第12話 自分に合うもの

 今日は朝の仕事を終えたそのあとに、予定を立てている。


 森で採取してきた色々な薬草を使い、アイテムの試作をしてみるつもりなんだ。


 カルメンさんが来ると、追いかけっこになっちゃうから、見つかる前に終わらせたいな。


 だって、最近ガーラル院長にお願いをして、勉強を免除してもらっている。

 だから、あんまり変なことに、時間を取られたくないんだよね。


 3人とも成績優秀なので、他のことに時間を使ってよいとのことだ。

 まぁ、その代わりにホーンラビットの肉は欠かさないことを約束してある。


 まず薬草を使って、HPポーション作りだ!


 基本中の基本だし、スキル任せで苦もなくできちゃう。丸薬とは違い、液体なので木製の容器に入れて保管する。


「よし、人数分は出来たな」


 次は持続型HP回復丸薬だけど、実はこれあまり人気がない。低レベル高レベル共に使いどころが難しい。


 それは、MP回復丸薬と併用すると、共に効果が低くなるらしく、試しに1つ作っただけで、袋の中にしまった。


 そして次に作るのは、毒草と麻痺草を使ってのチャレンジ。

 丸薬タイプの毒薬と同じく痺れ薬だ。


 作ったはいいけど、これどうやって使おうかな?

