第87話 先端技術と現状

LLF所属 Backdoor


「ジュールさん、田中さん…お待ちしておりました。」


研究室、もとい研究所に入ると先ほどの少女、ネモが居た。

ジュールは、彼女に私の案内を任せて施設の奥に向かった。

私は、彼女に案内されるまま施設の中に入った。


「田中さんは航空自衛隊の方でしたよね?」

「ああ、そうだ…。」

「…どうかされましたか?」

「いやっ…何故かその言葉がとても懐かしい物に思えて…。」

「実際、そうだと思いますよ。既に半年以上この世界に居るのですから…。」

「私は、それを辛く思っている。」

「…そうですか。」


この世界に、来てからそんなに経つのか…。

もう何回もそう思っている。

そして、いつしか日数を数えるのを続けて書いているだけの日報のみ、記録されていた。

今日で、211日目となる。

だが、まだ帰れないのだろう。

…現に、そうなのだから。


「ここには、最新兵器があると聞いたのだが…具体的には何が?」

「第6世代戦闘機ですね、それ以降の世代区分に当てはまらない戦闘機もありますよ。新型の流速計もありますし…それこそ、航空母艦でさえも…。」

「…本当に、あるのかそれは?」

「研究者達には、膨大な時間がありました。そして、未来の知識も得た。かつて彼らの頭を悩ませていた問題の答えがわかり、量子コンピュータさえも完成した以上。後は、開発と実験データを集めるのみでした。」

「…それは、未来から来た私達でも勝てないのか?」

「そうです…ですが、兵器という物はコストの関係上うまくいかないことがありました。どんなに優れた兵器であっても運用できなければ意味はありません。」

「ごもっとも…。」

「先に、お見せした方がいいですね。」


彼女に案内されながら、私は長い通路を通った。

どうやら近くの建物に通路で繋がっているようで、彼女は気を利かせたのかF-4(ファントム)や、F-15(イーグル)、更には殲撃10型、Su-34と言った多くの戦闘機が並んでいた。

さながら、航空機博物館のようにB-29、烈風、Ju 87など国ごとに分けられ並んでいた。

マニアには夢のような光景かもしれない。

長いこと歩き、ようやく目当ての格納庫に着いた。

そして、彼女は第6世代戦闘機を見せてくれた。


「F-22(ラプター)っぽいな。それに、X-2(心神)にも似ている。」

「日本が計画していた第6世代戦闘機、i3(アイ・スリー)戦闘機です。」

「…また、何とかの零戦とかになるのだろうか…鷲の再来とも…。」

「この機体に名前を付けるとしたら、なんて付けますか?」

「…そうだな。」


機体は流線を描くように滑らかで綺麗だった。

F-35と同じ様に格納型の兵器倉庫を持っているのだろう。

ステルス性に優れているような素材が使われているようで、何かしらの塗料も塗っているのだろう。

ある種特有の人が言う言葉であるのだが…要するに、この飛行機はエロかった。

曲線美に優れているという意味合いなのだが、まあこちらの方が言葉が少なくてすむ。


「何か縁起の良さそうな…造語でいいかも…。」

「鶴や亀とかですか?」

「それも、いいかもね。」


何かいい名前は無いかと考えた。

とはいえ、日本語で戦闘機に合いそうな名前は既に使われている。

風と山と龍だ。


「…斬雷(ざんらい)にしよう。」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。雷を斬る。電子設備を積んだ、ステルス戦闘機だからというのもあるけど…F-35がライトニングだったから、この戦闘機はF-35を素早く屠れる…そんな感じかな…。」

「いい名前だと思いますよ。」


第6世代戦闘機「斬雷」…結構いい名前なのかもしれない。


「田中さん、この斬雷には他のバージョンがあるんですよ。」

「そうなの?」

「はい、隣にある機体です。」

「これも、そうなの?」

「そうです!」


隣にあった機体は斬雷とほぼ同じ様な機体だったが色が若干明るいようにも見え、大量のミサイルを両脇に抱え込んでいた。

…それこそ、F-15に先祖返りしたように。


「量産型斬雷です。」

「…斬雷とどう違うの?」

「斬雷もといいi3には、カウンターステルス性という物が求められていました。また、瞬間火力も同じ様に求められいたのはご存知かと…。」

「確かに…そうだったが…。」

「この斬雷は、ステルス性を全て捨て、敵戦闘機、ステルス戦闘機をカウンターステルス能力により既存のステルス攻撃機ではなく、迎撃殲滅機としたものです。費用はミサイルの分、かかりますが外付けなので整備が楽です。また、生産性も気を使わなくて言い分安くなりました。」

