第14話 この手の先に
遺跡の中はここからでは見えない。
勇者の3人が無事なのかは分からないが、とにかく急がなくちゃいけない。
ベルトランの作戦通りにまず僕は大回りをして下へ降りゴブリン達の前まで来た。
先ほどの戦闘のせいか、ほとんどのゴブリンが遺跡の前に集まっていてこちらとっては都合がよい。
一匹が僕に気付き、ギャガギャガ言っている。
たぶん僕が1人なので舐めきっているのだろう。
それも好都合さ。
何匹かが笑いながら近寄ってきた。
――――いいか、ユウマ。最初のお前の誘導がキモになる、しっかり頼んだぜ――――
ああ、任せておいて!
さぁ、僕が開戦の狼煙を上げてやる!
【土遁の術・土竜崩し】
深さ2㍍の穴、ゴブリン達には登れない深さだ。
目の前にできた穴に、勢い余って4匹が落ちてくれた。
【火遁の術・火炎熱波】
踏みとどまった後続や穴に落ちたゴブリンに炎で畳み掛ける。
右から左へと、次々と火のついたゴブリンが倒れていく。
「アギャギャギャッー!」
【土遁の術・土竜崩し】
窪地の右端から順に左隣へと術を展開し、お堀を作っていく形だ。
ゴブリンにしてみればお堀で行く手を遮られ左のひらけた方に行くしかない。
右へ逃げようとする者には、火炎熱波をお見舞いだ。
それなのにお堀を飛び越えようとするゴブリンもいて気が抜けないよ。
何度か繰り返すと、こちらの思惑通りゴブリン達は、術の届かない左の崖沿いへ回り込もうと、大勢で押し寄せていった。
「ふたりとも、今だいくぞ。『そーれーっ! 』」
崖の上では、ベルトラン、ポーそして僕の影分身がいる。
3人がテコの原理を使って、僕が作り出した大岩を押し出している。
いいタイミングで大岩は勢いよく転がり落ち、前の一団をペッチャンコ。
「上手くいった。次いくぞ『そーれーっ』 もう1つ『そーれーっ』」
ゴブリン達は次々と落ちてくる岩に悪戦苦闘している。
避ける者もいるけど次の岩に潰されたり、割れて飛んできた破片にあたる者もいる。
敵はまだまだ多く僕1人では対処しきれない程だけど、これでかなりの数を減らせれた。
よしよし、作戦通り!
次は僕の番だ。
ついでの火炎熱波をお見舞いし、MPポーションを飲み干す。
「この唐変木のゴブリンめ~、その臭いヘソをちぎってやるからかかってこーい」
挑発するってこんなので良いのかな? あ、結構きているよ。ムキー言ってるし面白い。
あっ、面白がっていたらダメだ。気を抜かずにやらなくちゃ。
ゴブリンも僕に向かって『やってやるよ坊主!』と気合を入れている。
でもそれに対して僕は後ろを振り返り一目散に逃げ出した。
あはははっ! 挑発して逃げるなんてムキー言うのも当たり前か。
後ろを確認してはたまに火炎弾をお見舞いして、2人が待つ合流地点へと向かった。
あそこだ、粗末な小屋の密集地。
通路も狭く数の優位が生かせない地形だ。
そしてそこに誘い込んだもう1つの理由は、風向きなんだ。
「ユウマ君、今です。横へ跳んでください」
合図で僕は脇へ跳びのき、2人が痺れ薬を蒔くのを見守った。
これで追いかけてきたゴブリン達も大混乱だよ。
「2人とも一気に叩くぞ!」
ベルトランの合図で反撃開始だ!