 相手は素直に食べてくれないだろうし、粉末にでもする? わからないから保留で。


 気を取り直して、解毒薬と麻痺回復薬だ。

 この2つは、毒薬と痺れ薬と同じ材料で作れてしまう。

 少しの分量の違いとスキルの力でチョー簡単。これは用心のためいくつか作っておこう。


 正午の鐘の音で、集中していたことに気付いた。

 たくさんできたし大満足だよ。

 午後はリーブラ雑貨店に納品に行き、そのあと買い物だ。





 街のはずれにある鍛冶屋街に来た。目的はガーラル院長に教えてもらった、カルヴィン鍛冶屋。


 代々孤児院の出身者が、お世話になっているお店だ。

 外から覗くと、すごく活気のあるお店で、年配の男性と目があった。


「こんにちは、僕はサン·プルルス教会のガーラル院長より、このお店を紹介してもらったユウマと言います。新しい武器を探しに来ました」


「これは行儀の良い子だね。私はカルヴィン、この店の主だ。ガーラル院長はお元気かね?」


「はい。カルヴィンさんとは、教会でお会いしたいと言っておりました」


「ははは、まっ、早速だが、お前さんの希望もあるだろうが、体に合ったものを見繕うもんで、少しステータスを見せてもらうよ」


 はい、お願いします。


「ステータスオープン。

 …………ほぉ、なかなか面白いパラメータだな。

 力はまずまず、魔力と素早さの高さが飛び抜けておる。レベル1にしちゃ高めだな。

 うむ。お前さん、普段どんな戦い方をしているか教えておくれ」



「はい、いつも忍術で、遠くから先制攻撃をします。

 それを合図に他の2人と一緒に近寄り、この木剣で、頭か首を狙って倒しています。

 相手はゴブリンなので、特に被害を受けることなく終わる感じです」


「その忍術ってのは魔法なのか?」


「はい、似たようなものです」


「わかった。まずお前さんに必要なのは、武器を生かすための防具選びだな」


 武器屋に来て、防具を進められると思わなかったよ。


「驚くのもわかる。まっ、その理由はだな、お前さんの力・魔力・素早さにある。

 この3つの値の高さだと、速攻スタイルの戦い方になるな。つまり」


 ①遠くから仕掛け

 ②近づく

 ③相手の攻撃をかわし

 ④叩き潰す



「つまりこの4つの動きの中で武器で、武器が必要なのは④番のみだ。

 ①②③では使わず、ここで求められるのか機動力だ。

 だからそれを邪魔をしない防具が必要だ」


「しかも、速さを重視するか、はたまた魔力を補い攻撃に上乗せをさせるのかの、スタイルを固めなくちゃいかん。

 それを考えられる防具屋を、最近見つけたんだ。

 お前さんさえ良かったら、紹介状を書くがどうする?」



 さすがガーラル院長のお知り合いだけあって、親切に教えてくれる。

 でも予算は大丈夫かな? えっ、ピンキリですか……。


 武器屋からさほど離れていない、こじんまりとした店に着いた。中に入ると大きな声で。


「いらっしゃいませ。安心と実績であなたをサポート。

 防具のことなら我がヘクター防具店にお任せあれ!」

 ……独特すぎる。


「あのー、防具を先に決めてこいって言われて来たのですが、これ紹介状になります」


「これはこれは。ややっ!カルヴィンって、あのカルヴィン武器店?」


 食い入るように手紙を読み続ける店主。

 のめり込み過ぎで、目を大きく開き、落っこちそうだよ。


「有名なカルヴィンさんとは、1度話したいと思っていました。

 向こうからこんな手紙を頂けるなんて光栄ですね。

 わかりました、任せてください。ではステータスを拝見いたしますね」


 カルヴィンさんて凄い人なんだ。簡単に話が通っちゃった。


 予算は武器も合わせて、金貨10枚。正直に防具までは考えていなかったと話した。


 店主のヘクターさんは、店先に並べてある鎧や盾をよそに、店の奥から1つの手甲を持ってきてくれた。


「お客様のスタイルや能力を考慮して、素早さを殺すことのない鎧等ですと、予算オーバーとなってしまいます」


 やっぱりそうなっちゃうよね。


「それに今お使いの鎧は、ギルド支給のものですよね。

 確かに初期装備の類のものですが、これはこれでよく考えられ作られた防具です。

 これはそのままにして、他の場所を強化するのが良いと思い、これをお勧めさせて頂きます」



 それは柔らかな銀色の手甲で、薄っすらと透き通った青い筋が、3本入った綺麗なものだった。


「こちら通常のより長めの作りです。

 手の甲から肘の手前までで、少し反りをつけてあり、本体は皮を使っております。

 ポイントになるこの青い物は、グラウンドタートルの骨なんですよ。

 刺突攻撃には弱いですが、斬撃·打撃に強く、受け流しに向いた逸品です」



 左手にはめてみる。すごく軽く、それでいてしなやかだ。

 手首を動かしても邪魔にならないし、もし両手で武器を握っても十分いける。


 回避が得意だけど、今後接近戦が増えてくるのであれば、なんらかの防御方法が必要になってくる。


 そこで受け流しを、取り入れてはどうかと勧められた。

 受け流しは回避主体の動作であり、盾を使うよりはよほど有効であると言われた。


 それよりも、この美しさに一目惚れだよ! いったい幾らだろう。


「はい、こちら金貨1枚と銀貨90枚になります」


 そこそこ高い……。

 布製なら銀貨2枚ってとこだろうが、良いものを使うとそれなりになるのか。


