第15話 戦いの報酬
次の日は思っていたより早い時間から、事情聴取が再開した。
繰り返しの話ではあったけど、終わったのは午後もだいぶ過ぎた頃だった。
昨日あれから騎士団の精鋭が現場へ向かい確認と調査をし始めた。
また冒険者ギルドの方でも飛び去った暗黒魔術師の行方を追っている。
内容は詳しく教えてはもらえないが、早く捕まって欲しい。
そしてその後は僕たちも忙しくて大変だった。
まず冒険者ギルドへ行くと、あっという間に取り囲まれ声をかけられた。
自己紹介をしてくる人とか、褒めてくれる人、背中をバンバン叩かれたり、ホッペをつねられたり(なんで?)された。
ちょっとしたプチ有名人になったよ。
ボッチだった1年前じゃ絶対あり得ない状況。
アワワ、アワワと戸惑っているとベルトランが手を引っ張ってくれた。
「あはは、なに緊張してんだよ」
いろんな意味で助かったよ、ありがとう。
囲みを抜けてギルドカウンターに着くとモニカさんがいた。
「あなたたち、やり過ぎる子達だと思っていたけれど、ここまでとは思わなかったわ」
「ははは、恐れ入ります」
「はははじゃありません。死んでもおかしくなかったのよ、反省をしなさい」
はい、すみません。
「でも、無事でなによりよ。三人共、おかえりなさい」
ここにも心配をかけさせてしまった人がいる。
「それじゃ、今日はポイント精算と報酬の話よ。
今回は特例として処理をしました。
ゴブリンの100匹とホブゴブリン討伐は、ギルド依頼クエストとして達成されたものとします。
ですので、100匹分の報酬に加え、3名の冒険者ギルド所属メンバーの救助で、金貨7枚銀貨50枚を支払われます。
またその功績により、ランクアップ条件を満たしたとしてランクGからランクFへと昇格します」
はははっ、一気にいろんなことがやってきたよー。
これはもしかして、目立っているんじゃないかな?
もしそうなら〝忍ばない作戦〞大成功じゃんか。
「それと伝言を預かっております。
パーティ・アルカナの鍵のリーダー、トンスケーラさんからです。
『金銭の用意はできました。明日の朝、迎えを出しますのでハワード子爵邸にお越しください』とのことです」
「え? 子爵様が来いって?
どうしよう俺着ていけるような服持っていないぞ」
「そんな偉い人って僕怖いよ、怒られるんじゃないの?」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。
突然で予期せぬことではありますが、想像もしていませんでした」
「……ポー、君も変なこと言ってるよ」
ギルドで気軽に交換とはいかなさそうで残念。
こんなことになるなら〝忍ばない作戦〞もう少し地味な結果がよかったよ。
不安を抱えながらも、用事は一通り済んだのでここで解散となった。
2人は疲れたので帰ると言ってけど、僕は寄り道。
「お待たせ、ユウマ君」
「ううん、僕の方こそ呼び出してごめんね」
仕事帰りのハンナを待っていたんだ。
「昨日は大変だったんでしょ? 休まなくていいの?」
「孤児院じゃゆっくり話せないし、それにハンナには一番に話そうと思ってね」
「フフフ、今日のユウマ君なんかいつもより明るいね」
「そうなんだ、分かる?
みんなに注目してもらえる活躍ができたし、
それとギルドランクとかレベルが色々上がってね。
あっ、順番に説明するよ。実は昨日ね……」
ハンナと喋れる楽しさと明日の会合への不安からか、いつもよりお喋りしすぎた。
明日のことで相談を、2人に話さなきゃならないのに忘れていたよ。
次の朝、着替えを終わらせ迎えを待っていると、
とても大きく豪華な4頭立ての馬車が孤児院の前にやってきた。
あまりにも立派なので、いつもは遠慮のない小さな子供たちも遠くから見るだけだ。
僕たち3人も戸惑ってしまい、フワフワとした気持ちで乗り込んだ。
「綺麗すぎて座るのも怖いぞ……」
こんなのテレビでしか見たことないよ。
細部の1つ1つまでが美しくまさに貴族の乗り物。
「凄いですね。もうここまで来ると壊したとしても怒られないでしょう」
わー! ポー何考えてるの、やめてよね!
