第138話「竜将レッシバル」
セルーリアス海中部——
巣箱艦隊は交代で小竜を飛ばし、全方位を偵察しながら西へ進んでいた。
敵艦隊を警戒しての偵察ではない。
ある船を探していた。
そろそろ現れるはずなのだが……
「……居た!」
発見したのは真西へ偵察に出ていた竜騎士だった。
探していたのは西方の交易船。
ワッハーブの船だった。
ウェンドアでの戦いにおいて、フォルバレントの役目はシグ隊を拾い、全速で西へ逃げることだった。
決して遅い船ではないが、相手はリーベル軍だ。
速ければ速いほど良い。
そのため出撃前日、ソヒアム以外の三艦へ物資を移せるだけ移し、残りは海へ投棄したのだった。
おかげで身軽になることができ、シグたちを無事に救出できて良かったのだが、そろそろ残りの物資が不安になってきた。
そこでワッハーブの出番だ。
ロミンガンにリーベルの残存兵を下ろした後、彼の船が全速で補給物資を届けに来てくれた。
物資を艦隊へ移す作業はすぐに始まった。
彼の役目はこれで終わりとなる。
だが、レッシバルたちにはまだ大事な用事が残っていた。
ずっと支えてくれた彼に、〈戦果〉を報告しなければ。
作業を水夫たちに任せて、探検隊とワッハーブはソヒアムに集まった。
広い甲板に会する一同。
大森林へ行ったレッシバルが代表する。
「模神を撃破した後、真っ白な魂たちが天へ昇っていったよ。一つ残らず」
ずっと模神の一部と化していた彼の妹も……
「ありがとう! ありがとう、勇者たちよ!」
ワッハーブの目から涙が溢れ出た。
レッシバルの右手を両手で握りしめ、でもそれでは足らずに抱き付いた。
不意を突かれたレッシバルは驚いたが、彼の背中をポンポンと優しく叩いて宥めた。
「うぅ……良かった……本当に良かった!」
彼の嗚咽が止まらない。
目の前で妹が溶かされてからずっと、この日を待っていたのだ。
解放される日を。
もう過去のことだ、と自分に言い聞かせてきた日々もあったが無理だった。
いまも苦しんでいる最中の人間が、過去の痛みにできるはずがない。
人を含め、生物は死ぬと別の生物に生まれ変わるという。
生と死の輪環に居るのが生物としての正しい姿だ。
模神は妹をその輪環から引き離すものだった。
でもレッシバルたちのおかげで妹は自由になれた。
こんなに嬉しいことはない。
反面、自由になれたということは彼女の死を受け入れなければならないことを意味する。
それでも模神の一部でいるよりずっといい。
少年のときに凍りついたワッハーブの時が動き出した。
これから彼も本当の意味で前に進める。
二人を囲む探検隊も貰い泣きしてしまった。
この兄妹が味わってきた苦難の日々を、他人事とは思えなかった。
少年だった自分たちは運が良かっただけだ。
あの日タンコブ岩に行かなかったら、全員彼の妹と同じ末路を辿っていたはずだ。
感激の涙に濡れる一同。
しかし、ザルハンスとトトルの伝声筒に水夫からの報せが届く。
物資を移す作業が完了した、と。
別れのときがやってきた。
トトルが前に進み出る。
「世話になったな、ワッハーブ。海上封鎖のときからずっと」
右手を差し出し、握手を求める。
「帝都が落ち着いたら、いつでも訪ねて来てくれ」
ワッハーブもレッシバルから離れると涙を拭い、笑顔で握手に応えた。
「ああ、必ず!」
無情ではあるが、別れが済んだら両者は早く離れなければ。
海上にいる彼らはまだ知らないが、世界は無敵艦隊の敗北を知っている。
アレータ海海戦は、各国から派遣された軍艦が遠くで観戦していた。
詳細はそれぞれの本国に報告済みであり、セルーリアス海での戦闘はもうないと判断した商人たちは航海を再開する。
彼らに、西方の交易船と帝国の軍艦が並んで停泊しているところを見られない方が良い。
なぜなら……
無敵艦隊壊滅はリーベルに大打撃だったかもしれないが、海軍はまだまだ力を残している。
