第13話 異変
秋の訪れを感じたある日。
僕たちはゴブリン狩りにもなれて少し奥の方まで来ていた。
【シールドバッシュ!】
「【風遁の術・鎌鼬】でおしまいだ」
「2人とも少し怪我をしていますね【ヒール】」
「いやー、ゴブリン3連チャン疲れなー!
ちょっとビックリしたけど、ちゃんといけたな」
丁度運悪く、3つのゴブリンパーティーの中間に来てしまったようだ。
1つを全滅させたら間を置かずに、次々とやってきたのだった。
「これもタイトなゴブリン狩りをやった経験が生きたかもな」
それだけじゃないと思う。
実際ベルトランも休日には時間を作り、ギルドの技術指導受けている。
この前も、僕が受け流しの技術指導受けている横で頑張っていた。
何事に対してもすごく真面目なんだよね。
ちなみにポーはその時間、戦いよりもお金に関することが良いらしい。
商工ギルドへ出入りをして、ボランティアという名のコネクション作りに一生懸命だ。
「それにしても、この数日ゴブリンの数が多くありませんか?」
「うん、ポーの言う通り、森の奥深くでもないのにおかしいよね。
帰りにギルドへ報告しておこうよ」
「そうだな。それじゃ、今日はまだ行っていないこのルートを通って帰ろうか!
たぶん地形的に薬草も生えていそうだしな」
そろそろ秋となり、草花も実をつけ冬支度に入る。
雪が降る前に春までの分を確保しないと、リーブラさんへの納品に支障が出ちゃうもんね。
焦る必要はないけど早めに片付けるに越したことはない。
その後は、不思議とゴブリンとの遭遇もなく進んでいき少し小高い丘の上へと向かった。
辿り着いたその場所には一面に広がる薬草。
種類も多くたくさんあり、取り放題かも!
「うおーー! 宝の山だぜー!!」
見つけにくい麻痺草や月下美人まで生えている。
先の方は崖になっているようだが、進むほどに密集しているよ。
これだけあれば春までの分だけじゃなく、来年分もあるんじゃないかな!
喜んで駆け出したその先の崖の下には窪地が広がっていた。
その窪地に広がる異様な光景!
小屋らしきものがあるのだ。
丸太を互いに寄り添わせただけの粗末なものだが、何十個とひしめき合っている。
そしてそこにいるのは、何百匹もののゴブリン!
見たことのない数のゴブリンの集落だ!
「まずい、頭を下げろ!」
いくら弱いゴブリンでも、この数では対応しきれない。
もし襲われたら数の力で押し切られ殺されてしまう。
圧倒的恐怖、自分の息を吐く音さえも怖くなる。
「森の異変はこれが原因だったのか! クソッ、ついてないぜ」
「ギルドに報告するにも、ある程度数だけは確かめないといけませんね」
話し合いの末、数の確認と上位種の有無と動向だけを見極めることにした。
幸いにこちらは崖の上と風向きで、気付かれることはないものの、早くここから立ち去りたい。
ここから見ていると崖の壁の少し先に、遺跡の入り口らしきものがあり、そこから集落が広がる形だ。
地形としては窪地を囲むよう切り立った崖があり、
入り口が一箇所のため袋小路のような形になっている!
そして数は700匹を少し超えるぐらいで、上位種は見当たらなかった。
「ここまで調べたらいいだろう。そろそろ引き上げようか。
ん? ………おい、あそこ、入口の方を見てみろよ!」
よく見えないが遠くに4人の人影? 横一列に並んで遺跡に向かって歩いている。
「オイオイ、マジかよ!」
「間違いありませんね。あのド派手な色の鎧はトンスケーラですね」
僕もその名前は聞いたことはある。
獣人族のひとつ、狼牙人と言う種族で、パラディンのジョブ持ちのリーダーだ。
トンスケーラを筆頭に、重戦士・回復魔術師と暗黒魔術師とバランスのよい第一線級の高レベルパーティだ。
初めて会うので、ステータスオープンで少し失礼します。
うわ、すごいレベル21だ!
感心している間に、その4人は700匹もの大軍の中に突っ込んで行き次々と倒し始めた。
「そうか、もう報告があってトンスケーラ達に、指名クエストが発生したんだ」
「でもあの数だよ。さすがにヤバクないの?」
「バッカ、あれを見てもまだ心配なのか? まさに無人の野を進むが如くだよ」
レベル1がレベル21に対して何もできない。
実際あっという間に5分の1を葬った。
それは一方的な蹂躙でしかない。
トンスケーラの咆哮で、ゴブリンたちは身を縮ませ動けなくなり、
重戦士の剣の一振りで数体がなぎ倒される。
回復魔術士の放つ魔法で吹き飛ばされ、
暗黒魔術師がここぞとばかりに焼き払う。
彼らの表情に一切の油断はない。
一匹の撃ち漏らしもないよう、丁寧に刈っていく。
今まで幾度も経験してきた討伐。
その先にある人類の未来を信じての行進。
揺るぎない正義の盾、これこそ勇者! カッコイイ。
どんどんと打ち倒している中、ふと雰囲気が変わった感じがした。
何が変わったのかはわからないが何かが変だ。
「あれ、勢いが弱まったか? う~ん、なんだろな……。
あっ、分かったぞ、スキルや魔法を使っていないんだ」
「本当ですね。随分と余裕のことで、手応えがないから縛りプレイってとこですかね?」
それでも次々と倒していく。
時たま一撃をもらったりするが、ゴブリンなんか敵じゃない!