痺れ薬が効いていても70匹を超える大軍。
狭いところでは守りを固め、鎌鼬や火炎弾で倒していき、
広い場所に来たら囲まれないよう常に動いておく。
「ユウマ、あの薄い所を崩してくれ」
ベルトランが示した所へ突撃するが深入りはしない。
次のアクションは横へと展開をして、すぐ2人の元へ戻る。
引っ掻き回されムキーと怒り追いかけてくるけど、そこをベルトランが返り討つ。
僕しか見ていないゴブリンはビックリして体勢を崩し、仲間同士で
ベルトランが盾で止めれば、僕も前へ出て応戦だー!
その際にはゴブリンの体のどこに当たっても致命傷になるよう、スキル・疾風もどんどん使っていく。
たまにこちらが被弾をしても、すかさずポーのヒールが飛んでくるから、何の心配もいらないしね。
ポーのサポートにつけた影分身も良くやってくれているし、
ベルトランもスキルのシールドバッシュを連発させ次々と倒している。
とにかく短い時間で、如何に数を減らせるかがカギだ。
それにしても数が多い。息も上がりかなり苦しい。
長引いて不利なのはコチラ。
僕もMPポーションHPポーションを使いつつ、疾風の連発で狩り続けている。
ベルトランの声がする。
「ハァッ、ハァッ、一度、集合だ! 起点へ急げ」
事前に決めていた作戦。
くるっと背を向けると、元の場所まで猛ダッシュ。
そしてみんな集まった時点で、再び痺れ薬を蒔く。
さっきと同じパターンなのに、ゴブリンて学習しないんだね。
風が残った痺れ薬を連れ去ったのを確認し、念のため麻痺回復薬の丸薬も飲み込んだ。
その間で少し息を整える。
「ふーっ、最後の仕上げだ、行くぞ!」
「「おーーーーーーー!」」
痺れ薬も効いて好条件ではあるが、こちらの被弾も多くなってきてキツイ戦いだ。
一匹倒し、またもう一匹を倒す。
いつまで続くだろう。
MPも尽きかけているし、体が言うこと聞いてくれない。
このままじゃ……。
【風遁の術・鎌鼬】
ハァッ、ハァッ、次……来い!
もう1つカマイタチ!
ハァッ、ハァッ、よし次!
……いない……右か? 次はどこだ!
「ユウマ……ハァッ、ハァッ」
次のはどこにいるの、ベルトラン。
「終わったよ……全部やっつけたんだぜ! 俺たち……」
本当になの?
あんなにいたゴブリンを一匹残らずやっつけた? すごい、すごいぞ!
やればできるって思っていたけど、本当にできるなんて……。
緊張が解ける。『よかった』と言いかけたその時、
目の前の映像が歪み横からの衝撃が走った。
「ユウマ、ポー! しまった! 【シールドバッシュ】 うおーーっ!」
――――――――――――――
ウッ…………グハッ。
僕は殴られたのだろう。ひどい頭痛としびれる手足。
ポーも倒れていて、最後のMPポーションが割れてしまっている。
揺れる視界にはベルトランがホブゴブリンと戦っているのが見える。
早く助けなくちゃ……レベル3の強敵だ。
ベルトランも押され気味じゃないか。
僕は歯を食いしばり、なんとか立ち上がった。
こんなボロボロの状態で勝てる相手ではないけど、泣き言は言っていられない。
「……ベ、ベルトラン、こちらで注意を引きつけるから、MPを貯めて。
……な、なんとか奴の体勢を崩して欲しい。
そうしたら、僕が全力で行くから!」
「わかった、MPはゼロだ。少しの間頼むぞ」
「大丈夫だよ! 【火遁の術・火炎弾】」
僕もMPは少ない。
消費MPゼロのスキルを駆使して、なんとか
ベルトランの体力も限界だし、ここは僕が動くんだ。
【火炎弾、火炎弾、うぐぅ、火炎弾!】
息が苦しい、待っている30秒がやけに長い。
それに繰り出してくる棍棒のスピードが早くて、かする度にゾッとする。
当たったら終わりだ。
でも、いける! 練習を重ねた受け流しが活きていて、これなら……いけるよ!