イナンバークとシグの間で和平の話はついたが、陸軍派が宮廷内外の意見を終戦で纏められたら、という条件付きだ。
あの宰相が海軍派に敗れたら、帝国とリーベルの戦は続くことになる。
その場合、ワッハーブと帝国人が密かに外洋で荷の受け渡しをやっているところを見られたら非常にまずい。
彼の国も戦に巻き込まれることになる。
だから名残惜しいが……
いまはお別れだ。
自船に戻ったワッハーブは、巣箱艦隊が西の水平線に消えるまで手を振っていた。
***
ワッハーブと別れた巣箱艦隊はピスカータを目指していた。
理由は二つ。
一つ目の理由は、大水門で負傷したエシトスを療養させるためだ。
彼は大水門から帰艦すると甲板で気を失った。
傷の痛みと出血と疲労の中、気力で飛んでいたのだ。
そっとイルシルトから降ろして応急手当を施し、船室で休ませた。
翌日、目を覚ました彼は「もう大丈夫だ!」と言い張ったが、もちろん偵察の当番からは外した。
このまま船室で大人しくしていてもらい、ピスカータから馬車に乗せて、隣村へ連れて行く。
隣村には神官がいるので、神聖魔法でちゃんと治してもらうのだ。
帝都なら神殿もレッシバルが入院していた大きな病院もある。
現在地からなら、ピスカータへ向かうのと同じくらいの日数で帝都に辿り着けるが……
しかし艦隊はピスカータを目指していた。
決して、望郷の念に駆られてのことではない。
二つ目の理由——
それは小竜たちを森へ返し、海軍小竜隊を解散するためだ。
森林地帯へ行くには帝都よりピスカータの方が近い。
レッシバルは帝都で勧誘の際、〈ガネット〉としか言わず、竜騎士たちも「海鳥の世話を——」としか言っていない。
よって院長先生以外、誰も小竜のことを知らない。
そこで、シグは皆に提案した。
いま解散すべきではないか、と。
小竜隊は早く解散すべきなのだ。
この艦隊は帝国に秘密で作られた私設軍隊であり、何をやったのかといえば、私闘だ。
ネイギアス籍の民間船を撃沈し、リーベルの遠征艦隊を全滅させ、ウェンドアを攻撃した。
まるで海賊ではないか。
すべて帝国を守るための戦いばかりだが、そう命じられたわけではない。
帝国の命令に基づかないなら、それは私闘だ。
犯罪だ。
幸い、まだ人々は〈ガネット〉と〈巣箱〉を知らない。
ならば、知られていない内に小竜を森へ帰し、ソヒアムたちは元の帝国第二艦隊へ戻すべきではないか。
……というのがシグの主張する解散理由だった。
ラーダとトトルは解散に賛成した。
模神を退治したことで、村を焼いたリーベル派へ一矢報いることができた。
潮時、なのかもしれないと二人はシグ案に頷いた。
レッシバル、エシトス、ザルハンスの三人は反対した。
「フラダーカやイルシルトたちと別れるなんて!」
「提督が翔竜旗に込めてくれた思いを無にすることはできん!」
と猛反対し、海賊行為についても無敵艦隊撃滅の手柄で帳消しになると主張するが、それを決めるのは裁く側の帝国だ。
手柄で帳消しなんて楽観的すぎる……
また「私設艦隊の今後の維持費をどうするのか?」との問いには誰も明答できなかった。
トライシオスの力を頼れないことは三人も理解していた。
もう彼個人にも連邦にも必要ない艦隊だ。
だからといって大人しく観念する三人ではない。
いつまでも「でも……」や「そうは言うが……」と抵抗を続けた。
三人の抵抗が続く限り、探検隊は賛成三、反対三で割れたままだ。
この状況に連動したわけではないと思うが、他の竜騎士たちも賛成と反対に分かれ、しばらく議論が続いた。
だが、艦隊がセルーリアス海西部を抜け、ピスカータ沖に入る頃には全員賛成で意見が纏まった。
リーベル派だったとはいえ、巣箱艦隊はネイギアス狩りをやってきた。
模神のことを白日に晒せない以上、きっと艦隊の存在が対連邦外交の障害になるかもしれない。
せっかくここまで育てたのにという思いは捨てきれないが……
巣箱艦隊はピスカータ到着後、解散することに決まった。