「…ああ、実用的だと思うよ。F-15SE(サイレント・イーグル)の上位互換と言ったところかな。


量産型斬雷は、古く見えるが実用的な感じだった。

こんなに武装をすることはないかとは思うが、見ていて楽しい。

これこそ、戦闘機だ!っと、言うように古き良き時代のにおいがする。

ロマンのような機体だった。


「ところで、この斬雷の機銃ってバルカンじゃないの?」

「はい、30mmリボルバーカノンを採用しています。」

「…リボルバーカノン?」

「はい、EF2000やヨーロッパの戦闘機では多く使用されていますが?」

「いやっ…それだと弾の種類が…。」

「20mmのリボルバーカノンも開発してあるので大丈夫ですよ。」

「いやっ…なぜ、リボルバーカノンを採用したのかなと…。」

「それは、ですね。まず、F35はF4と同じで機銃を持っていません。その時点で不良品です。機銃は、パイロットにとって最後の手段となりますがM61では機体を設計する際に機体を占める割合が大きく、そのため、リボルバーカノンを採用しました。」

「なるほど…。」

「ミサイルは、空対空、空対地、空対艦ミサイルのほか、無誘導爆弾、増槽など一般的な兵装となっています。部品生産を日本国内で行え、大型の航空母艦での運用可能です。」

「まだ、航空母艦を自衛隊は運用してないよ。」

「…そうでしたね。…でも、なぜ弾道ミサイルを持たないのですか?」

「ネモさん…って、君のことを呼べばいいかな?」

「識別の為に、ネモちゃんでお願いします。」

「ああ、それじゃあ…ネモちゃん。この質問はジュールさんの物?それとも、君の質問のどちらか答えてくれないか?」


私がそう彼女に言うと、彼女はフリーズしたように停止した。

何かを考えたのだろうか?


「この質問は、ジュールさんもといLLFのテストの一つです。如何なる回答でも構いません。」

「ずいぶんと、人が悪い。…そうだな、定型文で返すよ。いくつか理由がある。1つは、アメリカ軍が保有しているから。2つ目は憲法、3つ目は政治、4つ目は国際社会、5つ目が保安、6つ目は指示系統だ。」

「…わかりました。概ね期待していた通りです。」

「つまらない答え方ですまなかったね。…やはり、立場というものがあるんだ。日本は、敵に囲まれているし、冷戦時には核搭載型弾道ミサイルの必要性もあった。だが、現状日本には核シェルターも少なく、自然災害も多い。そうなると、必然的に原子力潜水艦が最適解で海外に基地を作るのがいいだろう。」

「そうなりますね…。」

「ああ、だが…どちらにせよ。うまくは行かないと思う。ミサイル防衛もそうだが、通常戦力でどれだけ戦えるのかもわからない…シュミレーターで予想しても敵に核があればいかなる戦術を考えても、その時点で負けている。最初にどこかの地方都市に核を撃ち込まれ、防衛が間に合わず、首都東京に撃ち込まれると脅されれば…もうおしまいだろう。核の傘があってもアメリカがさしてくれくれなければ、あとはサンドバックになるだけだ。」

「悲観的な見方ですね。」

「最悪の結末とも言える。」

「そうでしょう…核を超える兵器が現状存在してない以上…どうしようもできないことです。」

「核を超える手段があるとでも?」


私がそういうと、ネモは私に向かって笑った。

どこか乾いたような笑い方で、ジュールが作り出した笑い方だと思いたくなるほど、怖い笑顔だった。


そして…。


「私達は、核では死なないんですよ…。」


そう、彼女は私に向かって言ったのだった。

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