第41話 ベッツィー②
チャティーさんはギルド職員に、なだめられながら話をしている。
そして、ベルトランの証言により救出チームが作られた。
ギルド職員3人、僕らHEROESの5人、ランクBのベテランパーティ16人の合わせて24人だ。
「よし、この人数なら……モニカさん早く行こうぜ」
「待ってベルトラン君! 今、騎士団へ一報を入れているから返事待ちなのよ」
「うっ、分かったぜ」
騎士団との連携は大事で勝手には動けないが、待つだけの時間はむなしい。
焦る気持ちを抱えながら時間だけがどんどん過ぎていく。
しばらくして返事が来たみたいだ。
「正式な回答はまだだけど、連絡はついたと判断し私たちは先行しましょう」
ようやくこの24人で昼間の屋敷へ先行する事が出来た。
そのほかの人はこれがハズレの場合を考え
捜索部隊が400人、再発防止のための巡回が100人、郊外での可能性もあるので周辺へ200人
これでも人手は足らないけど最善を尽くしすしかない。時を待ってくれないのだ。
暗くなった頃やっと屋敷の前まで来れた。敷地の中の様子を伺うけど、人の気配を感じない。
「クソッ、とりあえず中に入るぞ」
「ベルトラン君ちょっと待って。ここは富裕層区画の1等地、令状もなしに侵入することはできないわ」
「何を今更! さっき連絡取れたんじゃないのかよ!」
「許可はまだなの、もう少しの辛抱よ」
「はぁ? こうやっている間にも危険な目に合ってるかもしれないんだぜ」
「それでもよ。ただそうならない様、私たちは見張りをして、他のメンバーは踏み込むための手続きに奔走してるのよ」
ベルトランの顔が怖い、あの目は何かをしようしている時の目だ。
心配していた通りベルトランはいきなり走り出し、塀を飛び越え中へ入ってしまった。
「待ちなさい! 彼を取り抑えて」
僕もすぐ後を追いかけ中へ入る。あとのメンバーはランクBに取り押さえられたみたいだ。
「ベッツィー、ベッツィーーーー、いるなら返事してくれーー!」
「ベルトラン声が大きいよ」
「ベッツィー、ベッツィー、ん! ベッツィーの匂いだ…………あそこ!」
それは屋敷の石造りの土台部分。半地下牢の空気取用の隙間であった。
その隙間は幅20㌢ 奥行き3㍍ かなり分厚い造りだ。
「ベッツィー、オイいるんだろ、助けに来たぞ。俺だよ、ベッツィー」
「ベルトラン? そこにいるの、本当なの?」
「ああ、待ってろすぐ助けてやる。危ないから離れていろ。ユウマ頼む」
【土遁の術·土竜崩し】
何度もスキルを発動させるけど、石だから全く効果がない。
「クソ、すまないベッツィー。ここからは無理だが中へ行って助けてやるからな、安心しろよ」
「分かった信じてる。他の子たちもいるから早くね」
伸ばしあっても届かない手を名残惜しそうに引っ込める。
僕たちは近くの窓を叩き割り中へ入った。
廊下に出るとやはりさっきの物音で気付かれたようだ。
「こら、お前ら何者だ! 動くんじゃね」
ベルトランは答えるよりも拳を相手の顔面にめり込ませ、崩れ落ちるのにも目もくれず辺りを見回した。
「俺は左、ユウマは右へ。必ず救うぞ」
あの小さな村の少女の時と一緒だ。罪のない人が拐われて自由を奪われ、そして嘆き悲しむんだ。
この男たちはそれによって、お金を手にして喜び、そんなお金で酒を飲み女を買う。
人の悲しみを快楽にかえるだなんて、そんなことが許されるの?
「なんだ、てめぇはどこから入ってきた」
扉を開けると2人の男が酒を飲みながらしゃべっていた。
聞こえたよ、『ピーピー泣きやがってうるせぇの』だって? その涙は彼女たちが望んで流したものじゃない。
「……そんなお酒の味は美味しいの?」
「あん? 聞いているのはコッチだぞ」
大きく踏み込み顔面に渾身の一撃を叩き込み、もう1人には足払いで倒したあと、目の前に刃をつきつける。
「1度しか聞かないよ。拐った子供たちはどこ?」
「ろ、廊下の反対側だ……お、俺は何もしていない、助けてくれ」
何もしていない? だったらなんで泣く人がいるだよ。ふざけるな!
