第11話 事件に集まるのは一人じゃない。

入間基地会議室


田中らが交渉へと出発した後、未だに多くの民間人、もとい報道関係者は会議室で話し合いをしていた。

昇は、すでに自室へと戻っていたためその会話の内容を知ることはなかった。

「まったく、…私は何度でも言うがやはり、おかしい。」

「ああ、その通りだな。」

「さしづめ、災害対応に追われているか…私達を拉致し捕らえる…人質として利用されているかもしれない…。」

「まあ、そうだとしたら自衛隊の即応部隊が動いているさ。それに、ここも言わば軍事基地だ。」

「クーデターとでも、言いたげだな、橋爪?」

「まあ、そういうなよ、橋本。」


彼は、橋爪(はしづめ)秀夫(ひでお)。

そして、もう一人は橋本(はしもと)晃(あきら)。

二人は大学の同期であり、顔を見知った友人でもあり、…記者(てき)であった。


「はあ~、まったく、何でこんな目に遭うんだ。」

「いつぞやの事件と同じじゃないのか?お前の所の会社は、そういう事を、扱うのがお上手なんじゃなかったっけ?」

そう、橋本は皮肉交じりに言葉を述べた。

大学時代もそうであったように…。

心底、恨みを込めながらそう橋爪に説いた。


「…ああ、そうだよ。うちはタチの悪いゴシップ誌が専門だ。」っと、橋爪は語尾を強めた。


「けど、お前の所も変わらないんじゃないのか右派のくせに。」

「右派は、右派でもあくまでもうちは中道右派ですよ。」

「社説には、独自意見が多発しているようだが?」

「確かにそうだ。しかし、そうしなければうちの商品は売れないのでね。」

「まあ、いいさ。何にしてもここから何処にも行けないさ。」

「それもそうだな。まあ、仲良く行こうか…でも記事はうちが先に出すからな!」

「どうだか…うちの編集部はザルでね。その分、早く出せるさ。」


最後には、お互い冗談交じりにそうつぶやき合った。


「「ふうむ…交渉か。成功するとは思えないのだが…あなたはどう思う?」」

「「さあ、私にはわからないよ。しかし、失敗すれば私たちも危ういということを忘れてはならない。」」

「「それもそうだな。何にしても私たちは日本人では無い。ただの記者団の一員だ。そして強いていうのであれば満足に英語も話すことができない者も私たちの中にはいる。」」

「「それは、私たちにも同じことだ、張さん。なんせ、私たちはもともと大統領を追いかけて日本に来たのだから…まあ、それでも他の局の職員が居たからこそこうして、今のところは何とかしのげている。」」

「「そうだな、確かに私たちだけでは会話は上手く成り立たなかった。しかし、まだあまり時間が経ってないからって、言うのが本当のところだ。これから、私たちと彼らの間で発生する言語問題を解決しなくては前には進めない。」」

「「ああ、しかし…それは簡単には解決できないだろう。数でいえば確実に日本人の方が多い。ましてやここは日本の基地だ。そして、言葉だけでなく、文化や道徳観も国によって違う。」」

「「国ではなく…地方にもよるだろう。今は何とか仲良くはしているがね。」」

「「台湾のメディアか?」」

「「そうとは言っていない。私たちはあくまで取材に来ただけあり、その中で偶然にも彼らと出会ったということだ。そのため、彼らの思想や考え方をどうにかしようとは思っていない。無視している。」」

「「無視か。確かに思想は問題にはなるがここでは問題にしたところで現状は変えられない。」」

「「それはわかっている。あくまでお互いにその事を考えずに行動を共にしているということだ。一人でも多くの話者が居れば少しは落ち着くし、何より情報がうまく伝わる。」」

「「同感だ。しかし、問題が消失したわけではないぞ。」」

「「ああ、そうだな。しかし、我々に何がこの環境でできよう?この場所が異質だから今は何もしていないがこれが長く続くとほころびが生じる。そして、それは徐々に浸透していく。

最後にそれは、悲劇を生み出す。…ここにはすでに火種が用意されている。すぐにもそれは、燃え上がるかもしれない。」

「「火種は私たち…外国人か。」」

「「ああ、そうだ。…残念ながらその悲劇を止めることはできなさそうだ。…ここには、あまりにも多くの外国人報道関係者がいる。」」

「「…。」」

「「それだけじゃない、その報道関係者達は男性だ。」」

「「言いたいことは良くわかった。しかし…。」」

「「私たちにはどうすることもできない…か?」」

「「…ああ、そうだ。」」

「「悲しいことだな…。」」

「「そうだ。」」


「…なあ、自衛隊の動きをどう思う?」

「なんだよ…いまさら…。まあ、うまくやっているんじゃないのか?」

「それは、そうだが…。」

「なんだ?自衛隊の災害派遣がどうとかって、話しか?」

「それもあるな…しかし、なんにせよ事態の変化が激しいし。」

「対応が早すぎるか…。阪神淡路大震災の後、自衛隊は遅かったって、言う批評のせいか?」

「…そんなこともあったな。」

「ああ、その時は俺も若かった。」

「あんたも行ったのか?」

「ああ、震災後に…だがね。…あんたは?」

「俺も同じだ。そして、この前も。」

「そっか…ところで、あんたはどう考えているんだ?」

「私の意見か?」

「ああ、お互いに会社の意見なんか聞きたくないだろう?」

「それは、勿論だ。それにしても、あんたとは何故だろう…前にも会った気がする。」

「そいつはそうだ。なんせ、朝トイレの前であんたの顔を見たからな。そういえば、名前を聞いていなかったっけ?」

「私は、池戸(いけど)武夫(たけお)だ。あんたは?」

「相模(さがみ)慎吾(しんご)だ。」

「そうか、よろしく。…ここにいるとどうやら感覚がおかしくなるな。さて、話と行こうか…。」


こうして、いくつかのグループを作り、家族や会社のことなどを彼らは話し合っていた。

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