***
シグは読み違えていた。
人々の間に伝わっていく、情報の伝達速度を。
観戦士官たちの報告により、各国は帝国の小竜隊が無敵艦隊に打ち勝ったことをすでに知っていた。
帝国にも知らせてくれる親切な国はないが、これほどの一大事は自然と伝わるものだ。
多少の遅れはあるものの、帝国も自国の勝利を知った。
どうやって勝利したのかについても。
艦隊がピスカータに到着すると、帝都からの使者が待っていた。
使者は六人に告げる。
「陛下が帝都でお待ちです。巣箱艦隊は直ちに帝都へ向かってください」
「いや、しかし……」
逮捕の虞を捨てきれないシグが、エシトスの治療を理由に渋る。
けれども無駄な抵抗だった。
怪我人がいるからすぐには出発できないというなら、治してやれば良い。
護衛の騎兵が隣村へ全速で向かい、あっという間に神官を連れて戻ってきてしまった。
「…………」
これを断るのはおかしい。
黙ってエシトスを治してもらうしかなかった。
「さあ、これで支障はありませんね?」
「……はい。帝都へ向かいます」
使者の口から〈巣箱〉という単語が出た。
なぜ知っているのかは不明だが、使者が知っているということは皇帝陛下もご存じだということだ。
シグは、もう逃げられないのだと観念した。
***
巣箱艦隊は帝都へ帰ってきた。
四艦の接舷作業が終わり、一同はいよいよ艦から下りる。
ソヒアムではレッシバルが先頭、次がシグ、残りはその後に続く、という並びで甲板へ出る階段を上っていた。
トン、トン、トン……
複数人が板を踏む不規則な足音が続く。
ところが、
トン、トン、ト。
足音が止まった。
皆、一斉に音が止まった方を見る。
レッシバルだった。
「皆、胸を張れ! 俺たちは帝国の法に反していたかもしれないが、人として正しいことを成し遂げたのだから!」
もしかしたら……
模神の危険性と退治してきたことを伝えれば、お咎めなしになるかもしれない。
でも帰路の途中、艦隊内で話し合って決めたのだ。
模神のことは誰にも明かすまい、と。
帝国にも魔法の使い手はいる。
そいつらが第二の賢者たちを目指すようになったら大変だ。
巣箱艦隊の使命は模神を退治すること。
ミスリルゴーレムを退治して終わりではない。
二度と世界に現れることがないよう、人々の記憶に残さない。
それが本当の模神退治だ。
レッシバルは正面を向き、自らの言葉通りに胸を張った。
村を焼き、リンネたちを酷い目に遭わせたリーベル派をやっつけることができた。
悔いはない。
トン、トン、トン……
階段を上り切った。
その途端——
ワアアアァァァッ‼
「っ!?」
大歓声がレッシバルの全身を叩いた。
帝国を救ってくれた勇者たちを一目見たくて、港に集まっていた兵と市民だった。
後に続いて甲板に上がってきた者たちも群衆の熱気に圧倒され、
レッシバルと同じく呆然となってしまった。
「こ、これは一体……」
「…………」
シグの不安は杞憂だった。
巣箱艦隊は無敵艦隊を撃破した強力な戦力だ。
これからの帝国になくてはならない。
艦隊の解散も勇者たちの逮捕もあり得なかった。
逮捕どころか、大手柄を褒め称えるべきだろう。
第一、彼らは何も違反していない。
巣箱艦隊は、第二艦隊提督の極秘命令に従っていただけなのだから。
***
巣箱艦隊も帝国第二艦隊の最期を知っていた。
アレータ海海戦後、ウェンドアへ向かう途中でトライシオスから巻貝で知らされていた。
確か第二艦隊は、無敵艦隊に接近戦を挑むも力及ばず全滅した……はずだったと思うが……
提督は生きていた。
とはいえ満身創痍で、海へ出られる身体ではないが。
彼と数名の部下たちは魔力砲の衝撃で海へ投げ出され、海を漂っていた。
そのまま漂っていればやがて全員力尽きていたことだろう。
しかし、なぜか帝都近くの浜で巡回隊に保護されたのだった。
一体、どうやって海へ投げ出された重傷者たちが帝都の浜に?