【火炎弾】
僕は顔を集中的に狙い火炎弾を当てている。
呼吸もしづらくなるだろうし、上に意識を持っていけば隙が生まれる。
「いけるぞ! ユウマ」
きた! 僕もその合図に応えて、チャンスを待つ。
「喰らえぇ【 シールドバッシュ 】」
ナイス、ベルトラン!
右膝へ会心の一撃。
そして左には復活したポーのフルスイングも入った。
よし、今だ!
【土遁の術・土竜崩し】
ヨタついた足元に大きな穴を作った。
ホブゴブリンは落ちることはなく踏みとどまったが、土下座の格好になっている。
心を落ち着かせ、意識を切っ先のみに集め渾身の力を込める。
仲間で紡いだ最大のチャンス無駄にはしない!
【風遁の術・疾風】(最大の力を)
腕がちぎれんばかりの勢い!
振り下ろした刃がホブゴブリンの首をはね飛ばした。
「―――――――ッ」
「油断するな、周囲を警戒、態勢を整える」
危ない、危ない、さっきと同じ過ちをするところだった。
耳をすませ周りを見る。
「周囲敵なし」
「こちらも大丈夫」
………………………………何もいない!
互いに汚れた顔で見合せ笑顔になる。
「うっしゃーー! 今度こそ俺たちの勝利だーーー!」
レベル3の敵に勝てるなんて、未だに信じられない。
色々な幸運が重なり、しかも友達がいたから勝利できたんだ。
信じあえるこの3人で本当に良かった。
やっとの思いでホブゴブリンを倒した僕たち。
それは偶然が重なり得ることができた奇跡の勝利。
もしも、ホブゴブリンが勇者達から深手を負っていなかったら、
もしも日頃の鍛錬をしなかったら、
武器を新調していなかったら、
回復アイテムの補充をしていなかったら、
こんな結果にはならなかっただろうな。
色んな偶然が重なってこの勝利に繋がった!
しかし、いつまでも手放しに喜こんではいられない。
ゴブリン達を殲滅するのが目的ではない。
本来の目的はトンスケーラさん達3人の勇者を救う事だ。
そのあともかなりの警戒をしつつ、慎重に遺跡の前までやってきた。
誰もいないか探りながら進んでいく。
遺跡の内部は、外の光を取り込める構造で意外と明るく見通しはよい。
入口すぐ近くに小部屋があり、そこにはアイテムがたくさん並べてあった。
「色々ある様だが、今はすぐ必要でないものはここに置いて行く。
ポーションや状態回復系のものだけを持っていこう」
見ただけでも凄いとわかる装備や用途不明なアイテム。
お! マジックバックもいくつかあるよ。
「あれ? ポー、何しているの?」
「はい。こうやってタッチをしておけば、例え後から来たパーティがいたとしても、横取りをされませんからね」
なるほど用心深い、優先権てヤツね。
「回復系が1つもない……。
仕方がないこのまま出発だ。
ただし、慌てず慎重に行こう」
進み出しても他の気配を感じない。
本当に全滅できたのかも。
焦るけどここまで来て失敗するわけにはいかない。
曲がり角を折れたその先に、木で組んだ格子が見え、中には3人が横たわっていた。
周りには誰もいないので、格子を外して中へ入り、3人のそばに駆け寄った。
衰弱をしているが、大丈夫生きているみたいだ。
「助けに来ました。今、ヒールをかけますよ」
3人はみるみる内に顔色が良くなり口を開いた。
「あ、ありがとう、助かったよ。
まさかこんなに早く救助隊が来るとは思わなかった」
「いえ、僕たちはたまたま居合わせた3人のパーティです。
他の人はいません。
だから、危険な状態には変わりはありませんので、
これを食べてMP回復をお願いします」
僕の作ったMP丸薬を手渡す。
「失礼だが、君たちのレベルで残りのゴブリンをやっつけたのか?」
「はい、苦戦しましたがホブゴブリン1匹も、片付けてあります。
しかし、お仲間だった暗黒魔術師はワイバーンで飛び去って、そのあとが分かりません。
奴が帰ってくる前に脱出しますのでついてきて下さい」