 しょうがないか、後でギルドの受け流し講座の申し込みをしておこう。


「お買い上げありがとうございます。

 本品の修理・買取も安心と実績であなたをサポートするヘクター防具店をご利用ください。またのお越しをお待ちしております」


 最後ので少し疲れたけど、カルヴィンさんがどんな武器を、用意しているか楽しみだ。


「早かったじゃねえか。その顔はいいものに出会えたってとこだな」


 おかげさまで、満足しています。


「ほぉ、これは良いものを……金貨1枚と銀貨90枚で受け流しか、う~ん、なるほどな!」


「やはりアイツを紹介して正解だっぜ。

 考え方も間違っちゃいねえし、この逸品ときた。よし、じゃあこっちの番だ」


 おもむろに、3本のショートソードを取り出した。


「まずこいつだが、ヘクターが魔力重視で考えるかと思って用意したものだ。

 素材は一般鋼で少し短めだが、柄のところに魔石が埋め込まれていて、付与効果で魔力を上げてくれる代物だ。

 だが、こいつはこの防具にあっちゃいねぇ!」


 そう言うと後ろへ下げた。



「ここからが本番だ。

 まずこいつの素材は同じく一般鋼の片刃剣のショートソードだ。

 長さ重さも一般的だが、刀身に粘りがあり、その粘りが切れ味を高めてくれる。ほれ、持ってみろ」


 うっすらと濡れたような刀身、刃先の鋭さも見とれてしまう。


 振ってみると、ス――――ッと空気をも裂く感じがする。す、凄い……。


 カルヴィンさんはニヤッと笑うと、

 今度は厚手のククリナイフをカウンターに置いた。


「お次はこいつだ。素材は同じく一般鋼。

 同じタイプのより少し大きめで、厚さ・重量があり、斬るというよりは『刈る』といったショートソードだ。

 特徴としては、重心を刃先に持ってきていて、その分厚みと握り手を、しっかりとさせてある。ほれ」



 確かに重い。振り回される事はないが、振ると剣の力強さが伝わってくる。



「そいつは重量があるから攻撃力も高いぞ。ゴブリンの首根っこも一撃だろうよ。

 ただ、振り抜くのが前提だし、防御力が高い敵だと途中で刃が止まってしまう。

 よっぽどの力がないと、場合によっては扱いが難しい代物だよ」



「その点、2番目に出したこいつはお勧めだ!

 斬ることに特化し、振り切ることで、次への流れも作れるんだ」


 確かに、この片刃剣には魅力がある。一体感も悪くない。


 しかし、こっちのククリナイフも気になる。

 でも、強敵と対峙したときの事を考えるとなぁ……。あっ、あれがあるじゃん!!


「カルヴィンさん、実は僕、こちらの方が気になるんです。

 さっき言われた『力がないと』てことなんですが、スキルで力を補ってはダメですか?」


 よく使う風遁の術・疾風、これでキメの一撃を放つなら、もしかしていけるかもしれない。


 カルヴィンさんに促され、木材で試し切りをすることにした。腕ほどの太さだ。


【風遁の術・疾風】(力を)

 ズバッとキマリで難なく断ち切る。


「ほぉ、次は少し太いぞ」


 胴回りもほどもある太さだが、これも真っ二つ。


「うむ、少し待ってろ。…………これは無理だろうが一度やってみるか?」


 なにやら、白くてブヨブヨした塊を持ってきた。


 ちょっと気合を入れて試したが、5分の1も刃が通らず、途中で止まってしまった。



「おお~! 凄い、ここまで斬れるのか。いける、いけるぞ坊主!

 これはジャイアントオーガの腕だ。

 骨はもちろん、皮膚·筋肉に至るまで硬さと弾力を兼ね備えたモンスターだ。

 それをレベル1で、ここまでいける斬撃なら、どんな敵にでも通用するぞ」



 嬉しい。人に評価されて、それも思いのほか高いと素直に嬉しい。


「それでだ。値段の方は、片刃の方が金貨7枚で、あとのほうが金貨8枚と銀貨60枚だ。」


 たっかーーーー!

 いや、買えるけど、やっぱり武器って身を守るものだから高いみたい……悩むなぁ。


「すまんな。もっと安いものもあるんだが、お前を見たら、ついこのクラスの物でないとって思ってな。どうする他のも見るか?」


 買います、買わせて頂きます。ククリナイフ格好いいもん。

 でも防具と合わせて金貨10枚越えって……仕方ないか。


「ついでにもう1つ良いですか?柄の先に紐を付けてください」


「ストラップか? いいけど、かっこ悪くねぇか?」


 忍術で印を結んだり、アイテムを使うときに両手が空いてるほうが、便利だと思うんだけどなぁ。


「まっ、人それぞれだからな。分かった任しておけ」


 聞かれもせずにピンクに決められたので、慌てて変更。僕のことを坊主って言ってるくせにさ。


「それと坊主。この木剣を見ると、相手の攻撃を剣で受けているみたいだな。

 できたら、受け流しか回避に専念しみな。

 いやなにね、剣で受けてもいいんだが、受ければその分脆くなる。

 特に強い斬撃を放つなら、いざって時にその脆さが仇になるからよ」



「『受けるもので受け、斬るもので斬れ』だ。まぁ、がんばれよ」


 それからの毎日は、ハンナに心配をかけさせない程度に抑えた狩りをした。


 新しい武器にもなれ、薬草探しにも精を出し、いつもの森でゴブリンを刈る毎日。



 だがその森の中、誰も気づかない異変が起きていた。

 後日、それを目の前にした僕たちは、只々呆然とするしかなかったのだ。

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