白百合の迷宮
第17話 外の世界とダンジョン
ゴブリン討伐で得た装備で、三人それぞれが自分に合うもので身を固めた。
「ベルトランの新しい盾、やっぱいいね」
「ああ、最高だぜ!」
左手に構えるミスリル製のラウンドシールドに、右手には業物の両刃剣。
ここまで揃うとあともガッチリ決めたくなるみたいで、
ベルトランはマジックバックの中にあった1番格好いい、
フルプレートアーマーを試着した。
「う、動けない」
あははは、欲張りすぎだよ。
試しに僕も装着させてもらったけどムチャクチャ重すぎる。
フルプレートアーマーを諦めベルトランは自分の盾術を信じて、
上半身は革製の胸当てだけにした。
そのかわり足元だけは黒鉄製のグリーブを選んだようだ。
ポーも武器選びからはじめ、ミスリルと木製で作られたメイスをチョイス。
軽くて丈夫なので、叩いてよし、受けて良しの優れもの。
しかも中に魔石が組み込まれていて、最大MP量と魔力の底上げをしてくれる。
ローブがあるから着ないのかと聞いたら。
「この相棒だけで十分です!」
だってさ、まさに戦う僧侶って感じだ。あっ、商人か。
そして僕が多分3人の中で、一番自分に合うものが見つけたと思う。
まず革鎧は飛行系モンスターの素材を使用しているらしく、
防御力・軽さが1段も2段も上がっていて、すごく動きやすい。
手甲との色合いも合っていて、落ち着いた感じなんだ。
これにも青いラインが入っているのでカッコいいよ。
そして武器は……。
「おーい、ユウマ。あのヘンテコな武器にはもう慣れたのか?」
「変な武器じゃなくて〝トンファー〞て言うんだよ」
「なんでもいいけど、実戦には間に合わせろよ」
ベルトランは自分に興味がないものには、いつもあんな風だ。
これはただのトンファーじゃなくて、能力付与のマジックアイテムなのにさ。
その効果はまず攻撃方法によって、武器の重心を自動で変えてくれる。
例えば、長手の方を回し叩く時には、その先端に重心が移動し、
遠心力を加速させ衝撃力を上げてくれる。
逆に手元のほうで使うときには、そのバランスが元に戻ってくる。
これだけでもすごい能力だよ。
でも、それだけじゃなくて、手元、長手どちらでも、
敵に突き出すとき先端が鋭く尖る。
打、突、両方に威力が出せる一級品だよ!
さぁ、装備も揃い、レベルも2になりギルドランクも1つ上がった。
いよいよこの地にある、白百合の迷宮に挑戦だ!
白百合の迷宮は、ユバの街からほど近い平原の大岩が入口になる。
そのフォルムはまるで大地から巨人が這い出てくる上半身のように見える。
口をポッカリと開けていて、内部は遺跡のように整えられている。
壁一面に色のついた繊細な白百合のレリーフが彫り込まれており、非常にきれいな造り。
無骨な岩とのアンバランスさが恐ろしさをかもし出している。
入り口の横には兵舎が1つ。
その前に番兵がいて人の出入りの確認と、中からモンスターが出てこないかを監視している。
ただ、モンスターは今まで一度も外に出てきたことはない。
研究者の間ではこの中は1つの独立空間となっており、
境界線を超えることがモンスターにはできないのだと考えられている。
「受付は無事終わったけど、やっぱり緊張するよな?」
初めてなので番兵さんにレベル確認とメンバーの名前を報告しないといけない。
これが終わってからようやく中に入れる。
入口の小部屋から転移装置で1階フロアへと移動した。
転移の法則として、転移先のその数は、フロア階数と同等の数になる。
つまり1階には1つ、2階には2つのと増えていく。
更に出発地点となる装置は必ず1つなのに対して、
行き先が複数ある場合、ランダムで決まってしまう。
そして、次の階に行く為の転移装置はその階の、
最奥にいるフロアボスのうしろの部屋にあるんだ。
たどり着くには必ずボス部屋を通らなければいけないんだ。
フロアボスのほかに中ボスと呼ばれるモンスターの部屋もあって、
それは階数と同じ数だけあるらしい。
それぞれの階に、フロアボス1匹+中ボス(階数分)の強敵がいるってことだ。
たくさんいる様に思えるが、迷宮自体広いのですぐに遭遇することはない。
