第39話 旧式艦隊

…もう朝か。

昨日と同じように無機質な白い天井が見えた。

俺は、昨日貰ったばかりの服に袖を通した。


「…ジャンヌに会いに行こう。」


既に荷物をまとめていた俺は、その荷物を持ったままジャンヌに会いに司令部に行った。

今日、俺は与那国島(よなぐにじま)まで行くことになる。

それも、昨日出会ったばかりのC分隊と共に…。


司令部には、ジャンヌの姿があった。

また、何かを手に持っている。

今日は、何故か白色の軍服を着ていた。


「おはよう、ジャンヌ。」

「あっ、昇(のぼる)さん。おはようございます。カチューシャもすぐに来ますので…。」

「ああ、そうなんだ…。それよりもその服は?」

「これですか?…本来なら、こんなの着ないんですけどね…やっぱり、似合わないですよね…普段着ている白い服の方が楽ですね。」


ジャンヌは、そう言うと両手を大きくパタパタと振った。

肩より上に腕が上がらず窮屈そうだった。


「俺もそうだよ。」

「何を言っているんですか?昇さんの方が楽ですよ!」

「…そうかな?」

「そうですよ、あっ、それと今日はこれに着替えてくださいね。」


俺は、ジャンヌからバッグが茶色の大きなバッグが手渡された。


「…これは?」

「この中に背嚢(はいのう)と水筒、それとあと小物と戦闘服が入っています。」

「ジャンヌ!昇!」


ようやく、カチューシャが来た。

彼女は、俺と同じオーブ色の軍服を着ていた。


「おはよう、それじゃあもう時間がないから部屋に入って。!」


そう、カチューシャに急かされ俺は部屋に入った。

最後に入って来たジャンヌが周りを確認し、俺は近場の椅子に座った。


「それじゃあ、最後になるけど昇に作戦の説明をしておく。」

「わかった。」

「よしっ、それじゃあ今の状況を説明するとまだ、与那国島ではこちらが優勢…まあ、施設の一部を取られてしまったけど。」

「…空港は?」

「私達の上陸までは持つわ。そもそも、今回の作戦の攻略は与那国島だけじゃないから。」

「与那国島だけじゃないって…。」


兵力で言えば短くて半日くらいでこの島は奪還できるとバルロー曹長も言っていた。


「…それじゃあ、昇さんを。」

「そうね、ジャンヌ。ノモンハンまで一気に駆け抜けたいそうよ…上は…。」

「了解です。」

「それじゃあ、昇、続けるわね。」

「わかった。」

「まず、今回の作戦では敵に鹵獲された対空兵器、地上兵器が障害になっているの…。そのため、まず航空機を空港に輸送して離陸させる。また、空港から通信があり次第航空母艦からも航空機を発艦、その後航空機からの情報を基に戦艦から地上に向けて砲撃、砲撃後上陸部隊が一気にモンゴル軍を殲滅…。ここまでは、大丈夫よね?」

「ああ、この基地に来た時に教えてもらったね。」

「そう、そして与那国島奪還後私達はモンゴルに侵攻します。」

「…モンゴル?」

「はい、そうですよ?」


…モンゴルって…内陸国だよね。

というか…なんでそれに気がつかなかったんだよ、俺は…。


「その…そういえば、なんでモンゴルと戦っているの?」

「昇さん、それは攻めて来たからに決まっているじゃないですか?」

「ジャンヌ!たぶん、昇の世界では内陸国でだからじゃない?あんた、どうせそうなんでしょ?」

「ああっ…うん。そうだ…。」

「まったく…。その説明も必要みたいね。まず、この世界の蒙古(モンゴル)は騎兵部隊によって領土を拡大させ今もその領土を保有しているわ。以前から、モンゴルとは衝突があったものの今回が初めて日露仏連合領土の占拠があったの。そして、この作戦自体も『戦争』ではなく衝突とされているわ。」

「なるほど…。」

「昇さんと一緒に来た自衛隊の方々も既に交戦されています。」

「えっ?…そうなの?」

「はい、この世界に来てすぐに…。」


…この世界に来て、すぐ?

たしか、一番最初に被害にあったのはF15Jで…。


「…それじゃあ、あの時の航空機が?」

「はい、モンゴル軍の航空母艦から発艦した艦載機です。あくまで、偵察目的だったと思われます。」

「…そんな。」


事情がわからなかったとはいえ、俺も言わば当事者の一人だった。

自衛隊の人達はこのことについて、知っているのだろうか?

