第39話 後遺症

 残り日数が少なくなったバカンス。


 まだまだ、お土産は買うけど見ておきたいと思ったモノは全て見れた。


 ミュージカルやショーも良かったけど、美術館が最高だった。


 展示品の数、配置の仕方や見せ方も凝っていた。どこの世界にも天才っているもんだなーってつくづく思ったよ。


 午前中に、この前行った魔導具屋さんへと向かって通りを歩いてると、脇の道に別の店を見つけた。


 怪しい店構えだけど、何か掘り出し物がある予感!  あっ! ワゴンセールもある。安いだけあって変な商品ばかりだな。


 魔力を加えると回り続けるだけのコマや、ブスになれるお面、臭い匂いを出すひっつき虫(これは先日のと作者は同じかな)


 凄くバカバカしい物ばかりで、まとめて全部いただきます。


 店の人には感謝されオマケだといって、魔力でフォログラフが見れる古びた魔道具をもらった。


 そして最終日、1つ問題が発生した。帰りの方法で意見が分かれているのだ。


 〝船か馬車か〞


 そう、あの川下りと称する恐怖体験のあとベルトランとドンクは頑なに船を嫌がった。


 しかし、船なら3日で済むところを馬車だと乗り継ぎもあわせて10日はかかる。


 あんな目にあったのに、船を選んだ僕とポーを2人は哀れな目で見てくる。


 しょうがないので、ルートを別々にして迷宮都市ユバで落ち合うことにした。

 7日間空くことになるけど、する事は沢山あるもんね。


 挨拶回りでお土産を皆に持っていこう。

 まずはやっぱり、サン·プルルス孤児院のみんなが先だよね、喜んでくれるかな。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ユウマ、おかえり。旅は楽しんだようだね」


「はい、ガーラル院長。これ院長へのお土産です。それとこれはみなさんで食べてください」


「これは良い香りのお茶だ。すまないね、みんなも待ってるから顔を見せてやりなさい」


 久しぶりの我が家、相変わらずみんなも元気そうだ。


「ユウマ兄ちゃん? もしかしてエンディンダムに行ったの?」


「よく分かったね、はいこれお土産ね」


「……あ……ありがとう……」


 あれ、少し会わなかったから遠慮するようになったのかな。それはちょっと寂しいかも。


「君にはこれね、向こうで流行ってたんだ」


 この子も受け取ろうとしない……。


 いつもなら1番に飛びついてくる位懐いてくれていたのに、今日は目も合わせてくれない。


「じゃ、また来ます。みんなも元気でね」


 返してくれる返事もまばらで、やるせない気持ちになった。これが大人になるってことだろうか。


 一緒に過ごす時間が少なくなり、いつの間にか敬遠されて、そして彼らは旅立っていく。


 それがみんなに必要なことなら、受け入れるしかないよね。気を取り直して次に行こう!





「うわ! ユウマ君かー、ビックリさせないでよ。それにしても、すっかりエンディンダム色だね」


「リーブラさん、ただいま。これおみやげのスカーフです。

 向こうの最新トレンドで似合うと思って買ってきました」


「……うっ……男の私にかい? ありがとう……仕事場だとちょっと派手かな。……そ、そうだ、家の中で使わせてもらうよ」


 リーブラさんも変だ。これはどうしたんだろう?


 宿の女将さんも旦那のナオトさんもなぜか目をそらすんだ。他の人も同じで敬遠されてる感じがする。


 ふと頭によぎるボッチの恐怖。僕は行く前に何かしてしまったのかな? 





「ハンナ、どう思う? 僕は気づかない内にみんなへ嫌な事をしたのかな?

 今まで仲良くしてくれていたのに、急によそよそしいんだよ」


 直接、僕に言えなくてもハンナなら何か聞いているかもしれない。


 寂しくて、悲しくて、悪いところがあったら直すのに、みんな避けるから聞くコトすらできない。


「いい? ユウマ君、落ち着いて聞いね」


 やっぱりだ。こんな深刻な顔で言うからには、僕はとんでもないことしてしまったんだ。


「あ、……あなたの……そのファッション……とても格好が……悪いのよ」


 ん?