話を聞いていると、まさにファンタジーの世界だね。
テンションも高く意気揚々と入ってみたが、その雰囲気に圧倒されてしまった。
思っていた以上に広い。
内部は洞窟タイプで道幅は一定ではないが10㍍位はあり高さも同じ位だ。
広すぎてここを戦い·探索を進めるのかと思うと不安になってくる。
明るさは充分だけど、岩などで薄暗く見えづらい所もあり慣れるまで時間かかりそう。
「ストップ! 何か気配を感じるぞ」
モンスターの群れを見つけた。
僕らも事前調査はしてある。
1階の出現モンスターの種類は2種類。
羊型のモンスター:ソアイル·ビッグホーンと大型イモ虫:ホワイトキャタピラーだ。
常に3匹で行動し、割合は変化するが単一種の場合はない。
「羊が1に芋虫が2か……。
情報通りの対処をして、もしヤバくなったらすぐに撤退しよう。
そのときは合図を出すからな」
気をつける事は、羊の場合体重200㎏から繰り出される突進だ。
これに当たればひとたまりもない。
もし即死しなくても、うずくまっていれば次でやられるだろう。
そして羊ばかりに気を取られていてもダメだ。
移動速度は遅いイモ虫だが、口から吐き出す粘着糸がある。
これに絡まれば、アッという間に行動不能となりこれまたヤバイ。
この対策として、2種類ともこの技を繰り出すとき必ずタメがあるらしい。
それさえ見極めれば簡単だ。
「ユウマ、お前は右にいるあの羊を頼む。後はポーと俺で持ち
羊は体毛が厚くモコモコで、体への攻撃は刃物だと全く通らない。
有効性があるのは打撃と刺突で、僕の新装備・トンファーを選んだのはそのためなんだ。
毛に覆われていない頭や足元を狙い一発入れればいけるはず!
ただ、突進してくる羊に一撃を入れるのはちょっと勇気がいるよね。
いや、勇気を片手に突撃だ!
初ダンジョン、初戦闘の結果は……微妙だった。
期待通りトンファーの攻撃の通りは悪くない。
ベルトランも防御が上手いので良いとして、ポーが攻めあぐねている。
粘着糸をバンバン飛ばされ攻撃どころじゃない。
それが気になり僕も集中できなかった。
結局、ベルトランがポーをフォローしつつ持ち堪えた。
そして、僕がなんとか羊を片付けた後、
ポーのイモ虫を僕と2人でやっつけ、最後の1匹へと移った形だ。
想定していて流れだけど時間がかかる、掛かり過ぎるんだよ!
「だーーっ! やっぱゴブリンのようにはいかないか! 3人じぁ無理だなー」
「そうですね、メンバーを闇雲には増やせませんが、もう少し人数は欲しいですね」
それからはできるだけ戦闘を避け、今後のために迷宮内部を偵察した。
迷宮と外での違いを3人でしっかりと確認しておきたいからね。
通路を進むと所々部屋があり、モンスターはその部屋にたむろしているか、通路を徘徊をしている。
ある程度行動パターンは決まっているみたい。
そして討伐後、モンスターを解体することができない。
というか、ドロップアイテムだけを残し遺体はじきに消えてしまうんだ。
初めて見たときは寒気がしたよ。
だって命が尽き、存在そのものが消えるんだよ。
ゲームではよくあるけど、実際目にするとこの世界の摂理が恐ろしく思えてくる。
その逆にポップもする。
今まで何もなかった空間に、モヤのかかった姿が見えやがて実体化するんだ。
しかも1グループまとめてなんだ。
完全に実体化するまではこちらも攻撃できないしモンスターも動くことすらない。
ポップするまでの時間のサイクルは確認できなかったけど、
1日中その場に留まるわけにはいかないので仕方ない。
迷宮ならではのルールは沢山あるけどを覚えなければ命に関わる。
罠の類もあるようで僕たち3人の手に負えるものじゃなかった。
まず見つけることができないし、解除もちょっと無理だろう。
1階で命に関わるような致命的の罠はないけど、今後のことを考えると対策は必要だ。
短い時間でいろいろ確認できてよかったのだけど、これからどうしようかな。
問題は山積みだ。メンバー補充や罠のこともあるし、
あと迷子になることも心配だし、準備することは沢山あるよ。
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