ベルトランも何か言ってよ。あれ、顔色わるいね。
「オレ緊張しすぎてお腹痛くなってきた、あ、やばっ! 漏れそうかも」
「わー! まってまって。汚さないでよ! すみません、馬車止めて下さーい」
この迷宮都市ユバでは、市民と貴族が暮らす場所は明確に分かれている。
大部分を占める平地の方は市民。
そして高台になって見晴らしの良い場所は、貴族やお金持ちの館が建っている。
そちらにはこの領地の防衛施設なども立ち並び、最重要地域となっている。
そしてこの街のどこからでも見ることのできる一際大きな建物。
そこがハワード子爵様のお城なのだ。
つまり僕たちは、この地で1番偉い人のお家に招かれ向かっている。
緊張するなというのが無理な話で、3人とも朝食をろくに食べれなかった程だよ。
お城の門をくぐるけど玄関先までまだ遠い。
生えている木も道も何もかもが美しく、ファンファーレが鳴り響きそう。
何もかも目まぐるしくて、もうクタクタになってきたよ。
そしてお城に入り応接室に案内される。
そこには精悍な顔の40歳ぐらいのドワーフの男性と、
トンスケーラさん達〝アルカナの鍵〞の3人が待っていた。
ドワーフの男性の服装は、いかにも高そうなシルクのシャツに紺色のズボンとシンプルだが貴賓が漂う姿だ。
男は満面の笑みで両手を広げ近寄ってきた。
「よくぞ来てくれた、若き勇者たちよ。
君らを迎えられて光栄だよ!
まずは名乗らせてもらおう。
この城の城主、ヨウドウ・ハワードだ」
厚みのある声に心が震える。
大人物ていうのはこういう人のことを言うのだろう。
僕らも各々きちんと挨拶をする。
「無理を言った買い取りの願い、応じてくれて感謝しているよ。
あれらはこの家の宝でもあるが、それ以上に3人にはなくては困る物でね。
手元に戻るのであればと、きちんとした金額を用意させてもらった。
だからその辺りは安心してほしい。さぁ、座ってくれ」
勧められるがまま席に着くと、話が進んでいく。
「早速ではあるが、当家の提示金額を伝えよう。
まずは『重圧の白剣』だがこれには金貨550枚、
そして『豊穣の杖』には金貨700枚、
それに『道化の聖魔鎧』に金貨900枚、合わせて金貨2150枚。
こちらを用意させてもらったのだがどうだろう?」
度肝を抜かれちゃった。金貨2150枚なんて途方もない金額だ。
話しの流れが速いし3人とも固まってしまった。
たかだか14歳の子供が、大人を前にしてちゃんと話をしろって方が無理なことだ。
それに加えてなんだよ、金貨2150枚って。
高いのか安いのか区別もつかないよ。
なんだか、校長室に呼ばれて怒られている気分になってきた~。
もう帰りたいよ……。
頭の回転が追いつかないし、なんて返したらいいのか分かんない。
沈黙が続き、やっと口を開いてくれたのはポーだった。
「子爵様、大変高額の金額を提示して頂き、ありがとうございます。
私たちにとっては、普通一晩で手にすることのできない金額で、只々驚いております。
このアイテムが子爵様やお三方にとっても、大切なものであることがわかりました。
あの時私たちが助けると決意した理由も、
お三方が人々にとって必要な方たちで、
その後ろに守られている人達を思わずにはいられなかったからです」
子爵様は不動の姿勢で話を聞いている。
「だから3人で話をしたことですが、このアイテム…………買い取って頂くのではなく、献上させて頂こうと思います」
「……! なんと! 金貨2150枚であるぞ」
「……はい」
「それを無償にするというのか?」
「いいえ、そうではありません」
「なに?」
「我々3人は、それぞれ叶えたい夢があります。
ベルトランは騎士団に入り人々の盾となる事。
ユウマは遠く離れた故郷に帰ること。
そして私は大商人となり、立身出世することです。
この目標は大変大きく、困難なこともあるでしょう。
また誰かの助けを必要とするときがあるかもしれません。
もし子爵様が今日のこと覚えてて頂き、我らを思うのであれば、
その時にお力添えをお願いしたいと思います」
「私と縁を結びたいと?」
「「「 はい 」」」
「……うむ、君たちのような将来有望な若者との縁なら、
こちらの方からお願いしたいくらいだよ。この取引受けさせてもらうよ」
凄いぞ、話がまとまったよ。
「さて、ダブついた2000枚どうしようかね。
……そうだ、もし君たちさえよければ、手に入れた他のアイテムをいくつか譲ってくれないか?」
ありがたい話です。
獲得したものの中には、効果が高すぎて、今の敵にはもったいない性能のもの。
単純に僕たちの能力が足らなくて、扱えないものが数々ある。
僕らが装備できたり将来的に活用を見いだしたものは売らない。
特に5つあったマジックバックは、中型サイズの3つを手元に残した。
たくさんの品々、これらはみんな彼らのものだったんだ。
1つ1つ見る姿に申し訳ない気持ちになってくる。
アルカナの鍵のメンバーの1人、回復魔術師でエルフのクリステルさんと目が合う。
「これらを見ると名残惜しいです。
大事にしてあげてくださいね。
もしよかったら、あなたたちとこの品々に幸があるよう、祈らせてはもらえませんか?」
こちらこそ、すみません。
元の持ち主に、どう言葉をかけていいのかわかりません。
交渉が終わり、全部の売値が金貨2310枚。
これに中に入っていた金貨311枚を合わせると、1人金貨873枚になった。
もう凄いよ、日本円に換算したらまさかの億こえるかも。
くあーっ、一気に大金持ちだ!
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