黙って頷く3人を連れて、もと来た道を引き返し、小部屋でアイテムを回収することにした。
お部屋に入り重戦士の男がおもむろに、防具を装備しようとしたとき、ポーが口を開いた。
「お待ち下さい。そのアイテムですが、保有権は我々のものです」
ポーは何を言っているのだろう。
「ん? いや、これは俺の装備なんだ。
誤解させちまって悪かったね、これは君のじゃないんだよ」
「いいえ、勘違いをされているのあなたの方です。
それらのアイテムは全て、私たちがゴブリンより勝ち取ったものになります」
「いや、そうじゃなくてね。
元々これは俺が使っていて、さっき剥ぎ取られてそこに置かれているだけなんだよ」
「待つんだ、エディ。
彼らの言う通り。
これらのアイテムは『私達の物』ではない」
「はぁ? お前まで何言ってるんだ。
それに剣なしでどう戦えって言うんだよ」
「落ち着け、エディ。
1度ゴブリンのものになってしまった時点で、これらは私たちのものではないんだよ」
そうだった。冒険者の権利として、
〝自ら勝ち取った物品に対して、いかなる者もその保有権を害することはできない〞
ギルドカードに込められたこの魔法効力は誰でも知っている。
「そしてこれらを手にしたのは、彼らという事だ」
ポーの勘違いだと思っていたら、凄い話になってきた。
あんなにたくさんのアイテム、いくらの価値が……すごすぎる。
「しかし、1つお願いを聞いてもらいたいのだが良いだろうか?」
トンスケーラさんが改まって話し出した。
「その中には私たちがここのハワード子爵様より、お借りしているものが3つある。
その3点だけでも、正規の値段で譲ってはくれないだろうか?」
そんな大事なものがあるのですか?
当然いいですよ、いいですよ。
ちょっと、ポーそんな険しい顔をしないでよ。
「もちろんです、トンスケーラさん。
ユウマもポーもそれでいいよな」
「ベルトランがそう言うのなら……。
わかりました。
正規の値段でお譲りすることを約束します」
「ありがたい。しかし今はお金がないので、街に帰ってから必ず用意をするよ」
話がまとまって良かったよ。とりあえず、ここは危ないから、急いで外に出ましょう。
その後はモンスターにほぼ会うこともなく、夜更けには街に着くことができた。
閉門されている時間にも関わらず、トンスケーラさん達のおかげで街に入ることができた。
孤児院にも連絡をしてもらった。
ガーラル院長はすぐ来られて、安堵の表情で迎えてくれた。
心配させてしまってすみませんでした。
ただ、騎士団と院長には、今日1日のこと話さなければいけない。
疲れてはいるが大事のことだ。
朝になる頃ようやく全てを語り終え、暫しの休息を入れることを許されたのだった。
話の内容があまりにも途轍もないことだが、
トンスケーラさん達、高レベル者の証言もあり、
事態の重さを受け止めた大人たちが動き始める。
あまりにも多くのことで、何がどう動いているのか僕には理解できない。
きっと大変なことなのだろう。
そして部屋へ戻る直前に2人から言われた。
「ユウマ、お前気付いたか?」
なんのこと?
「フフフ、ステータスを開いてみろよ」
どうしたんだろう? とりあえずステータスオープン。
ユウマ·ハットリ
ヒューム:男
Lv:2
ジョブ:中忍
HP:10/31
MP:43/43
スキル:初級忍術 中級忍術 分身の術 限界突破 薬製作 サルマワシ
「レベル上がってる! えっ! マジ? やったー。凄くない? え? もしかして2人とも?」
「多分ゴブリンではないと思うぜ。
3人一緒に上がったということは、あの最後のホブゴブリンのお陰じゃないかな」
うわー、眠りたいのに眠れなくなっちゃった。
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