第84話 神が死んだ日

ムガル帝国首都デリー

ゴルゴタの丘作戦から3日後


「私は、ムガル帝国Bakht Khan(バフト・ハーン)。皆が知っての通り、総大将である。

今日は、なんと良い日だろうか?

私はこの手で、旧時代の怪物であるبہادر شاہ ظفر(バハードゥル・シャー2世)を手にかけた。そして、今…私の横にはમોહનદાસ કરમચંદ ગાંધી(モーハンダース・カラムチャンド・ガンディー)が居る。

私達にとって彼は刃を交えた相手であるが、それは昨日までのことだ。

消失の魔女Sara(サラ)は、勇敢な日仏露連合の兵士により倒された。

彼をここに、呼びたいのだが…もういない。

だから、私はそんな彼の名前を叫んだりはしない。

サラの遺体は聖なる火に焼かれ、骨を粉にしコンクリートに混ぜて深い海に沈めた。

もう彼女が戻ってくることはないだろう。

この国には、まだバハードゥル・シャー2世の亡霊がはびこり、再び兵士を集め我々に攻撃してくることだろう…。

バハードゥル・シャー2世の遺体もまた、この場にて燃やし海に沈めよう。

彼には、マリファナがお似合いかもしれないが海に薬をまくのは気が引けるのでコンクリートに混ぜてやる。

…やあ、ガンディー。

調子はどうかい?

ああ、わかっている…。

今日を以てムガル帝国は終わり、新たにインド共和国となり、今度はイギリスの意向なく政治を行えるだろう。

私は、また政治を譲り渡し君らを見守っていくつもりだ。

彼、共々ね。

君らに任せるべきは、国土の再生と兵器の配備だ。

くれぐれもよろしく頼むよ。

では…ガンディー、あなたに変わろう…。」




「やあ、わたしはモーハンダース・カラムチャンド・ガンディーだ。

今日を以て新たにインド共和国が作られていく…。

心配なのは財政だろう?

幸運なことに日仏露連合からモルヒネの生産が頼まれている。

すでに、香辛料や薬を作っているのかもしれない。

だが、本当に必要なのは『無宗教化』だ。

勘違いしないでほしいのは、宗教を持つなということではない。

どんな宗教でも、信じていいが新しく作ることはダメだ。

それと政治利用も…。

私達は、これから近代化をし国を豊かにしていかなければならない。

ましてや、南部の宗教観の改革にわたしはしばらく従事するべきだろう。

私達は、一つにならなければならない。

これまでの戦艦のようなものではなく、航空母艦、潜水艦…そして、その他すべての兵器だ。

この国の政治を握るイギリス人はもういない。

そして、これからもだ。

私達は、負けたりはしない…抵抗し続けることだ。

近いうちに、その日が訪れる。

このインド共和国には、可能性がある。

強さがある。

資源もある。

人も居る。

こんなに、素晴らしいことがあるのだろうか?

世界と技術と人は変わりゆくものだ。

その度に、私達は困難に手を貸してきた。

正義も移りゆくなら、絶対的な物も移りゆくだろう。

しかし、あなた達は忘れてはならない。

伝統は大切なものだ。

あなた達は、世界に染まるのではなくあなた方を保ちなさい。

新しい技術が全てを良くするのではなく、また経済的価値を与えるものではありません。

しかし、人は学ばなければなりません。

これからは、男女の関係はなく仕事を行いなさい。

もし、あなたが今の仕事に満足していなければその仕事を辞めて新しい仕事を探しなさい。

カーストはもう存在しません。

では、総大将。」




「改めて、ここで言おう。

カーストはもう存在しない。

家で両親が何と言おうが、祖父母が何と言おうとだ。

ただ、よき人であれ。

でなければ、私が死を与えよう。

以上だ。」


ゴルゴタの丘作戦は、多大な犠牲のもとに成功したとされている。

サラと思われる遺体は、すぐに人体組織再生用生物組織により一部が再生されサラ本人であると判断された。

同時に、その場に落ちていた刀を握っていた左腕は長篠(ながしの)昇(のぼる)軍曹のものであるとされ、相打ちと見られている。

サラが死んだことはすぐに広まり、敵味方の士気に影響した。

バハードゥル・シャー2世は、作戦開始直後にバフト・ハーンにより殺害され、旧政府派は主導者を失い、内戦の終結へとすぐに移された。

だが、旧政府派は未だに活動を続けており総力を挙げて討伐に向かっている。

日仏露連合は、派遣していた兵士の引き上げを行い、インド共和国との国交へと歩み始めている。

インド共和国の樹立、そして、サラ、バハードゥル・シャー2世の敗北は世界に伝わり、彼らの無敵神話の崩壊が始まった。

神とみなされていた者の敗北に人々は興味を抱かない訳はなく、彼と彼女の使った武器は薬莢に至るまで取引され流れて行った。

この内戦で変わったのはインド共和国だけでなく、日仏露連合、モンゴル帝国も変わることが必要だった。

日仏露連合は、輸送網と兵器において更新が遅れている兵器郡と輸送船の増産が必要になった。

その為、旧兵器郡をモンゴル帝国、インド共和国と他の小さな国々に売った。

陸軍では、T44をはじめとし物資輸送のための車両と自走砲の生産が行われ、海軍では対空戦闘に重点を置いた各種艦艇の生産と使用する統一砲への変換が行われ、空軍では爆撃機と戦闘機の生産というように大規模な兵器生産を開始した。




