第62話 ギリギリまで~
護衛クエストが始まるまでの間、少しでも強くなりたい僕らは、出来る限り迷宮に潜る事にした。
事前情報での敵出現数は、変わらず1グループ6匹。でもこの階より、モンスターが様変わりする。
それはスケルトンとゾンビの死霊ゾーンとなるんだ。
これらのモンスターは多少の攻撃では
初めて見たゾンビとスケルトン。見た目のインパクトが凄いよ。
大きな野獣とかとは、また違った怖さがある……でもね。
「なんか弱そうですね、マイマスター」
うん、そうなんだ。ゾンビはズタボロで動きが遅いし、スケルトンは力の源である魔石が丸見え。
「イヒヒッ、魔石で一発だなんて、楽な相手だぎゃ」
まぁ、高値で取引される魔石を壊すなど勿体ない事。だから、する人はまずいないらしい。
だけどそんなの僕らには関係ない。殺る気満々のエブリンが、スケルトンを見つけ攻撃を仕掛けた。
「うりゃ、観念するぎゃ……おろ? 失敗、失敗。でも、そこだぎゃ……あれれ?」
狙いすぎたせいか簡単にブロックされている。
「私にやらせてみろ、槍で一突きすれば……むむむ、骨のくせにやるな」
一見、ネタキャラなんじゃないかと侮っていたのに、両方とも十分強敵で、思っていた通りにはいかなかった。
まずスケルトン、弱点丸出しなので楽勝かと思いきや、防御スキルが高く盾でも防いでくるので、一撃目で魔石を狙えるほど甘くはない。
体勢を崩したりして、隙を作ってから強めの一発がいる。無理に魔石を狙うより、徐々にダメージを与えて倒す方が早いかな。
次にゾンビ、動きが遅く向こうの攻撃は当たらないけど、口から吐き出す酸性の毒液は浴びたくないや。
HPダメージよりも、気になるのが見た目の悪さ。
ゲロそのまんまだもん、臭いし汚いしまっぴらゴメンだよ。
それに当然、金属製·革製の装備も痛むから、キンバリーもゾンビの時は安くて頑丈な盾に変えている。
おニューの唐獅子牡丹だけど、これは逆に積極的に使うことにしている。
それはキンバリーにとって魔の力を扱うのは簡単だけど、聖なる力はまだ完全に扱いきれていないんだ。
仕舞い込んで、いざという時に使えないのでは意味がないと頑張っている。
そんなこんなで、ゾンビが構えるとみんな一斉に飛び退くよ。
「うぎゃー、また、吐いたぎゃ! 臭いぎゃー、もう、このこのこのー! なんでこんなに硬いんだぎゃ?」
そう、ゾンビのもう1つの特徴は腐った肉体なのになぜか硬いんだ。
嘘でしょ? て思うほどで、レベル差が大きい時は、なかなかダメージが通らない。
「そうだ、エブリンは炎の短剣を使ったら?」
以前手に入れた炎の短剣はゾンビの弱点をつくから、ダメージスコアをかなり出せるはず。
「はっは~ん、マスターじゃ扱えない武器ぎゃ」
違うよ! 否定しても取り合ってくれず、任せろとドヤ顔をしてくる。
気がついたのは僕なのになんか悔しい。
こんな理由で慎重になり、攻略スピードが遅くなっちゃっているんだ。
他のパーティに比べれば、4倍も5倍も速いんだけど、僕が理想とする速さには程遠い。
今回、僕らの目的はレベリングだ。その為には地図のマッピングと中ボス攻略が必要になる。
いかに効率よくできるかがカギなんだ。
それとここは5階なので、中ボスも5匹いる。それに対して、この階の活動パーティ数は約80組。
同時期に全パーティ集まることもないし、競合相手としても、せいぜい20組ぐらいらしい。
それに中ボスとなると、同じレベルでもザコモンスターとは比べ強くなるので、敬遠するパーティも多いそうだ。
これは結構チャンスがありそうで期待しちゃうよ。
早速、大部屋を発見したので中を覗いてみた。運のいいことに中ボスは倒されていなかった。
――――
夜叉ドクロ(レア):――――
Lv:19
僕らのレベルは13だから、このレベル差は厳しすぎる。
なるほど、他のパーティの気持ちがよくわかるよ。ここは諦めて次に行くしかないか。
さっきの中ボスもそうだけど、この階からは同じザコモンスターでも、レベルのばらつきが大分あるんだよね。
無闇やたらと手を出せれないのが残念。
「マイマスター、次のエリアに中ボス部屋がありそうです」
この前はダメだったけど、2回連続してハイレベルのは湧いてないでしょ。
あれちょっと待てよ。なんか金属音しているんじゃない?
「はあ、先越されていますね。救援要請狙いで少し待ちますか」
でもそんな都合よく物事は運ばない。
彼らも勝算があるからこそ、討伐を決意したはず。そして先客は無事に勝利した。
見守っていた事に感謝され、その場をあとにした。言葉より経験値を~!
次の中ボスがいたであろう部屋のずいぶん手前で、晴れやかな笑顔の冒険者とすれ違った。
やっぱりだ。激しい戦闘があったと思われる床の跡。クッ、めげるもんか、つ、つぎだ。
そして、護衛が始まる前にレベルを1つでも上げたかった僕たち。
しかし、あのあと中ボスに会うこともなく、終わりを迎えてしまった。
こればっかりは仕方ないことだけど、計画を立てていたハーパーはだいぶ落ち込んでいた。
気にしないでいいのに、普通なら1年から2年かけてやっとレベルは上がるものだから、僕の思惑なんて贅沢な望みだよ。
気にしない、気にしない。
「でもでも、あそこの森にはオーガがいるのなの。せめてあと一つは上げたかったのなの」
オーガって強いの?
「たまにいるはぐれオーガだと、ギルドランクAクラスでも手こずるのなの」
そ、そう。うん、でもしょうがないよ。うん、うん……しょうがない。
口ではこう言ったものの、メッチャ不安になってきたよ。ヤバいよね?
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