俺の目の色が…。」

「ああ…それなら、大丈夫。君がSara(サラ)と戦った後…この国で使用した再生体の光彩の色だから…。」

「…治ります?」

「…治療すれば…だが…そうだね…かなり時間がかかるから…まあ、頑張れ…。」

「…そんなぁ。」

「案外、すぐに慣れるかもしれないさ。ちょっとした、イメチェンと思えばいい。」

「そうだ、治療前の身体から眼球を取り出して移植ってできます?」

「…もう、無理かと。」

「うぅ…。」

「男には時には変化が必要だ、その変化をどう乗り越えて変えて行くのかが大事だぞ、少年。」

「…わかりました。」

「まあ、元気を出せ。」


そう言うと、ボナパルトさんは俺にタバコの箱を渡してきた。

だが、パッケージが白と文字の黒の2種類というかなり寂しい物であり、医療用煙草とフランス語で書かれていた。


「…なんですか、これ?」

「医療用煙草だ。…禁煙するといい。」

「葉巻タイプのは、ないんですか?」

「…。」

「すいません、禁煙します…。」

「あまり吸うものではないよ、吸いたくなったら<自主規制>でも吸うといい、それで…<自主規制>を発散するのもいいと思うよ。」

「…いいんですか、それ?」

「これから、この国の兵士になるんだし…法律上も問題なくはなる。もし、嫌だったらロボットでも<自主規制>すればいいからね。」

「…その色々聞きたいことがたった今、できたんですが?」

「ああ、何でも聞いてくれ…。」

「ロボットはともかく、この国の兵士になるというのは?」

「そのままの意味だよ。大丈夫、我々日仏露連合もとい入間基地こと、君の祖国の日本を代表して君のことを見放したりはしない。ただ、ムガル帝国やモンゴル帝国の時のように日仏露連合からこのローマ軍に所属が形式的に変わるだけだ…君は、普段通りに生活していけばいい…この先も、ドルマーやジャンヌ達が君に手を差し伸べてくれるだろう…。もちろん、私やピョートル、山本…それに君と一緒に来た人々もだ。そこは、安心してくれ…。」


いずれにしても、他にするべきことが思いつかないので俺は元の世界に帰るためにこうするしかないのだろう…。

感覚としては元の世界に戻るのが…いやっ…こんな身体で生きるよりはいいだろう。

自分の身体がやはり一番だろうし…他の人達のこともある。

家族は…まあ、言葉とかにしてないしぶっちゃけあんまり気にはしてないが、最低限の親孝行はするべきだとは思っている。

気掛かりなのは、モンゴル帝国に居るオユン達のことだ。


「…わかりました。」

「他には?」

「あっ…はい、西安にある司令部にオユン達への手紙を送ったのですが…。」

「ああ、ちゃんと彼女達に渡すよ。…彼女達も色々なことをしているから…いやっ、返事は来ない。ショックな話だと思うかもしれないが…これは、受け止めてほしい。別に、彼女達が君のことを嫌いになったわけではないが…とある機密事項があるんだ。」

「機密事項?」

「ああ…君の時代ならスパイ映画とかもあるだろう…そうした機密事項に関わることしているから彼女から君には手紙を書けない…だけど、君の手紙は彼女達には必ず届ける。…君が書くのをやめても彼女達はおこ…いやっ…気を落とすだけだろう…まあ、君次第だ。強制はしない…ただ、男にはただの手紙であっても女性には言葉と同じくらい意味があるもので…かっ…書いた方がいい気がするな…私としては…まあ、苦痛になるようだったら書かない方がいいと忠告しておくよ。」

「…ありがたいお言葉です。」

「いやっ…そのだな…結局のところ、男は女性を全て知ることができない。出来たら、ただ哀しいだけだ。…他に聞きたいことは?」

「いえっ、大丈夫です。」

「なら、良かった。この国でのことは、レベッカとアリッシアが面倒を見てくれるそうだ。」

「あなたは、アリッシアに会ったんですか?」

「会ったことはないよ…それと、もう一つ忠告をしておこう。」

「何ですか…その子には死相が出ている。…それじゃあ、行こうか。」


ボナパルト…ナポレオンはそう俺に言った。

しかし、死相が出ているのを知っているのに会ったことが無いというのはどういうことか思ったが、忠告であるなら彼は何かしらの意図や意味があるはずだった…。

もちろん、それをここで思案しても意味はなく…後になってその時にまるで予言していたかのようにアドバイスは効いてくるものだ、そして…今回も。

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