いろいろと疑問は生じるが、深く考えないことだ。
海には不思議なことが沢山ある。
……どこからともなく現れる巨大な双胴船とか。
巡回中の騎兵隊が浜に座り込んでいた彼らを見つけ、病院へ運んだ。
おかげで提督が帝都の司令部へ報告してくれたのだった。
巣箱艦隊は第二艦隊の別働隊である、と。
病院へやってきた探検隊一同は「は?」という驚きが口から飛び出さないよう、飲み込むのが大変だった。
特にザルハンスの驚きが一番大きく、しばらく固まったまま動けなかった。
正気を取り戻した一同は、提督に感謝した。
おかげで逮捕されずに済んだ。
「帝国を救ってくれた恩人を犯罪者にするわけにはいかんからな」
提督は白い歯を見せて微笑むが……
ボロボロでベッドに横たわる姿が痛々しい。
その姿が第二艦隊の壮絶な最期を物語っている。
巣箱艦隊のために無敵艦隊の注意を引き付け、僅かな勝機に賭けて突撃し、返り討ちに遭った。
その壮絶な戦いを思うと皆の目に涙が滲んだ。
中でもザルハンスが一番酷かった。
涙と鼻水が合流して滝のようだ。
泣きじゃくる猟犬に提督は手を伸ばした。
「ワシの航海はここまでだが、おまえはこれからの帝国海軍を頼むぞ……我が猟犬よ」
「はい、でいどぐぅ……うぅ」
涙を拭った手で掴むから提督の手も濡れてしまった。
だが嫌がりはせず、ニッコリと微笑んだ。
ザルハンスは提督の言葉を誤解していた。
引退する年寄りが若者に送る言葉だと受け取ったようだが、それは違う。
提督はザルハンスに夢を託したのだった。
提督の夢とは、いままでガレー中心だった帝国海軍を、小竜隊の運用を基本とする新しい海軍に改造すること。
不意討ちとはいえ、たった二〇騎で無敵艦隊を殲滅できた戦闘力。
セルーリアス海を横断し、遠く離れたウェンドアで作戦行動を取れる艦隊。
小竜隊の艦隊こそが、これからの帝国を守る力だ。
提督は誤解を解き、正しく理解してもらおうかと考えたがやめた。
いまの猟犬の状態では無理だ……
でも、いずれ理解できる日はやってくる。
ザルハンス提督と呼ばれる頃か、あるいはザルハンス司令と呼ばれる頃には理解しているはずだ。
——我ながらいい旗だった。新しい海軍によく似合う。
提督の位置からよく見える。
涙と鼻水でグチャグチャになったザルハンスの後方、窓の外でソヒアムの翔竜旗がはためいていた。
***
病院を出た探検隊は竜騎士たちと合流し、待っていた使者と共に宮殿へ向かった。
皇帝陛下がお待ちだ。
宮殿に入ると広い廊下が真っ直ぐ伸び、その左右に立派な扉が並ぶ。
竜騎士たちはそれらの部屋へ小隊毎に案内された。
「リアイエッタ伯と第一小隊の皆様はこちらの部屋でございます」
シグはその部屋ですることがわかっているので素直に従おうとしたが、レッシバルたちは初めての宮殿なので勝手がわからない。
廊下で立ち止まり、
「シグ、陛下がお待ちじゃないのか? 俺たちは疲れてないから休憩なら要らないぞ?」
どうやら部屋を休憩室だと勘違いしているようだ。
「違うよ、レッシバル。身だしなみを整えるんだ」
「身だしなみ?」
確かに長い航海と戦で着ている衣服はくたびれ、髪はバサバサ。
無精髭も目立つ。
まるで野蛮人のようだ。
謁見の前に、まず身だしなみを整えなければならなかった。
しばらくの間、室内で待ち構えていた従僕たちの悪戦苦闘が続く……
やがてぞろぞろと、海軍正式軍装に身を包んだ竜騎士たちが廊下に出てきた。
第一小隊の部屋からも出てきたが、探検隊だけは軍装ではなく貴族のような正装だ。
再び使者の案内で謁見の間に通された一同は、皇帝テアルード七世に拝謁した。
陛下は暗君ではなかった。
書斎でシグが暗に示していたリーベルへの打つ〈手〉こそが、彼らだったと理解している。
目の前で片膝を付いて畏まっている彼らのおかげで今日も玉座に腰かけていられるのだ。
だからその恩にどう報いるべきかをすでに考えてあった。
「面を上げよ」
玉座から声を掛けられたので素直に従って顔を上げる。
