第38話 C分隊
今日は、やけに早く目が覚めた。
今朝も多くの兵士がここに連れて来られたのだろう…。
俺と同じような服を着た兵士でいっぱいだった。
そして、日露仏連合と言うように黒い髪と金色の髪が交じり合っていた。
しかし、ほとんどは髪がなく坊主頭だった。
食堂で飯を食べた俺は、ジャンヌを探しに司令部の方へ向かった。
やはり、今日は兵士の数が多いようで迂回したり、本来ならば通らない街路樹の隙間を歩いた。港の方は黒い緑色で塗られているのが遠目から見えた。
俺が司令部にたどり着くと既にジャンヌはそこに居て、何やら先ほどの黒い緑色と同じ色の物を持っていた。
「おはよう、ジャンヌ!」
俺は、いつも…のように挨拶をした。
「おはようございます。昇(のぼる)さん。それでは、いきなりですがこれに着替えてください。」
ジャンヌは、そういうと俺に荷物を手渡してきた。
見るとズボンと上着のようである。
「あの…これは?」
「軍服ですよ?…昇さんの。」
「えっ…?」
…薄々そんな予感はしていたが本当にそうなってしまった。
だいたい…緑とかオリーブ色の物が多すぎるんだよな。
ハンカチとか、タオルに至るまでこの色だし。
「…そう驚かれましても。言いましたよね、上陸作戦って…。」
「言ってたけど…。」
「だから、準備してください。明日には与那国島に向かいますよ。」
「明日!」
「はい、そうですよ!」
あっ…明日って…。
いくら何でも急だとは思う。
しかし、港に居る彼らは列車で運ばれてすぐに船に積まれ…島を目指していた。
だとしたら、俺の待遇は良かった。
だけど…俺はまだ戦う心構えも出来ていない。
それどころか…戦場というのものすらも俺にとっては未知の領域だった。
「いくらなんでも…。」
「昇さん、早く行かないとさらに犠牲が増します。とりあえずこれに着替えてください。C分隊へ案内します。」
「…わかった。」
俺は、司令部の近くの誰にも使われていない部屋で着替え、ジャンヌにC分隊が集まっている部屋へと案内された。
「お待ちしておりました。」
「彼をよろしくお願いします。」
部屋の扉を開けるとそこには、筋肉質の無骨な男が居た。
「お任せください…。」
「頼りにしていますよ…Aldo(アルド)・Barlow(バルロー)曹長。」
「それでは、昇さん私はこれで…。」
そういうと、ジャンヌは俺を残し部屋から出ていった。
彼は、終始無表情だった。
彼がジャンヌと話していた際に、俺に向けられた視線は冷たく俺の心を抉って覗き込むくらいの熱量があった。
「…君か…話には聞いていたが…ふむっ…。」
俺を見るなり何かを考えていた。
俺は、この男の前で身体をこわばらせていた。
彼が、C分隊…正式名称日露仏連合陸軍第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊の分隊長なのだろう。
「はあ…まあ、ともかくだ…私は上の判断に従い君を戦場まで導く…君の階級はあくまで伍長とされているが…まあそれはいい。…君に戦場を見せるのが私の役目だ。だから、戦場に付く前までは私の判断に従ってくれ…いいな?」
「はい!」
「…そう、その調子だ。私は君の素性を知っている。ジャンヌ様、ボナパルト様のようにこの世界の人間ではないことを…。」
ジャンヌは、彼に俺が他の世界から来たことを伝えていたのか…。
とはいえ…異世界に来ただけの俺に何ができるのだろうか…。
特にこれと言って変わりはない。
言うなれば、戦場に行ったところで死ぬ可能性の方が高いと言うのに…。
「他の方には…。」
「伝えていない…。上からの判断だ。」
俺の言葉を遮るようにアルドはそう言い放った。
「それでは、行こうか…。」
「はい!」
アルドについていき部屋に入った。
先ほどのジャンヌから貰った服に違和感を覚えながらも彼について行った。
彼は、ほかの兵士よりも歩くのが速かった。
190㎝ほどくらいありそうな彼の背中を追った。
彼の背中は、幼い頃に見た親父の背中のように見えた。
…俺は、帰れるのだろうか。
「着いたぞ。」
「はい!」
再び部屋のドアが目の前に現れた。
アルドが扉を開き、後から俺も中に入った。
「分隊集合!」
彼が、そう声を出す。
大きな音を立てながら、何人かの兵士の足音がした。
「…全員居るか!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
「休め、今日から隊に加わる新入りを紹介する!長篠(ながしの)昇(のぼる)伍長だ!」
「今日から隊に加わります。なっ、長篠昇です!」
「以上、解散…。」
そう言い残し、アルドは部屋を後にした。
…盛大に噛んでしまった。
こんなんでいいのだろうか?