「いいえ、あなただけじゃないのエンディンダムへいった人達はみんなそう!

 かなり痛い格好になって帰ってくるの。この前なんか80歳のお婆ちゃんがレオのカーニバルの衣装よ。全然笑えなかったわ」


 んん?


「お土産とかも変な物しか買ってこないし、みんな困っちゃうの」


「んんん? やだなー、ハンナ。そんなにも変なものじゃないよ」


「みんな口を揃えてそう言うわ」


「じゃ、君の為に買ってきたおそろいのスパンコールのシャツとサングラス、これも変なの?」


「うん、この街には似合わないかな」


「じぁじぁあ、君には特別にと思って選んだ歴代王様のトーテムポールもダメだって言うの?」


「欲しがる人はいないわ」


「こ、この左右に〝鬼〞〝ギリ〞って、書いてあるビキニは間違ってないよね?」


「それこそ、どこで着るのよ」


「そんな……これがダメだなんて、もう普通がわかんないよ」


 ショックどころの話じゃない。


 ガーラル院長のあの生暖かい優しい笑顔も、孤児院の仲間の怯えた顔も、道ですれ違う人の軽い悲鳴も全て錯覚じゃなかったんだ。


「………………そんな………………」


「だからねユウマ君、誰もあなたを嫌ってるんじゃないのよ。

 エンディンダムの熱が冷めるまで待っているの」


「……ハンナ、僕、治るのかな?」


「大丈夫よユウマ君。一緒に頑張って治しましょ」


「ありがとうハンナ。僕頑張るよ。…………でもこのお土産、無駄になっちゃったね」


「ううん、私頂くわ。ユウマ君が選んでくれた物だもん」


「ハンナ、無理しなくて良いよ……」


「無理なんかしていない。私欲しいの、あなたのお土産」


 苦しい事もこの二人なら乗り越えられる。

 いつ社会復帰できるか目処はつかないが今は頑張るしかない。


 このあと僕は、ハンナの薦める服に着替え厳選してもらった品を持ってみんなを訪ねた。


 相手の反応を見るとすごく喜んでいる。


 こんなのがいいの? あの金色の飾り羽の方がカッコいいのに……だ、駄目だ!  リハビリなんだから頑張んなくちゃ。


 そして最後になったがベーグット博士の所に行った。


「ユウマ君、なんだ普通の格好じゃないか」


「ハハッ……そう言わないで下さいよ。せっかくお土産も持って来たのですから」


 博士には研究に関する物がいいだろうと思い魔道具を持ってきた。

 ただ博士にとっては在り来たりの物のようで反応はイマイチかな。


「では、1つ貰っておくよ……。

 おろ? これは……ユウマ君これのどこで手に入れたの?」


 あの裏路地の怪しいお店でサービスでもらった古ぼけた魔道具を指差している。


「それは骨董品みたいですね。

 魔力を通すと立体ホログラフが出るらしいんですけど、僕は下手でうまくいかないんですよ」


 博士がおもむろに手を近づけ魔力を注入し始めた。浮かび上がった物は何かの装置と図面?


「おぉ、やっぱりだ! この模様、古代オーパーツだと思っていたが間違いない!

