同郷

第10話 交渉こそ最大の戦果を!

田中達は、交渉のため入間基地を後にした。

軽装甲機動車二台に分かれて乗り、発見されたただ一つの道から迂回するように敵陣地に向かった。


「敵は本当に、交渉に応じるだろうか。」

「少なくとも、交渉をちらつかせる。弾丸ではなく、言葉を介したということは交渉に応じる用意はあるかもしれません、司令。」

「司令、いざとなれば私達が相手します。なんせ、護衛任務は海外でもありますのでね。」

「…そうだな、訓練は行っているな。」

「笑えない、冗談ですね。」

「ああ、そうだな。何にしても私達がよい結果を持ち帰らない限り私達に未来は無い。」


そして、急ごしらえされた軍用テントの中に田中と和元、陸上自衛隊坂上真司は入っていった。

中には、テーブルとイス、そして、頼りないガス灯。

無造作に置かれた書類、傷んだ地図が置いてあった。

地面は短い雑草が生い茂っている草原、その雑草が浴びるであろう陽の光をテントは遮り温度を下げ、湿度を高くしていた。


「ようこそ、日本の皆様。初めまして。」

中には、三人の男性と一人の少女、小銃を担いだ兵士が六人ほどそこには居た。


「はじめまして、私は田中昌隆。基地司令だ。彼女は、和元久代。司令付きの者だ。

そして、彼は…。」

「坂上(さかがみ)真司(しんじ)だ。よろしく。」

「ああ、よろしくさて、早速だが交渉に移行したいのだが。」

「はい、それでは始めましょうか。」


三人は、置かれていたイスに腰をかけた。


「それでは、まず私の身分とあなた方の置かれている状況を説明するとしよう。」

「…置かれている状況?」

「ああ、メッセージは受信したか?」

「はい、確かに受け取りました。」

「そうですか…なら話は早い。ところで、交戦されました?」

「…。」


見られていたのか…。

田中は、顔を歪めるのを抑えた。


「やはり、そうでしたか。…どうでしたか?」

「それは、つまり…。」

「あなた方の兵器は通用しましたか?」

「…いいえ。」


彼らは、何処まで知っているのだろうか。

いくら増槽(オプション)無しのF-15とは言え、行動範囲は大きく所々に兵士を置いたとしても確認はできない。

ましてや、高速度移動する戦闘機ならそれは明白だ。

もしくは、レーダーに捕らえられたかなのだが、判断素材としては不十分だ。

そもそも、そんな物があればすぐに見つけられはずである。

しかし、すでに彼らに見つけられているということは何かしらの索敵手段があり、通信網も確保されており、それが機能しているということだ。


「そうですか…。まあ、予想通りですが…。」

「あなた方は、何処まで私達の事を知っているんだ?」

「あなた方が、ここに来た後、すぐに部隊を派遣しました。

そして、あなた方の戦闘機が見事、敵の偵察機を破壊されたこともわかっています。」

「あんな固い偵察機があるか…。」

「確かに私達の世界では、すでに時代遅れの物ですが、この世界では最新鋭兵器ですよ。

この世界では、そうなっていますよ。あんなものはアメリカが大量生産した物の一つに過ぎません。」

「…アメリカが…近くに。」

「勘違いしないでください。アメリカは、日本とは安全保障条約を締結していません。」

「…そんな。いや、だから攻撃を…ところで、何故最新鋭兵器なのですか?」

「わかりませんか?ここは、平行世界(パラレルワールド)、言わばアナザーワールド…いや、完全な異世界または他の地球という考え方が正しいかもしれません。

幽霊ですら存在する、幻想の生物が存在する、人類に似た生命体が存在するが、言語の発生、宗教分布は私達の世界とほとんど同じ。そして、あの世界の物がこの世界には無い。」

「…異世界…そんなまさか。」

「ええ、確かにそうですね。」

「幽霊…。」

「はい、私も幽霊です。」

「…っ。」


テントの影に隠れていた男の顔が見えた。

日本人的な顔立ちでは無く、欧州系の顔だった。

そして、若々しい長身の青年だと言うことが改めてわかった。


「ご紹介が遅れましたね。私は「「ナポレオン・ボナパルト」」、現フランス国の最高顧問、もとい皇帝かな?そういった立場だ。」

「なっ…。」

「驚くのも無理はないだろうが心配しなくていい。その…何というか私の能力…おそらく、ロゼッタストーンが由来なのだろうかその能力で私は、母国語であなた方と会話できている。」

「…本当に、あなたはナポレオンなのですか?」

「…ああ、そうだ。」

「あの叔父様、やはり身長だと思うのですが…。」

「…ジャンヌ…それは、そのだな…本当は低身長というのは後付けで…。」

「知っていますよ。革命の後、あなたに関する事柄の多くは書き換えらたり、他国からの批評などでそう言った逸話が作られたりしたことは…。」

「…軍人が低身長の訳はないだろうに…。」

「…ロゼッタストーンか。」

「ああ、そうだ。」

「何にして、こうやって会話できるのは大きい物だ。」

「…。それでは、私達の要求と行こう。まず、あなた方が現在保有している車輌、兵器、設備をすべて献上することで私達はあなた方の生活を保証する。」

「…なっ…それは。」

「使えない道具をいくら持っていても意味はないだろう?」

「…生活の保証とは?」

「あなた方を人材として、就職、教育を施すということだ。」

「…民間人もか?」

「…民間人が…いるのか…。」

「ああ、報道関係者と学生が1人。」

「…。」


会談は、10時間にも及び田中が再び戻る頃には、辺りは暗くなっていた。


「…これで、本当に良かったのか?」


それは、田中の決断が正しいことであったのかっと、問いただすように温度が田中を痛めつけた。

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