第8話 規則を変えることができるのは、非常時だけだよね。
「さて、みなさまこのようになってしまい申し訳ございません。」っと、田中昌隆は平然と言った。
…どうすればいいんだよ。
第一、俺はただの高校生だし、よりにもよってそんなことになるなんて聞いてもいない。
それに、敵に包囲されたというのがどういうことなのかもわからない。
…日本に敵がいるって…テロリスト。
いや、それだったらすぐに…。
「おいおい、どうするつもりなんだ!」っと、報道陣の一人が怒号をあげた。
それに際して、他の報道関係者も相次いで田中を責めた。
しかし、田中は気味が悪いくらいに冷静だった。
そして、ある記者がこう言うと、すぐにその場は静まり返った。
けど、それはただのストレスのはけ口として田中に吐いたいちゃもんでしか無かった。
「なんで、排除することが出来ないんだ!あんたも一塊の軍人であるなら死力を尽くしてでも任務に当たれよ!防衛戦闘くらいできるだろうが!それくらい出来なくて何が自衛隊だ!」
「…ええ、確かにそうかもしれません。
国民を守るのが、我が日本国自衛隊の任務です。
が、そのためにはやむを得ず投降するのも選択肢としてテーブルに載っています。
ましてや、大東亜戦争における精神論に縋るべくなく、彼我(ひが)の戦力差を理解するということも時には重要なのです。
そのため、当基地の現状有する戦力では敵を撃破することはほぼ不可能であり。
また、人的被害を被ることは容易に想像、予測することができます。
そして、今の我々には何より物資が少ない。
それは、この非常時に陥ってから何よりも最初に皆様にお伝えした通りです。…我々、暫定入間基地所属の自衛官は敵対する武力勢力に対して光信号での会話を要求することに決定しました。」
「…横暴だ!そんなことは望んでいない!」
「はい、しかしこれしか方法は…。」
「…なんだよ!結局、前の戦争と同じじゃないか!情報はアンタラが牛耳っている!何もかもだ!第一、彼我の戦力差ってなんだよ!適当な理由を付けて、任務を放棄して、逃げているだけじゃないのか!」
「…おい、お前。」
「さすがに、言い過ぎだ…。」
「感情論だな…論理的ではない。」
さすがに、彼の言葉は過ぎたものだったので、辺りからはかすかに非難の声が聞こえた。
実際、このような場合は発言者ではなく、質問の受け手側の対応によってその後は左右される。
「…確かにそう思われるかもしれませんね。」
そう、田中はしばしの沈黙のあと声を出した。
「わかりました…モニターに画像は出せるか?」
「はい、ただいま。」
そう、指示を田中は出すと、部屋にはプロジェクターが自衛隊員らによって置かれ、部屋の照明は落とされた。
ただでさえ、空調が効いてないこの部屋の空気はさらにうっそうと不快なものになった。
そして、プロジェクターに電源が入った。
写されたのは、真ん中が白くその周りに写真で地図を作ったモノのようだった。
所々に、色の違う丸が書いており、何やら不可解な英語が書いてあった。
「…これが、現在当基地を包囲している敵部隊を展開前にヘリコプターにより撮影した画像を重ねたものです。
今は、広範囲に分散しており、さらに増援も送られているようです。
そして、何よりこの基地は対空兵器には事欠きませんが、対地及び機甲兵器に対する装備は整っていません。
…これより停戦交渉に移ります。」
「…ははっ、笑えるな本当に…あんなに日本の自衛隊は優秀だっと言われ続けていたが…。
そんなことは、無かった…という事かね。
いや、もしかしたらこれはクーデターなのかもしれない。
…じゃなかったら…だな。」
会議室の中には、失望が漂っていた。
さすがに、それはどんなに疎い人間でも気がつくくらい、濃厚なものだった。
「これで、会議を終了します。」
そう、田中昌隆は言い終わると部屋を後にし、その後、広報の社(やしろ)が退出を促した。
俺は、部屋の外に出ると中間(なかま)さんにあった。
「調子はどう?」
「はい、大丈夫です。」
「そう、ならよかった。…こんなことになるとは思っていなかったわ。」
「はい…この後は…どうなるんですか?」
「ごめんなさい、あなたが期待していることは何一つ無いの。…場所を変えましょう。」
そう、昇は中間(なかま)美空(みく)に言われて、以前話したことのあるパブルームに移動した。
「…誰も居ないようね。とりあえず座って。」
「はい。」
「そうねえ、何からあなたに話すべきなのか…。」
「あの…美空さん…投降って…。」
「実感が無いわよね。私もそうよ。何にしたって、こんなことは本来ありえないのよ。」
「…そうなんですか?」
「ええ、長くなるけど聞いてくれる?」
「はい。」
それから、美空さんの話は始まった。
「日本は常に他国から狙われているわ。
理由は、明確で日本の政治、経済機構が東京に集中しているから占拠がしやすいって言うのはすでにわかっているから、その想定とは別の話。
日本海側からの進行は、艦隊戦になると予想されているからここからは航空機の派遣と対弾道ミサイルの設置だからそれとも関係がない。
っと、なると今、こんなことになっているということはすでに他の基地や都市が陥落しているって、ことになるの。
だけど、通信網は電子兵器によって妨害されているとしてもここにいる人全員が使えないって、情報はどう考えてもおかしいのよ。
それで、私は考えたんだけど…ここは、日本じゃないのかもしれない。
…そう、突飛な事を信じないと納得がいかないの。」
「…はい?」
「えっ、ああ長かったわね。というか、う~ん、なんて言おうか・・・。」
「ええっと、つまり想定されている事態ではないってことですか?」
「そう、それ!つまり、そういうことみたいなの!」
…何だったんだ、あの長い話。
「いや、待って…そうじゃないの。」
「ええ?」
…まだ、あるの?っと昇は身構えてしまった。
「あなたの扱いについてなんだけど。…」
「あっ…。」
そういえば、忘れたな…自分のこと…。
いや、だって、その…そんなこと考える暇というか状況がわからなかったからな。
「それで、その…どうなりそうですか?」
「それなのよねえ…はー、わかったら教えるから少し待っててね。」
「はい、わかりました。」
「うん、それでね~…。」っと、その後長時間に渡り昇は美空さんの話を聞き続けた。
最初は、今後についての話だったがそのあとは、基地内の恋愛事情など昇には関係ない話まで移り変わっていった。
……。
「…本当にやるんですか?」
「ああ、そうらしい…。」
「わかりました、和文でいいんですよね?打ちますよ!」
そう命令を受けた彼はサーチライトに、言われた通りに文面を敵に向けて打った。
「「当基地は、戦線の放棄を求む!貴公らの判断を望む」」
「「繰り返す、当基地は、戦線の放棄を求む!貴公らの判断を望む」」
「…どうだ。なっ…。」
「あれは…。」
「「了解した、すぐに武装を解除せよ。ようこそ、この世界へ」」
「…隊長?これは…。」
「すぐに、司令部に連絡しろ。交渉の用意はできた。」
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