「お前たちを許していいのは僕じゃない!」
来た道を引き返しベルトランの後を追う形となった。
突き当たりの階段を下りると、扉の向こうでは戦闘音がしている。よし、間に合った。
中へ飛び込むとベルトランが押されているのが見えた。
僕は無詠唱の鎌鼬を放つが弾かれてしまった。もう1度だ! 嘘でしょ、また弾かれたよ。
あっ! この手の長い男はあの小屋で撃退した誘拐犯だ。
相手も僕に気付き、憎々しげな顔で僕を睨みつけてくる。
「ユウマ、ベッツィーは直ぐそこだ。コイツをやってから救い出す」
【シールドバッシュ】
不完全ながらキマッた技で相手の注意をそらしてくれた。
【風遁の術・疾風】(風よ前へ)
爆発的移動で懐に飛び込み、目線は上にしたまま腰へと叩き込む。
【風遁の術・疾風】(力を)
うっ! また僕の攻撃が防がれた。この男、以前より強くなっている。力だけじゃない技にも磨きをかけている。
「いつまでもコイツ1人に時間をかけていられない。ユウマ、全員呼び出してくれ、一気にキメるぞ」
【忍法・分身の術】
9人の影分身を呼び出し取り囲むように散開させる。
さすがにこの状況には男も焦りの表情を浮かべている。
【ライトニングボルトー】
「うわーーーーっ!」
不意に後ろから放たれた電撃に僕ら2人は吹き飛ばされた。
頭のてっぺんから衝撃が走り、体は痺れ動けない。
「ファルサ、何を手間取っておる」
暗闇から出てきたのは黒いローブを羽織った魔術師だった。狂気に満ちた瞳、眉間には赤い宝石。
覚えている、この魔術師はトンスケーラさん達を襲った裏切り者だ。
「クソ野郎、その名で俺を呼ぶんじゃね! 俺はそんな名前じゃねぇ」
「フン、それならば本当の名前を教えてもらおうか?」
「そ、それは…………」
「名もない下賎の者が! 付けてやったファルサ(偽り)という名で充分だ。有難がって受け入れろ」
「クソッ…………オレの名前は……」
「もうよい、子供たちを運ぶのを手伝え」
「俺の名前は……どこかに必ずあるはずだ」
連れてこられたのは鎖につながれたベッツィー達。
「ベル、ベルトランー、立ちなさーい。ベルーーー!」
ベッツィーは目の前にいるのに助けることができない。ヤメロ、首の鎖を引っ張るな!
「すまない、ベッツィー」
こんな事があっていいはずがない、身体よ動いてよ。
「何をやっているの、あなたが私を助けてくれるんでしょ? いつまで寝ているの、ベルトラン!」
ベルトランが満足に動かない腕で踏ん張り進もうとしている。
奥へと連れて行かれ、既に姿が見えないベッツィーを追いかけて。
「エリザベス、助けるから、必ず俺が迎えに行くから信じろーー! クソークソー、エリザベーーース!」
ファルサが僕が以前つけた鼻の傷を指差し睨んでいる。
「風使いの小僧、次会うときはこの傷の借りを返す」
ファルサが壁のレバーに手をかけグイッと降ろす。すると天井から分厚い扉が落ちてきて通路を塞いでしまった。
「しまった! 【忍法・分身の術】」
よし、3体は中に入れた。いや、すぐにヤラれてしまっている。
もう1度分身の術だ。しかし鉄の扉で中が見えない。
こうなると影分身は敵に対応できず、相手にすらされていない。
このままじゃダメだ。
【土遁の術·土竜崩し】
石の通路に鉄の扉、傷1つ付いてくれない。それでも…………。
【土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し】
なんでだよ、いくらやってもビクともしないじゃないか。
「ベルトラン、僕じゃダメなんだ。君が外に出て追っくれ。きっとその鼻が役に立つ」
【土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し……】
「ああ、任せろ」
ベルトランが行ったあと、しばらくしてギルド職員たちがやってきた。
「ユウマ君、どういう状況なの、ベルトラン君はどこ?」
「ベッツィー達はこの扉から拐われ、ベルトランは外に出て追いかけています」
あと少しだったんだ、スグそこにいたんだ。
でも助けられなかった。なんでだよー。なんで僕はこんなに弱いんだ! もう少しだったのに……。
「うおーーーっ!【土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し】」
「ユウマ君、ドアのスイッチがあるはずだからそんなにしなくても」
「だったら早く探してよ! 僕はこのまま【土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し 土竜崩し】」