まずは先頭の探検隊、後に並ぶ竜騎士たちの順に。
「陛下!?」
彼らだけでなく、左右に並ぶ重臣たちからも驚きの声が上がった。
テアルード七世が……
平民の竜騎士たちに頭を下げていた。
「帝国に暮らす人々を代表して感謝する。そなたたちのおかげで帝国は助かった」
放っておいたら、一人の人間として気が済むまで頭を下げていたかもしれない。
しかし重臣たちが許さない。
小竜隊の功績に対して誰も異論はないが、皇帝が平民に頭を下げてはこの国の秩序が乱れてしまう。
寄ってたかって諫め、頭を上げさせた。
謁見の間が少々ざわついたが、皇帝の頭がすぐに上がったので落ち着きを取り戻した。
ここからが本題だ。
大手柄には大きな褒美だ。
テアルード七世が考えた褒美は大きく二つ。
一つ目は竜騎士たちに対して。
小竜隊及びその母艦は、第二艦隊の別働隊だったのだから作戦終了後は原隊に復帰するべきだ。
よって、
「そなたたちは今後も海軍竜騎士団として、帝国の海を守ってくれ」
かつて騎竜を奪われ、陸軍から追放された竜騎士たちは、このときから正式に海軍所属の竜騎士となった。
「おおおぉぉぉっ!」
「うわぁぁぁっ! やったぁぁぁっ!」
竜騎士たちは大喜びだ。
皇帝陛下が直々に認めて下さった。
もう正竜騎士に竜を奪われることはないのだ。
重臣たちが再び静まらせようと声を張り上げるが無駄だ。
大歓声に打ち消されてしまい、何を言っているのかよく聞こえなかった。
続いて、二つ目の褒美だ。
これは探検隊六名に対して。
〈ガネット〉と〈巣箱〉は彼らが考案し、育ててきたもの。
そんな彼らへの褒美は……
帝国には騎士の身分が二つある。
正騎士と準騎士だ。
ところが、実は正騎士の上にもう一つ身分があった。
〈大騎士〉という。
大騎士は、帝国に多大な貢献をした者に贈られる一代限りの称号だ。
これを名乗れた者は歴史上、僅かしかいない。
真の英雄だけが名乗ることを許される。
大騎士の称号は、無敵艦隊から帝国を守ってくれた探検隊にこそ相応しい。
この日、テアルード七世の名において探検隊六名は大騎士に叙せられた。
後世、帝国の六騎士といえば……
エシトス、ザルハンス、シグ、トトル、ラーダ、レッシバルの六名の大騎士たちを指す。
拝謁を終えた六名と竜騎士たちが宮殿から出てきた。
すると、
ワアアアァァァ……ッ!
再び大歓声に包まれた。
港から宮殿前に移動していた群衆たちだ。
少しでも長く英雄たちと一緒に居たいのだ。
無敵艦隊を滅ぼしたアレータの竜騎士たちと。
レッシバルは拳を天に突き上げ、彼らに応えた。
ワアアアアアァァァァァ……ッ‼
人々は今日のことを忘れないだろう。
その目に勇姿を焼き付けた。
あれが——
竜将レッシバルだ!
***
本作は『アレータの竜騎士』というタイトルの物語だ。
だから前段落の『竜将レッシバルだ!』の後に(了)を打つべきだったとは思う。
その方が、タイトルの枠内から物語がはみ出さず、終わり方として綺麗だ。
でも同時に本作は『ファントムシップ〜幽霊船と亡国の姫〜』の前日譚でもある。
果たして、この前日譚とファントムシップはちゃんと繋がっているだろうか?
本作第一話で少し触れているが、後に帝国はリーベル王国・共和国を滅ぼし、イスルード州としてしまう。
その統治方法は……あまりにも冷酷非道だと言わざるを得ない。
平民の竜騎士たちに感謝を述べたテアルード七世。
第二艦隊の提督。
孤児院の院長先生。
そしてピスカータ探検隊。
本作の帝国は血も涙もある人たちが多く登場する国だったのに、ファントムシップの帝国はまるで正反対の国だ。
なぜ冷酷非道の帝国になってしまったのか?
その説明が必要だ。
『アレータの竜騎士』という枠に拘らず、たとえはみ出ることになっても帝国変貌の理由を記すべきだと考える。
次話からは、戦後からファントムシップの時代までについて語っていきたいと思う。
お楽しみに。
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