月面地下 機動要塞Ark of the life (生命の箱)

「LLFより、各セクションへ報告。ゴルゴタの丘作戦によるデータ解析の結果を公開する。」

「了解。」

「さて…これでようやくスタートラインだ。」

「まだ、始まったばかりとはね。」

「個人的な会話は他の回線をご利用ください。」

「Jules Verne(ジュール・ベルヌ)の海、周辺の海域データに異常になし。」

「了解。」

「インド共和国での内戦終結宣伝、無事終了。」

「定期連絡、メッセージへの返信を求む。」

「了解。返信を行った。」

「遅れなし、定期連絡を終了する。いつもありがとう。」

「どういたしまして。」

「相変わらず人間味のない会話内容ね。」

「仕方ないでしょ、そういうことにしているんだし。」

「絵文字でも送りましょうか?」

「50年くらい早いわよ。」

「まあ、そうですね…。」

「個人的な会話は他の回線をご利用ください。」

「わかっていますよ、それは…。でも、今は4人ですし…。」

「そうね…。」

「はい、そうでしたね。…あなたも何か話したらどうですか?彼とは、会ったんですよね?」

「ええ、勿論…。ところで、この後時間ある?」

「ごめんなさい、ちょっと忙しくて…。」

「私も同じ…。」

「彼のことで、手続きをしている最中です。」

「そう…それじゃあ、近いうちにね。」

「了解。」

「了解です。」

「いいですね。」

「それじゃあ…私は工場に視察に行かないと…回線は別の切り替えてるから…それじゃあね。」

「私は、海軍の飛行試験の視察ですので…行って来ますね。」

「技術進捗を見たけど、その飛行機に使う技術と性能の両方が古い上に欠陥があるみたいだけど大丈夫?」

「大丈夫ですよ、避けられますし。」

「心配ないのはわかっていますが、死者が出ないようにしといてくださいね。」

「お任せください。」

「あなたは、書類整理よね?」

「ええ、終わりましたので紅茶でも飲みますよ。」

「そう…私もそっちに行っていい?」

「紅茶はあげませんよ。」

「それは、残念。」

「冗談です。今度、パリに来た時に差し上げますわ。」

「なにそれ、私の真似?」

「いえ、道化の真似事でしてよ。」

「まったく…。」

「愚か者を演じるのには賢者でなければならない、賢者を演じるのであれば賢者でなくてはならない、愚か者は愚か者を演じることができない。なぜなら、愚者は愚者なのだから…。」

「新手の説教か何か?」

「ちょっとした話ですよ。出典もありません。」

「テロが起きたならテロリストは大学卒だ…みたいな話?」

「まあ、そんなところです。」

「老けたんじゃない?」

「私は、若いですよ。」

「あなたと年寄りが、=(イコール)になってくるからあの子もそう思われたんじゃないの?」

「山の手言葉を使うマダムに言われたくないです!」

「誰がマダムじゃ!年増!」

「あなたもでしょ!」

「…そう言われると傷つくのはいつまでも経っても変わらないわよ。まあ、言葉で言えばあの子が一番、昇にとって若いと思われているかもしれないわね。」

「私じゃないことに違和感を感じます。」

「話し方が丁寧じゃない娘の方がそう見えるのかも…。」

「そんなことないと思いますよ。」

「そうかもね…。」


ふとっ、Sophia(ソフィア)は自分の容姿を鏡で見たくなったが結局のところ何も変わらないことを思い出した。

もう少し、話すのも良かったのかなと頬杖をつきながらそう考えた。


「生命に解放あれ!」

「生命に解放あれ!」


そう言ってジャンヌとの話を終えた。

ソフィアの能力は、『情報』だった。

しかし、これでは語弊がある。

というのも彼女の能力というのは、膨大なデータを処理したり、ハッキングすることもできるがそれ以上だ。

新たにデータを作ることもできるし、完全な量子化もできる。

細かく言うのであれば、人の記憶すら彼女の手中にあり、リーマン予想、最終定理などなど何でもござれだった。

そして、今…彼女は月に居た。

仕事をする為だった。

彼女の能力はそれこそ完全なものであるが、できないこともある。

そのできないことは、この世界において絶対的なものである為、この世界の神と交わした契約であり、約束である。

つまるところ、本来できることができない場合があるのだ。

これは、LLFのメンバー全員に関連していることである。


「…さて、やりますか。」


彼女は、そういうと書類に目を通した。

紙媒体での確認という気分的なものだった。

普通に能力を使って確認ができるのだから…。


表紙には、人工衛星母艦航行実験報告書と英語で書かれていた。

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