第2話 古き機体と現役機

「ああ、こちら第七航空団所属、刑部直人だ。

現在、緊急時につき、日本語での通信とする。

現在、当機は百里基地を目指して飛行中、レーダー感無し。

…頼む、誰か応答を。

…回線を全周波数に設定。

…っ、誰か教えてくれ!ここはどこなんだ!

…状況報告。

15時00分、当機は航空自衛隊入間基地を離陸、その後突如、発光現象に遭遇。

ログから一時的に、レーダー及び周辺機器に異常を確認。

現在、異常は確認できず。

早急に着陸し、機体の整備を行いたい。

…はあ、落ちなかっただけでも自分の腕は褒めたいものだよ。」


刑部は、今、空を飛んでいる。

空は青く、心地よく晴れている。

けど、そんな悠長に空を飛んでいる暇は無かった。

GPSは反応せず、目視を頼りに彼はこの世界にはあるはずのない百里基地を目指して飛んでいた。


「…こちら、入間基地管制塔。

現在、基地内の全区域で電力不足のため、予備電源で通信を行っています。

…刑部さんですか?」


柔らかな女性の声が聞こえた。

彼女は、坂本美奈子。

航空管制官の一人だ。


そして、刑部が入間基地に来た際に最初に聞いた声だった。

しかし、その時とは違う切迫した声色だった。


「はい、そうです。」

「良かった、現在地は?」

「不明です、GPSが機能していません。

おそらく、故障だと。そちらは観測できていますか?」

「いいえ、今、レーダーに回せる電源に切り替えているところです。」

「了解、滑走路は?」

「はい、有りますけど…?」

「空けといてください、引き返します。」

「わかりました。それでは。」


ひとまず最悪の事態は、避けられたような気がした。

これから、方向転換をし、入間基地へとんぼ返りだ。


「はあ…まあ、しょうがないか。」


少し休みたい気分だった。

わずかな時間とはいえ、連絡が取れないのはきついものだった。


「さてっと、…ん…レーダーに感あり。…速いな。緊急出動スクランブルか?」


刑部のレーダーに、光点が3つ表示された。

すでに、弧を描くように旋回した刑部のF-15Jの後方にそれは、あった。


「はあ…どこからだ?」


刑部は、無線を使い連絡を入れることにした。


「ああ、こちらは第七航空団所属……」


しかし、反応は無かった。


「おい、聞こえているのか!」


次第に、光点との距離は迫っていった。

そして、遂に目視できる距離となった。


「…F6-Fヘルキャット?いや、あんな色の機体は・・・。」


光点の正体はF6-F、第二次世界大戦のアメリカの艦上戦闘機だった。

しかし、機体の塗装は濃緑色で日本軍機のような色合いだった。

刑部は、無線を民間のものに合して見ることにした。


「ああ、そちらの民間機、聞こえるか?」

「……。」

「繰り返す、そちらの民間機、聞こえるか?」

「……。」

「おい、聞こえるだろ!」


ヘルキャットからの返答は無かった。


しかし……。


パアア


「なっ…。」


聞こえてきたのは発砲音だった。


「くっそ、管制塔、応答してくれ!」

「はい、こちら入間基地管制塔!」

「今、関東で何かイベントはやっているのか!

参加者が狙ってくるのだが!」

「いえ、そんなことは聞いていません。」

「噓だ、それじゃあこいつらは!」

「少しお待ちください…あっ。」


……。


入間基地との通信が途絶えた。


「くっそ…何なんだよ!」


すぐに、また通信ができるように考えたかったが、刑部は不安から焦り始めた。

刑部は、機体の加速性能を生かして、その場から離脱しようとした。


「さすがに、その機体じゃ付いてこれないだろうな!」


アフターバーナーを使い、加速する。

この機体は、有事の際のために燃料を満載した増槽と、機銃の弾丸を積んでいた。

本来なら基地に帰投し、すぐに通常任務に戻る予定であった。

アフターバーナーを3秒ほど炊いたが、一向に距離を広げることはできなかった。

あいかわらず、撃たれるばかりである。

そして、遂に機体にヘルキャットの銃弾が命中した。

その弾は跳ね返らずに刑部のモニターに機体のダメージを表示させた。


「…くっ、個別的自衛権を使用する。」


刑部は、ついに耐えかねてヘルキャットを撃破することにした。


「こんのおおお!」


あとで、この件に関する責務は免れることはできないだろう。

しかし、彼には今置かれている不思議な状況が理解できなかった。

そのため、この判断を下したのである。

F-15Jと同じ速さに達する、F6-F。

民間機にはあり得ない武装。

F-15Jの装甲を貫通する敵の弾。

考え出された結論は、テロリストだった。

そして、刑部とヘルキャット三機はドッグファイトへと移行した。


「なっ、あんな機動…。」


分が悪いのは最初から分かっていた。

向こうの方が機体が古いから、という理由から侮っていたというのもあった。

しかし、いざ始まってみると予想なんかはなっから、無いようなものだった。

刑部は背後をとり、機体に向かってトリガーを引いた。

すると、驚くことに銃弾は機体を跳ねって行っただけであった。

次第に、刑部が追い詰められる形となった。

それどころか、もてあそばれているような感じだった。

もう民間機ではなく、敵の飛行機は不快な機動、それこそ重力の10倍は軽くかかっているようなことをしてもなお、悠々と空を飛んでいた。

それは、刑部には恐怖でしか無かった。

しかし、刑部はその動きが訓練兵のそれであることに気がついた。


「はあ…そういうことか…それじゃあ…「「死んでもらいますか」」。」


刑部は、今まで狙っていた機体の胴体から攻撃目標を機種に絞った。

再び背後をとり、トリガーを引いた。

すると、今度は風防内に朱色が確認でき、落ちていった。

二機のトムキャットは、それを見て、機動を変えた。

刑部もまた、アフターバーナーをふかして、残りを殲滅しようとした。

二機のトムキャットは連携を取るような動きは一切見せなかった。


「はー、こんなのに遊ばれてたとはな…。」


くもぐった声で刑部は、そう言うと攻撃を開始した。

刑部は、ヘルキャットに攻撃を加えたものの当たり所が悪くて撃墜には至らなかった。

そのため、もう一度攻撃を加えると今度こそ撃墜することができた。

そして、最後に残ったヘルキャット一機は撤退する素振りも見せず、攻撃してきた。

しかし、刑部は危なげなく最後の一機を屠った。


「…聞こえますか?」

「ええ、聞こえています。」

「そうですか…。

滑走路周辺は空けておいてあります。

けど…。

…いいえ、報告は基地に着いてからお願いします。」

「了解。」

「あの…一体何が…?」

「わかりません。」

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