第61話 護衛依頼

 後日改めてカルヴィンさんの店を訪れ、ククリナイフの上位互換が欲しいと話をした。


 嬉しいことにちょうど良い素材も見つかり、付与師の当てもあるそうだ。


 値段は僕が予定していたよりも、高くてビックリ。

 でも『聖魔の槍:唐獅子牡丹に負けねーのを作ってやるわい』と言われたよ、チョー楽しみ!


 出来るまでの間、迷宮の4階の地図があと少しで埋まるので攻略を再開した。


 とはいってもモンスターハウスと組み合わせての攻略になるので、サクサクとは進めていない。


 何度か泊まり込みをして探索を進める。

 街に帰ってくる度に店へ顔を出すけど、不思議と武器が出来上がらなかった。


 何か問題があれば相談してくれるはずだし、ここはかさずにじっと待っておくしかないよね。


 そんなある日、素材を売るためギルドへ出向くと、モニカさんに呼び止められた。


「ユウマ君、エリカさん。

 あなたたちのパーティに、領主様より指名クエストが出ているわよ。内容を確認してちょうだい」


 そのクエストは、スポーズ法国及びグリーンストロルス連邦への、訪問から帰国までの要人警護であった。


「うそ、こんなチャンスが……」


 報酬は従魔を含めて1人金貨20枚。

 金額はたいした事はないが、ベッツィーが連れ去られた国へのクエストだ。


 何かの手掛りになるかもしれないし、ぜひ受けたい。

 みんなに以前のことを説明してお願いをした。


「ダーリンはマスターなんだから、ただ命令すればいいのなの」


「その通りじゃ、妾にも気を使うでない」


 ありがとう、みんな。モニカさんに受ける返事をすると、詳しい内容を聞くため、直接お城へ行くよう言われた。


「ユウマ、ただ間違えてはいけないのはこれは護衛のクエストであって、そのベッツィーとやらの事は優先していいものではないぞ」


 改めて言われると、自分の中の気持ちが定まっていないことに気付いた。


 もし任務を放り出してベッツィーの事を優先したとしたら、そのあと2人ともこの領内で、二度と暮らしてはいけないだろう。


 選ばないといけない場面が来たとき、僕は決めることができるだろうか……。


 ただ事前に気づいたことにより、その選択を迫られたとしても、頭ご真っ白にならずに済むはずだ。


 今はそう納得するしかない。




 ハワード子爵さまのお城は相変わらず、この世のものとは思えない荘厳な姿を保っている。


 そうだ。思い出したよ、このプレッシャー。

 あう、また胃が痛くなってきちゃった。


 お城を訪ねると、既に連絡は届いていたようでスムーズに中へ通された。


 そこは以前来た時とは違う、広い会議室。これはこれで、あの時とは違う重圧感が……ぐっ。


 そこで対応してくれたのは、執事長のハウエルさんという方だった。


 今回の依頼主はヨウドウ·ハワード子爵様本人からで、護衛対象は次女のジゼル姫様だ。


 日程はスポーズ法国までいき道に8日間、そこで3~4日滞在する。

 そして次に向かうのはグリーンストロルス連邦で、4日の道のりだ。

 そこでの各会合を済ませたら帰路となる。


「その間、貴方たちには、ジゼル姫様の身辺警護にあたってもらいます」


 そんな重要な役僕らでいいのですか?


 ジゼル姫様の身辺警護をするにあたって、同じ女性の方がなにかとよい。


 ただ女性の社会進出度が高いとはいえ、そもそも高レベルの女性騎士の数は少ないそうだ。


 それは同じ荒事であれば女性は、名誉を得られるに騎士になるより、富を得られる冒険者を選ぶ人が多いらしい。


 そして必然的に、ハワード子爵様の傘下にいる女性騎士も少なくなる。


 つまり部外者の僕らが選ばれたのは、ウチがレベルの高い女性主体のパーティである、というのが理由だそうだ。


 それとぼくたちは人数的にも、3交代勤務であたるのに丁度いい。


 早朝からは僕とハーパーのペア。

 午後少し過ぎた頃から、エブリンとキンバリーのペア。

 そして就寝から明け方まで、エリカとジェンナの2人となる。


 だけど、あくまでも身辺警護のみ。


 警備本体として5人に増えたトンスケーラさん達が主軸になり、騎士も10人とがっちり安全を確保してある。


「当然だのう。この地の騎士は優秀と聞くでのう」


 少し安心出来た。全て任せられても困るもんね。


 そして、そのほか従者も20名の大所帯となるため出発は1ヶ月後と言われた。



 帰り際にたまたまトンスケーラさんに会え、今回のことで助言をもらえた。


「知らない土地に行くときには基本だが、今回は特にあのスポーズ法国だ。

 補給もままならないと想定しておくといいよ。

 消耗品のみならず、多少の保存食はあったほうがいいかな」


 さすが第一線でやってる人は違う。

 物資を雇い主頼りきらない。そういった心構えが必要であると教えてくれた。


「それとユウマ君にお願いがあるんだけどいいかい?

 君のMP丸薬をクエスト期間中、護衛メンバー全員の分を譲ってもらえないんだろうか?」


 店頭より高い値段でよいので、1日1人3個として依頼された。


「この護衛は失敗できない、万全を期したいのだ頼む!」


 それにはもちろん快諾し、事前に届けることを約束した。





 1ヶ月内でやることがいっぱいになったよ。


 長期間この街を留守にするから、その間を迷惑をかける人には挨拶をしておかないと。


 まずリーブラさんにベーグット博士にあとハンナもだ。


 みんなに気をつけてと言われたけど、特に博士には〝西の方に魔素の乱れを感じる〞と言われた。


 魔力操作に関して博士はけているので、少し不安になっちゃったよ。


 それもあるから丸薬作りとか準備もしっかりして、あとレベルもできるだけ上げておきたいなぁ。もう、いっそがしーよ!


 そうなると、迷宮攻略のやり方が変わってくる。

 できるだけ早く4階を攻略し、5階の中ボスを狙うのがレベルアップの近道だと思う。


「ダーリン、私がレベルアップのプランを立てておくのなの」


 フロアボスの居場所は、めどが付いていたので早速向かっちゃおう。


 普段はしないけど、高レベルであるエリカの力を借りて、一方的にやっつけちゃった。


「久しぶりにエリカの全力を見たけど、すごい破壊力だね」


「飛び散ってお肉が残らないなんて、勿体無いぎゃ~」


 そんなエブリンの言葉に呆れたけど、僕のレベルは13へと上がった。

 さあ、いよいよ5階での、身も心も摩りきれる集中生活の始まりだ。フフフフフ……。

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