第10話 適正検査 2

「やっぱり水かぁ!火とかのほうがかっこよくね?」


「いやいや、水属性はあのサーシス家の属性だろ?すごい、いいじゃん!」


「私、光だったよ」


 周りからは自分の属性について話し合う声が次々に聞こえてくる。

 ならば。とエレクは一度水晶から手を離すと、再度触れてみる。今度はがしっとにぎりこむように。


「なんで」


 エレクの期待をあざ笑うかのように水晶にはなんの色も浮かばない。


 俺のだけ壊れてる?そんな疑問が頭をよぎったとき、肩を手でたたかれた。


「なにをしているんです?エレク・リーフバーグ。検査を終えていないのはあなただけですよ」


 先ほどまで頭に直接響いていた透き通る声が今度は直接耳に届く。先ほどまでの声の主は確実にこの人であろう。


「すみません。水晶が光らなくて……。どうしたらいいんですか?」


 エレクは感じている困惑を隠すことなく目の前に現れた人物に伝えた。

 全身を黒いローブで包んだいかにも魔法を研究しています、という感じの目の前の人物は目を見開くと、そのまま首を傾げた。その拍子に長い髪がはらり、とゆれる。声と、髪の長さから女性だと推測されるが、中世的な顔立ちから、判断は難しい。


「魔力をこめてもですか?」


「あ!魔力!こめるんですね!ええっと、なにをどのくらい、こめたらいいんでしょうか……?」


 魔力をこめる発想はエレクの中にすこしもなかったため、だから色がでなかったのか!とひどく驚いた。でも、いったい何の魔力を使えばいいんだろうか。


「なにをって……。いつも魔法を展開させる感じで少しだけ魔力をこの水晶に流し込んでください」


 今度は目の前の彼女のほうが困惑した表情でエレクを見ながら、説明してくれる。彼女の指先が水晶にふれると、ぽぁっと紫に光をともした。

 彼女の属性は闇のようだ。


「はい。やってみます」


 エレクはもう一度水晶に手を触れると、いつものように空気中に紛れる様々な魔力や物質の力を借りると、魔法を展開させた。いつもの詠唱はイメージを作りやすくするために行っているため今回は省略する。ほんとうに軽く、イメージは生卵が割れないような感じで。


 ぱりんっ!


 エレクが水晶に魔力を送った瞬間、水晶は七色に光を発し、砕け散った。


「え?」


「何をやっているんです!Fだと魔力のコントロールもできないのですか!」


 驚きを隠せないエレクは目の前の彼女に助けを求めるが、逆に怒号が返ってきた。


「なに?」


「なんかFの人が魔力のコントロールできなくて、水晶割っちゃったんだって」


「え?あれ、コントロールなんかいらないだろ!さすがF」


 いつのまにかエレクの周りにはたくさんの人が集まっていたようで、エレクと割れた水晶に視線が刺さる。

 それに感化されたのか、目の前の彼女の顔はみるみるうちに真っ赤に染まり、エレクをにらみつけた。


「エレク・リーフバーグは無属性ですね。『それでは、みなさん各クラスへ移動してください』。あなたもはやくね」


 釘をさすように言われた一言はエレクの耳をすり抜けていった。


無属性?属性なしってこと?


 エレクの父、アーレンスとノアは火属性だった。それに『ウィンドーウッド』の精霊の加護で風属性にも強かった。だからてっきり、自分にもアーレンスやノア、グレンのように火属性か、村の加護である風属性が強くでるものだと思っていた。確かに火属性の魔法は使いづらいが、風属性の魔法は得意分野だ。それにエレクの今は亡き母は風属性だったと聞く。属性は遺伝が強くでるものだという。どちらの属性も出ず、ましてや無属性って、俺には魔法の適性がないってことなんだろうか。


 エレクの頬をすぅ、と冷たい風が撫でていく。


 期待していた分、ひどく落胆している自分がいることにエレクは今更気が付いた。


「魔法だけは、魔力だけはグレンに勝てると思ってたんだけどな」


 エレクは小さくつぶやくと、その場に座り込んだ。


 小さいころから剣術にも才を見出していたグレン。ノアも熱心に剣術を教えていた。

 エレクは剣術はからっきしで、なんの武器も扱うことができなかったため、おとなしくいろいろな属性魔法を展開して練習し、精霊たちとも仲良くなった。


 それなのに、やっと魔法が学べるとなったら、属性なしか。

 それなら俺はいったいどうやって強くなるというんだ。

 忘れていた頭痛が戻ってくる。


 このままうずくまりたい衝動にかられつつ、胸のペンダントを握りしめる。


 父さんと、頑張るって約束しただろ。こんなとこでたちどまってたまるか。立て、エレク。自分で自分を鼓舞するように必死に足に力を入れると、ふっ、と腕をひかれた。


 座り込んだままそちらに倒れこむと、暖かなぬくもりに包まれる。


「大丈夫か?力抜いてろ」


 咄嗟に距離をとろうとしたエレクだが、重心が完全にひかれた腕の方に傾いているため、うまく力が伝達しない。

 それなら、と全身から力を抜いた。完全に声の主の方に体を預ける形になる。


「よくできました。少し動くからな」


 体がふわっと宙に浮く。そこでエレクは意識ごと手放した。

 目を閉じる瞬間に移ったのはきれいなブロンズだった。


「よくできました」その響きが耳に心地よかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る