第40話 ベッツィー

 パーティメンバーそれぞれがランクアップに必要なポイントも違うし、全員で受けれるクエストだと効率が非常に悪い。


 だから各々に合うクエストをこなすことにした。


 今回は短期間で上げまくるので護衛系はダメ。金額はいいがギルドポイントが拘束期間に対して釣り合わない。


 輸送も同じ理由で除外したし、高ポイントの討伐系は今はない。


 残ったもので割の良いのは『採取』と常にある街中の『配達』と『清掃系』だ。


 僕は日頃からアイテム納品で、既にランクEになっているので、続けて採取でポイントを稼ごうかな。


 ベルトランとミーシャは力仕事の配達を選んでいる。ポーは周辺の村へ出張治療で、ナオミとドンクは1番稼げる清掃と決まった。


 それぞれのチームができて始めようとした時、ポーが何気ない一言を言った。


「誰が1番最初にランクを上げますかね?」


 これで皆に火がついた。


「ミーシャ行くぞ! 目標1日10件だ!」


「ひゃっ……ひゃい……!」


 2人が猛ダッシュで駆けてゆく。


「ちょっとドンク、それは下水道掃除よ。だから、ちょっと待ちなさいってば!」


 臭いのがダメなのに清掃系を選んで大丈夫かな?


 まぁ何とかするだろうし、こればっかりは代わってあげることもできないしなぁ。


 僕は余裕があるし今日は森の奥の方まで行ってみようかな。

 MP丸薬用の採取も兼ねているから楽でいいよ。


 一人歩きになるけど僕のレベルも上がって! ゴブリンどころかワンランク上のエリアも怖くない。


 それに薬草のオシフ先生から教えてもらった谷の情報がある。

 発見するのが難しい長寿茸や、ねむり苔が生えているらしい。楽しみだよ、さぁ出発だ。


 1人で来る森は静かでいい。久しぶりの1人かも、おっ! 臭木草とフクレ茸ゲット。

 この世界に来てからいつも誰かと一緒だったなぁ。


 多分みんな僕に気を遣ってくれてたんだろう。そのおかげで全然寂しくなかった。


 みんながいなきゃ今こうして立っていることもなかったはず。

 本当に感謝している、おっ、依頼のミリオン草、発見!


 特にサン·プルルス孤児院のみんな。

 まずはガーラル院長、あの人がいなかったらあの後どうなっていたかわからない。


 それにベルトランとポー、本当に大事な友達だ。


 ベルトランは初めっから頼もしくていつもみんなを引っ張ってくれる。

 ポーはお金のことが大好き、そのおかげで助かることも多い。

 ハンナは優しくて、僕が悩んだとき相談をするといつも真剣に答えてくれる。


 それと一緒にパーティを組んだあの3人。


 ミーシャは口数少ないけれどしっかり屋さんで頼もしい。

 ナオミの見識の高さにはいつも驚かされていて、それと意外にもみんなにすごく気を使っている。


 それとドンク……ドンクって何があったけ?  あっ! そうそう、彼はいつも場を和ませてくる。


 故郷には早く帰りたいけど、色んな人に囲まれて助けてもらっている。どんなに感謝してもしきれないなぁ。


 みんなとならここで頑張っていけそう、ずっとこのままだったらいいのに。


 ミリオン草またまた発見、ふふふっ大量ゲットの予感がしてきたよー。



 夕方ギルドに納品をしに来てみると、ベルトランたちが報告を終えて帰るところだった。


「ユウマそっちの成果はどうだった? こちらも着々と稼いだぜ」


「うん、こっちも調子いいよ。ホラこんなに、1位は貰ったかな」


 ミーシャの目も光り、2人は再び依頼書の掲示板の前でウンウンと唸りだした。


 2人ともしっかりねー。


 な、なんだ! この禍々しいオーラは! うしろからの気配を感じ振り返ると、そこにはドンクとナオミの下水道コンビが立っていた。


 くっさ!


 シャワーは浴びてきているようだけど、なんともしがたいこの匂い。


「うっ……みんな避けてる、まだ匂い残ってる? こんなのもう嫌だわ」


「ナオミそんなの気にするな。モニカさん、それより依頼終了分確かめてくれよ」


 うわ! これは負けたかもしれない。明日は絶対勝つ!