「よろしく、昇(のぼる)!あたしは、坂上(さかがみ)杏樹(あんじゅ)。階級はあなたと同じ伍長よ!」
「よろしく、お願いします。」
「硬いなあ…ひょっとして結婚済みか~?」
「結婚?…していませんけど。」
「ふ~ん、そうなんだ。ん?どこ見てるの?」
「えっ、あっ、いや…髪を…。」
「ああっ…髪ね…。黒いでしょ。お母さん譲りなの。」
「そうなんだ…。」
坂上杏樹…。
髪の色は黒で、瞳は青色…。
体型はスレンダーで、胸は…ジャンヌより少し小さめだった。
あとっ、髪に白いリボンを付けている。
「よろしく長篠君。分隊長から聞いていたわ。ようこそ、日露仏連合陸軍第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊へ。」
「よろしく、お願いします。」
「あっ、自己紹介がまだでしたね。私は、木村(きむら)ゆかり。階級は軍曹…現場では私に従って…。それと、純血の日本人だから…。」
「軍曹殿は…また、純血とか私を仲間はずれにしようとしている。」
「あなたも、混血を売りにしたらどう?」
「どうだか…。」
なんか…ギスギスしてるな。
木村ゆかり…。
黒髪の長髪、ブラウン系の瞳、胸は大きく垂れ気味…。
身長は俺と同じか少し上くらいだ。
「よろしく…。」
「はい!よろしくお願いいたします!」
「…Lora(ロラ)・Worley(ウォーリー)…兵長。」
「よろしくお願いいたします。」
「…敬語じゃなくていい…示しがつかない。」
「わかった…。」
ロラ・ウォーリー…。
体型は幼く…。
胸も小さい…なんで、そんなところ見ているんだろう俺は…。
髪はくもぐった赤に近い色。
なんというか、守ってあげたくなる女子って感じだ…。
「…君は?」
「はい!Lev(レフ)・Bleichman(ブレイフマン)上等兵です!アルド隊長からの指示で長篠伍長を頼まれておりますので、何卒宜しくお願い致します。」
「ああっ、よろしくレフ…。」
「はい!」
Lev(レフ)・Bleichman(ブレイフマン)。
金髪で、俺よりも体格の良いロシア系?の男だ。
「中山(なかやま)三郎(さぶろう)です!よろしく、お願いします伍長殿!」
「よろしく…。階級は?」
「はっ、二等兵であります。…?」
「どうかした?」
「あっ、いえ…なんでもありません!」
「そうか…。」
中山三郎・
坊主頭の日本人?。
細いが筋肉は付いている。
背は俺より少し大きい。
「よろしく、長篠君。私は、杉山(すぎやま)太郎(たろう)だ。彼は、木下(きのした)健之助(けんのすけ)。」
「よろしく、お願いします。」
「彼と私は、衛生兵だ。木下君も最近この部隊に配属したばかりだ。よろしく、頼む。」
「はい!」
杉山太郎…。
階級は衛生軍曹。
丸い眼鏡をかけている。
見た目の割には、筋肉質だ。
木下健之助…。
階級は衛生上等兵…。
年は、俺と同じくらいだろうか…。
全体的に日本人体系だ。
「それじゃあ、お祝いと行きますか!」
「隊長は、良いんですか?」
「貴様、上官の指示が聞けないのか!」
「すいませんでした、飲みに行きましょう!木村軍曹!」
「それじゃあ、皆さん行きましょう!」
「あっ、はい!」
「さて…それじゃ先に酒を抑えに行きますか…ロラ兵長、坂上伍長、木下上等兵、中山上等兵、行きますよ。」
「「はい!」」
「了解です!」
「…はい。」
そう言うと、木村は4人を連れて部屋を後にした。
「さて…できれば、酒は控えて欲しいのですが…仕方ありませんね。それじゃあ、私はもちょっと失礼しますね。」
そう言い残し杉山も部屋を後にした。
部屋には、俺とレフが残った。
「伍長殿!」
「…ああっ…どうしたの?」
「いえっ、もしかしてですけど…。」
「…なんだ?」
俺は、とりあえず伍長っぽい話し方をする。
ようは、偉そうに…。
「その…あっ…いえっ、何でもないです。」
「言いたいことがあるなら…。」
「その…すいません。」
「…。」
「その…伍長って…もしかして…兵士じゃないんですか?」
「…っ…何を言って。」
「いえっ…『なんで、わざわざ階級を聞く』のかなと思いまして…。」
俺は、その問いに対して…。
「偉い人の階級章ばかり見過ぎていたせいだ。」
そう、彼に返した。
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