 しかも詳細なまでに……ユウマ君これをくれ、頼む」


 ビックリしたよ。古ぼけた物だったし、使えないから捨てようかと考えていた。危なかったー。

 それが博士の研究の役に立つなんて信じられないよ。


「君には本当助けられるねぇ。そうだ、お礼にこれをあげよう」


 手渡されたのはピンバッチだった。


「これは私の力が必要なとき役に立ってくれるお守りのようなものだよ。私にとっても都合がいいしね」


 有り難く受け取りマジックバッグに取り付けた。


「次に来るときには研究も進んでいるだろうし期待しておいてくれ」


 これでまた1歩家族のもとへと近づけたかも。

 あっ! ちゃんと喜んでもらえる物があったよ。



 それからリハビリを繰り返している内に、完治するキッカケは直ぐにやって来た。


「みんな、ただいまー。やっぱ馬車にして良かったぜ」


 それは遅れて着いたベルトランとドンクだ。

 2人の姿を見た僕はショックを隠しきれなかった。


 ドンクは僕らと別れたあと、ピンクのワンショルダータイツも買ったみたいだね。


 あぁ、ベルトランも負けていない。小梅太夫にしか見えないよ。振り切っている!


 そうか、僕もあのレベルだったんだ……。カオスでしかない。

 早く彼らに声をかけてあげないと可哀想すぎる。僕は決して見捨てたりはしないよ。





 〖お知らせします。全員完治いたしました。大変長らくご迷惑をかけ申し訳ございません。今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、若干の後遺症はあるかもしれません、ご理解の程よろしくお願いいたします〗




 久しぶりの迷宮攻略になるので作戦会議を開いた。いつものようにベルトランが取り仕切る。


「明日から3F攻略を再スタートさせる。ほどほどを考えているけどみんな意見はあるか?」


「デスマーチは懲り懲りだな。

 でもよ、みんなバカンスで散財してお金がないのも事実だぜ。

 で、少しでいいからよう、モンスターハウスやらないか?」


「ドンク、あんたマジ?」


「いや、前みたいに毎日てのは俺も嫌だよ。でもさぁ~」


「マタ……夢に……うなされ……るのはイヤ」


「そりゃな、でもミーシャお前狙っている鎧あんだろ?

 ナオミも秋物の服をって言ってたじゃん。俺も欲しいものあるんだよな。

 だからさぁ、きっちりルール決めて少しだけよ~、なっ!」


「「「う――――――――ん」」」


 結局マッピング重視の程々を基本に、3日に1日だけモンスターハウスに挑戦することで決まった。


 僕としては嬉しい限りだ。程なくして以前ほどではないけれどお金も貯まってきた。


 そしてある日、ギルドでの換金時に受付嬢のモニカさんに声をかけられた。


「みんなすっかり元通りになったわね」


「ははは、おかげさまで」


「でも、笑えたわよ。今度のお祭りあれを着たら?」


「モニカさん、あんまり言うと買ってきたもの全部渡しますよ」


「ヒィッ! ……ごめん……そ、それよりみんな少し時間あるかな? ギルドランクのことでお願いしたいことがあるのよ」


 僕たちのギルドランクはレベルに対してだいぶ低い。


 その原因は急速なレベリングにある。

 ギルドクエストをこなしている時間が取れなかったからだ。


 それをギルドとしては放っておくことができなく、モニカさんは上司になんとかしろと言われたそうだ。


「貴方たちは若い連中の憧れの的なのよ。

 強いし断然稼ぐし、でもランクFじゃギルドとしても格好がつかないないのよね。

 せめてランクD、そこまで頑張ってちょうだい」


「憧れの的? 僕達が?」


「そうよ、だからお願いよ」


 ま、ま、マジですか! み、みんなが僕を見てきているのは、薄々気付いていたけど、そういう事だとは思ってもみなかった。


「どうするみんな? 俺自身もそろそろ上げたいと思っていたんだ」


「俺っちもだよ、箔をつけておかないと!」


「そうね私も賛成だわ」


「……同じで……」


 4人は賛成かぁ。


 商工ギルドに入ってるポーと日頃からアイテム納品でギルドに貢献できている僕はどちらでも良かった。


 しょうがない、みんなに付き合うよ、だってみんなの憧れはしっかりしなくちゃ。

 いやー、こんな日が来るなんて思ってもみなかったよ。


 明日からはクエスト生活が始まります。


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