 ◇◇◇◇◇ベルトラン視点◇◇◇◇◇


 何日か経ち、朝早くから俺とミーシャの2人は大量の配達をこなしていた。


「ベルトラン……次は……こっちが近道」


 メンバーのみんなは頑張り、この数日で全員がランクEまで上がった。


 しかし俺たち2人は少し遅れている感がある。


 負けたくはないけど、2人とも疲れがたまっていて休みを取るべきだろう。

 ミーシャは反対するかもしれないけど、あとで巻き返せばいいさ。

 今日はあと昼からの1件だけにしよう。


 午後、高台の富裕層区画にある大きな屋敷に来ていた。


 今日イチできつい仕事だ。まず樽を10個ここまで運び、その中に水を汲み入れて更に馬車へと乗せる。


 かなりの重労働だが、その分ポイントも高い。ヘバラないように休みを入れつつこなしていく。


「……ベルトラン……あれを見て」


 遠くの方で少し分かりにくいけど、男が女の子に怒鳴っている。


 この家の奉公人だろう。女の子の年齢は12~3歳くらいで長い髪のおさげ。

 胸元に青いラインが入った赤いワンピースを着ている。


 男に小突こづかれ泣いている。また怒鳴られ、髪の毛を引っ張られて奥へと連れて行かれた。


「……助けないと」


「いや……俺たちにできることは……何もない」


 そう、ここは彼女の仕事場なんだ。もし今助けたとしても、あとで困るのは彼女自身。

 俺はその時に、ここにまた現れ助けてあげることはできない。


「俺は無力だ……」


 その後は2人黙々と仕事をこなし、依頼を終わらすことができた。あと終了印をもらって帰るだけだ。


「やっと終わったか、おっせーなー! ついでにこの飼葉も載せておけよ」


 さっきの怒鳴っていた男だ。


「いえ、それは契約に入っていません」


「ちっ、ツベコベ言わずにやりゃいいんだよ、 クズが! じゃあねーと終了印をさねーぞ、コラ」


 この男は終始こんな調子なんだろう、頭にくる。


「それでは仕事は破棄さしてもらいますがよろしいですか?」


 男はポカンとした顔で立っている。分かっていないなコイツ。


「ですから、報酬を頂けないのなら今この場で全てぶち壊しますので、樽も水も自分で用意してください」


「お、オイ何勝手なこと言ってんだ」


「終了印を!」


 負けてなるものか!





 帰り道、俺たちはスッキリしない気持ちで歩いている。


 人の役に立ちたくて、悲しむ人を救いたくて頑張るけれど、現実は厳しい。


 弱いものをなぜ打つんだ。お前に弱いときはなかったのか。誰かを頼りたいという気持ちを感じないのか。


 そんな問いに誰も答えてはくれない。


 やるせない気持ちのままで、ギルドに辿り着き中へ入った。


 ギルドがいつもより騒がしい、ポー以外の全員が揃っていて、なにやら話し合っている。


「どうしたんだユウマ」


「あっ! イイところに。何かあったらしくて今ギルドからの話があるんだってさ」


 少しすると1段高くなったところへ1人の男が立った。


「みなさんこんにちは。私は冒険者ギルドマスターのトルーケンです。

 今日この街の騎士団より協力要請が来ました。その詳しい内容を話します」


 協力要請とはただ事じゃない。


「昨日未明、行方不明者の捜索依頼一件を衛兵舎で受理されました。

 証拠がない不可解なものでしたが、そのあと半日の間に4件もの新たな捜索依頼が発生。

 そしてその後も事件は続き、4頭立ての馬車での連れ去りの証言があるものを合わせると、計8件となりました」


 心臓が早鐘を打つ、まただ。また弱い者が犠牲になっている。クソッ!


「白昼堂々とこの街で誘拐事件が発生したのです。

 目撃証言はあるものの、行方が分からず後手に回っている状況です。

 ことの重大さからギルドにも協力要請となりました」


 ざわめくギルドメンバー、だが誰一人うつ向く者はいない。


「よってこの時刻より、冒険者ギルドはギルドメンバー全員に対して強制クエストを発生させます」


 第1の目的は被害者の発見と保護。

 第2に犯人の確保となった。


「みなさんお疲れのところ誠に申し訳ないですが、人命がかかっています速やかな準備をお願いいたします」


「あとは私モニカが代わります。

 詳しい情報・資料を用意してあり、各グループを受け取ってください。

 その後役割分担を決めますのでよろしくお願いいたします」


 この街でそんな事件が起こるとは驚きだ。


 でもさすが冒険者、各々事件を解析したり次の行動を考えている。


「8人とは多いな、でかい組織の仕業だな」


「でも、なんかチグハグしてねぇか? 馬車を用意できる周到性はあるのに、昼間に人に見られている。プロと素人が入り混じってるかな」


「ということは、街のゴロツキどもを雇った可能性が出てくるぜ」


 俺たちも資料に目を通す。被害者は人種も年齢もバラバラだ。どこから探していいのかわからない。


 そして1人の女の子のページで手が止まった。


「……ベルトラン……これ」



 名前:リンカ

 年齢:13歳

 身体特徴:身長142㌢ 体重40㌔ 髪の色ブラウン 目の色ブラウン

 行方不明時特徴:腰までの長さの髪でおさげ 、青いラインの入った赤いワンピース サンダル



 あぁ間違いないあの子だ! なんてことだ、あの時もっとよく注意すればよかった。


 俺は…………誰も救えていない。


「モニカさん、すみません。俺たちこの子を今日見かけました」


 その時、冒険者ギルドの入口の扉が大きな音を立てて開き、そこには1人の男が立っていた。


 ベッツィーの父親、肉屋のチャティーさんだ。顔をクシャクシャにして泣きながら叫んでいる。


「ギルドの皆さん助けて下さい。娘が……娘が拐われました」


 ――――これで被害者は9人となった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る