…少なくとも俺よりも早くから。


「そろそろいい、昇?」

「…まだ、状況が飲み込めてないけど…わかった、カチューシャ続けて!」

「そう、今も言った通りモンゴル軍も航空母艦を保有している。そのため、この上陸作戦では複数の艦隊が用意されているわ。まず、敵航空母艦との交戦、及び陽動する連合軍の航空母艦屠龍(とりゅう)を主として編成された艦隊、そして、もう一つが戦艦四季島からなる与那国島攻略艦隊の二つよ。」

「…それじゃあ、俺はその戦艦が主力の艦隊って…こと?」

「そうよ…まあ、どちらにしても後で合流することにはなっているけどね。」

「それなら、良かった。」

「けど…。」

「ん?何か問題でもあるの?」


カチューシャは、何か言いたそうだった。

確かに戦艦が主力の艦隊と航空母艦が主力の艦隊では、色々と違うのだろう。

少なくとも、攻略艦隊の方が戦力が回されないのだろう。


「…まあ、問題というか。」


ようやく、カチューシャは口にしだした。


「…その戦艦四季島って…予備役艦船で…近代化改装も施したんだけど…。」

「その…昇さん…戦艦とは言ったもののサイズが駆逐艦より小さいです。」

「…えっ?」


戦艦と言えば、大和とか大きいのじゃなくて…。

駆逐艦より小さい…。


「ようするに、それくらい古いんですよ。」

「…そんな。」

「つべこべ言っても、これしか回されてないのよ。輸送船だって量産品だし。」

「もしかして、財政がかなり厳しいの?」

「いえっ、そんなことはありません。ただ領土が広いので戦力を配分している上で作戦も防衛戦力を残したうえで行わなければならないので仕方がないんです。」

「…それにしても、まさか旧式艦船ばかりじゃないよね?」

「それは、勿論。進水したばかりものも一応用意されています。」

「だからこそ、この作戦は比較的有利なの。だけど、その先が大変で…。」

「その先がモンゴルへの侵攻なのか?」

「ええ、だから何としてもなるべく多くの航空母艦を温存して敵の艦隊を撃滅する。艦隊の合流もそのためなの…。まあ、戦艦は駆逐艦、巡洋艦、輸送船団と共に上陸することになっているから結局のところこの作戦はついでみたいな物なの。」

「ついでって…。」

「そういうものよ。」


ようするに、与那国島奪還作戦は大局的に見れば小規模な戦闘だということだろう。

あくまで、モンゴルへの侵攻する上で与那国島を早めに取り返すことでモンゴルへ圧力をかけたいのだろうか…。


「わかった…。それで、モンゴルに上陸した後はどうするの?」

「はい、モンゴルに上陸後はウランバートルを目指して海岸沿いを移動することになっています。上陸することは全く問題ありませんが、その後激しい地上戦が予想されています。」

「…俺もそれに参加するんだよね?」

「…そうです。」

「昇、私はあんたがすぐに死なないように訓練したつもりなんだけどね。」

「死ぬつもりはないよ。」

「それじゃあ、この辺りで…昇さん、行ってらっしゃい。」

「あなたの船は輸送艦波照間よ。曹長達も同じ船だから…海岸には気をつけなさい。」

「ありがとう、それじゃあ行ってくる。」


俺はジャンヌとカチューシャにそう言い残し部屋を出た。

今は、モンゴルに行くことよりも与那国島を生き延びることの方が大事だと自分に言い聞かせた。

そうでもしないと、俺は…。

もう…俺には帰るところがないかもしれない。

結局、俺はこの世界に来て何か変わったのだろうか?

もしかしたら、何も変わっていないのかもしれない。

俺が桜、ジャンヌ、カチューシャから学んだことは果たして役に立つのだろうか…。

けれど、それは俺の居た世界で学んでいたことにも同じことが言えるかもしれない。

だとしたら、戦場は社会ということになるだろう。

馬鹿馬鹿しい話だ。

でも、少なくとも今の俺に出来ることはこれしかないのだろう…。

あのまま、基地に居ても何も出来なかったはずだ。

こうやって、いつのまにか気がつかない所まで流されて、もがいて…。

人を殺せる力を…俺は手に入れた。

だけど…俺はこの力を自分を守るために使う…そう思いたい。

刃物と、銃器…金属で出来たモノ…。

これが、この世界の力なのだろうか?

だとしたら、物凄く詰まらない。

俺が居た世界と寸分たがわない…。

それなら、何を俺は拒んでいるんだろう。


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