ほら、もう半分になった。
少し時間はかかっているみたいだけど、徐々にその数を減らしていく。
でも、ちょっと疲れてるみたいで動きが悪くなってきたかな。
「遊ぶのもいいけど、あのままで大丈夫かよ?」
「う~ん、残り150匹くらいだし、
もし危なくなったらさすがに全力を出すでしょ」
たまに4人が固まり、陣形を整えたりして立て直そうとする場面も出てきた。
いいのかなぁ、少し心配になってきたよ。
そしてその時、遺跡の中から、上位種·レベル3のホブゴブリンが出てきた!
配下のゴブリン達を下がらせて、勇者達とやるつもりだ。
ボス登場って感じだけど、レベル3なんて足元にも及ばない。
……と、気を取られたその瞬間。
前を行く3人に、後ろから暗黒魔術師の放った電撃が当たってしまった!
「ちょっと何やってるんだ、アイツ! 流石にあれはヤバイぞ!
ほら、フォローを入れないと全滅しちまうぞ!」
疲れているこの場面で痛恨のミスだよ!
3人は膝をつき痺れて動けない様子だし、見ているこっちの方が焦ってくるよ。
ホブゴブリンはチャンスとばかりに、襲い掛かっていく。
しかし、勇者たちも必死なので、痺れた体を動かし応戦をする。
いつもの力は出なくても、簡単にはやられない。
逆にほら、掠っただけでホブゴブリンの方が重傷だよ。
そして暗黒魔術師が3人を助けるため、杖を振りかざし再度魔法を詠唱し放つ。
敵を倒すため打たれた魔法は、またもや3人を襲った。
信じられない光景だった!
全く動かなくなった勇者たち。
それを見て高笑いを続ける暗黒魔術師。
黒衣のローブの中に狂気を帯びた鋭い瞳。
そしてその上の眉間に光る赤い宝石! 禍々しい光だ。
こんなに遠く離れていてもそれを感じることができる。
何が起こった?
なぜ笑う?
僕たちは固まったままその場を動けずに静観し続けた。
ゴブリン達に引きずられ3人は遺跡の中に連れて行かれたのに、暗黒魔術師は襲われずに立っている。
ここに来て新たなモンスターの登場。
僕たちが手を出せるレベルの相手じゃない。
これであの暗黒魔術師もピンチに陥ったことになる。
1人で立ち向かうには分が悪い相手のはずだ。
しかし僕らの期待は裏切られた。
なんと暗黒魔術師はそれにまたがり、飛び去ってしまったのだった。
「どうなっているの? 何が起こったの?」
「決まっているだろ! 3人は
個人的理由なのか、国とかの大きな力で動いたかは知らないが、用意周到に練られた罠だぜ」
「そうですね。ワイバーンまで用意しているとは、かなり力を持った人物ですよ」
初めからのことを振り返ると恐ろしい。
まず、今までに無かった大きなゴブリンの群れの発生。
次に勇者パーティーへの討伐依頼。
そして、カラクリがわからないけど、スキルや魔法を使用不可能にし、
ホブゴブリンで気をそらせてのとどめの電撃!
「かなりの策士です。しかもタチが悪い!
この事を早くギルドに知らせなくては」
「待て、ポー! 俺たちは知らせには行かない」
「ベルトラン、まさか。……やめましょう。
私たちに出来る事はありませんよ」
「ああ、まだあれだけのゴブリンが残っているんだ。
このまま行ってもすぐに踏み潰されて終わりだろうよ。
でもよ、このままじゃあの3人の勇者は本当に死んじまうぜ! 見捨てていいのかよ?」
守るべきが誰であれ、決して見捨てることのないベルトラン。
その彼が叫んでいる。
「連れて行かれた時、まだ生きているように見えた。
そうしたら、なぜ生かしているんだ?
なぜ飛び去った?」
―――――
「ゴブリン達に殺らせるためか?
そんなまどろっこしい」
―――――
「後で尋問をするためか?
分からない。
でももし生きているなら、これは時間との戦いだ」
僕らに話しながらも自分に問いかけ考えているようだ。
「ベルトラン、あなたらしいですね。
でもそれは私たちじゃなくても、良いではありませんか?」
ねぇ、2人とも落ち着こうよ。
僕もしっかりと考えた。
トンスケーラさんのパーティーは、高レベルで迷宮都市ユバでも屈指の実力者だ。
そんな彼らに助けられた人はたくさんいるはず。
もし彼らが居なくなったとしたら、困る人が大勢出てくるんじゃないかな?
それを僕たちが彼ら3人を助けることで、回避できるなら僕たちは今ここで動くべきだと思う。
それが例え困難で危険のことであってもさ。
「ああ、ユウマの言った通りだ。
しかしそれは俺1人の力では出来やしない。
ユウマ、ポー、お前達2人の力が必要だ!
彼らとその後ろにいる人達のためにも協力してくれ」
「気持ちはわかりました。でも何か作戦はあるのですか?」
「ああ、この3人ならではの策を思いついた。
先ずはユウマに土岩壁で円柱形の岩を出してもらう。
それを崖の上に並べて…………」
:
:
「なるほど、それなら上手く行きそうですね」
「流石だよベルトラン。
じゃあ念のためにMP丸薬を飲み直してね。
それと他の丸薬とHPポーションにMPポーションも渡しておくよ。
惜しまずにガンガン使っちゃってよ」
「よし、気持ちは固まったな。勝ちを掴みにいくぞ!」
「「お―――――!」」
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