消費MPゼロの土竜崩し、いくら放ってもMPは減ることはない。
しかし、いつしか僕の魔力は尽き、知らない間に意識を失っていた。
街に深い闇が降り注ぎ、誰も振り払うことができなかった。
あの後ベルトランは2日2晩、野山を探し続けたが途中で倒れてしまい、偶然にもギルドメンバーに保護された。
更に3日後、騎士団により北の森の中で深い轍が発見された。
その車輪の深さは人が何人も乗り、水など重いものを載せていた証拠だ。
しかもその行き先は西へと延び、国境を越えてスポーズ法国へと入っていった。
騎士団は引き返さざるえない。どんな事情があろうとも越境すれば国際問題になる。
そうやって見てきた事を悔しそうに騎士たちは教えてくれた。
しかし国対国はダメでも基本何者にも縛られないギルドなら、どこか崩せるところはあるはず。
ギルドは各支部に働きかけ独自の捜査を始めた。
僕らもなんとかしたいという気持ちはあったが個人の力では限界がある。ここは任せるしかないだろう。
ポーが戻って来た頃にベルトランの意識も戻り、2人に事の次第を話した。
ベルトランは力が抜けて呆けてしまっていて、こちらを見ないで聞いている。何を話しても答えてくれない。
今のベルトランには僕の声さえも……届いていないのかな。
「ねぇ、ベルトラン……エリザベスっていうのは?」
「……ん? ……ああ……ベッツィは愛称じゃねぇか」
知らなかった。僕はそんなことさえ知らなかったんだ。
それに2人がそういう仲だったんだ。2人は互いに認め合いそして求め合う。
その片割れが失われた今、耐えられない気持ちだろう。
「ふはは……は、ユウマは相変わらず俺がいないと何も出来ないんだな。
……ははは……でも、それもここまでだ。……ゴメン」
何? イヤダヨ……。
「みんなも聞いてくれ。突然で悪いが俺は冒険者をやめる。王都騎士団の入団試験を受けるぜ」
ベルトランのいきなりの宣言にみんな真剣な眼差しを向けている。
「俺は小さな頃から弱いものが泣く世の中をなんとかしたいと思っていたんだ。
でも1人の力なんか
そんな俺が見つけたのが騎士団だ。正義の力で巨大な悪をぶっ潰す! うん、憧れだよ」
言葉とは裏腹に寂しげな表情で話している。
「あの現場にいた全員は拐われた子供を助けたい一心だったし、最大限の努力もした。
……でも結局誰1人助けられなかった」
「…………」
「ギルドや騎士団の人が悪いとは思っていない。
ましてや、サボっているなんて事はない。勿論そんなこと分かっているよ」
――――
「でもよ、今回の件で良く分かったんだ。どんな正しい力であっても機能しなけりゃ意味がねぇって」
――――
「あのもどかしい思いをしている人達を見たら、考えちまうんだ」
――――
「『もし今のこの俺に力を行使する権限があったなら違う結果になったんじゃないかな』ってよ」
――――
「間に合わなかったなんて言わないんだ。困ってる人がいれば全て助けるんだ。
……だから……その未来を実現させる為にも騎士団に入り上の地位まで上り詰める」
――――
「……これが俺の覚悟だ。…………すまない、みんな。……俺の冒険はここまでだ」
「…………ベルトラン、いつ発つつもりなの?」
「来年早々、王都で試験がある。だから12月の中頃には向こうへ行くよ」
「「……………………」」
「ベルトラン、気に病む必要はありませんよ。
私もちょうど資金の目処がついたので、そろそろ商いを始めようかと思っていたところですから」
「そうだな、俺っち達も親を安心させる年なってきてるし、なっ、ミーシャ」
「………………うん……」
「私も次の目標ができて準備してたのよ、ベルトラン」
みんなベルトランに気を遣わせないでおこうとしている。頑張れよって励まそうとしているんだ。
そうさ、ベルトランが決めたことだ。その決意を認めてあげて送り出してあげなくちゃ。
…………でも。
「う、うわん、うわぁぁっあぁ~ん、うわぁっ、っ!」
涙が溢れる、離れるは嫌だ。頭ではわかっていても、みんなと別々になるなんて耐えられない。
「うああぁ~んあっあっぁっあっ」
「ふっ、ユウマはホント俺がいないとダメだな」
掛け替えのない仲間、彼らと過ごした日々、くだらなくても楽しいおしゃべり。
そんな全てが僕を抱きしめていてくれた。
この温もりが消えていく、このままみんなと一緒にいたいのに……。
進まないといけない、常に時は動いている。
人生は止まってはくれないんだ。
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