第11話 レベルアップ
「あれ? ユマちゃんこっちの門からって珍しいね」
馴染みの門番さんに挨拶をし、当分こちらの北門を使うことを伝えた。
魔力草探しの件もあり、狩場の場所を変えることにしたからなんだ。
目標は北に広がる深い森。
西門より出ると平原が中心で比較的安全だけど、森はだいぶ遠くなる。
「そうか、でもあまり無理しちゃいけないよ」
北の森はゴブリンの数も多いし、森が深く広がっているので薬草採取にも向いているんだ。
ただ、あまり奥へ行くと、オークやハーピーといった危険度の高いモンスターの縄張りがある。
限界地とされている徒歩で半日を守っての狩りだ。
「ありがとうございます、ではいってきまーす」
ところで、今日教えてもらったことがある。ちょっとびっくりした事なんだ。
スキルを使う時、カッコよく叫んで決めているけど、
アレって声に出さなくてもいいんだってさ……。
試しに無言で薬水を出したら、出来てしまった。
意識するだけで発動してくれる。
あと告白します。
僕の忍術を使うとき、印を結んでいるけどあれも本当はいらない。
でも、だってさ、ボーッと立って火炎熱波っておかしいじゃん!
印はあったほうが良い。
むしろない方向でって言われたら絶対抵抗するよ!
じゃあわざわざなぜ言うのか、それは。
「そりゃ他の人からしたら、いきなり目の前に炎とか出てきたらびっくりするだろう?
ちゃんと、次これするよって言えば仲間もその後のフォローとか考えやすくなるからだぜ」
つまり、連携を良くするためなのだそうだ。
特に効果範囲が広い技など絶対必要になってくるマナーで、
こういった繰り返しでパーティーの絆を深めていくものだそうだ。
そう言われると、ちょっと意識して次を考えて行動できそう。
そして今日も、随分とたくさん戦った。
風遁の術・鎌鼬の声のトーンも格好良くきまっていたし他の忍術もだいぶ慣れてきた。
僕はどんどん強くなる。
この分なら早い時期に、他の土地にも行けるかも知れない。
ただ知らない土地での単独行動が危険だし、レベルいくつぐらいで旅に出れるのか今度聞いてみよう。
そして何気なしに、ステータスオープンをしてみた。
ユウマ·ハットリ
Lv:1
ジョブ:中忍
HP:15/16 MP:8/20
スキル:初級忍術 中級忍術 分身の術 限界突破 薬製作 サルマワシ
あれれ? レベル1のままだ。
…………何度見ても『1』だ。……どゆとこ?
今まで結構な数のモンスターを倒したのに。
もしかして何か開放しないといけないパターン?
それともギルドで何かのイベントとかをするのかな?
「おかしい、レベルが上がっていないなんて、おかしいよね?
レベルの1のままってさ!」
「ん? ユウマ君はまだ日が浅いから、そんなに直ぐには上がりませんよ。
何百回と戦い、苦労の末上がるものですから」
はぁ? ウソでしょ!
ゲームだったら、始めて15分もすれば簡単に上がるよ。
ものによっては、チュートリアルだけで、レベルが5つや6つとかもありえるし、どうなってるの?
それだったら、レベル2になるには、どれくらいかかるのさ?
「う~ん。2年はかからないと思うけど……15分? 無理、無理、無理!」
そんな事ってある?
15分と2年、比べるのに単位が違いすぎて、計算する気にもならないよ。
「はははっ、ユウマは面白いこと言うよな。
そんな簡単に上がるなら、毎日獲物をとっている狩人一家なんて、どうするんだよ!
あっという間に、国1番になっちまうぜ」
ごもっともだよ。
でもさ~、目標が見えなくなっちゃったよ~。
一流とは言わないけども、せめてベテラン勢ぐらいにはなりたいと思っていたのにさ。
一体レベルいくつの人の事を言うのさ?
「そうだな、ベテランと呼ばれる人達は、レベル7や8だな。
そこに上がれるかが境目でメンバー構成次第で変わってくるみたいだぜ。
そして一流なんてレベル19,20それ以上の人達さ。
そこまで行くなんてメチャクチャ憧れるよ!」
レベル7,8がベテランって事は、それだけ上がりにくいってことじゃないか。
帰れるのを心配するどころか一人歩きすらままならない。
そんなに時間がかかるだなんて、世界を歩ける頃には歳を取りすぎて、
帰ったとしてもパパやママが僕って分からないかも。
それまで生きていてくれるか、どうかさえも。
……こんな事受け入れられないよ。
「ユウマ君、そんなに落ち込まないで。
確かにレベルが高いほど能力は高くなりますよ。
でも、低いからといって何もできないわけではないですよ。
ほら行商人だって、高い人はいませんよ」
「ユウマの気持ちも分かるけどよ、焦らず行こうぜ。
それに自分のレベルも大事だけど、敵のはもっと大事だぜ!
今レベル1の俺たちが、同じレベル1のゴブリンを相手にしてる分はいい。
でもこれが、格上になると話が違ってくるんだからよ」
その理由はレベルアップ時のステータスの上がり方にあるようだ。
特に低レベルのアップ時はパラメーターが1.5倍になったりもする。
逆に言えば、これはモンスターにも言えることなのだ。
メンバー構成がバランスよく組めているパーティーだったとしても、
戦う相手とのレベル差が2までと言われている。
それほどステータスに、差が出てくるのだ。
もしそれより上とやるのなら装備を整え、複数のパーティーで挑んでやっと倒せる位だ。
仮に勝ったとしても1匹からのドロップアイテムを分けるのだから、揉めるのは最初から目に見えている。
「つまり、同レベル相手にして地道にやるのが一番ってことだぜ!
当面の目標は腕を磨き、迷宮に入るための最低条件・レベル2を目指すぜ」
先は長く経験値もたくさんいる。
しかしその反面、レベルアップをすれば飛躍的能力は上がり未来が広がる。
だったらやることは1つ!
〝狩って狩って狩りまくる〞だ。
他のパーティーのことは知らないけど、お金も経験値も、最短で効率よく稼ぎ上へ上へと目指すよ!
「よーし頑張るぞー!」
「なんでやる気になったかわからないけど、そういうの好きだぜ」
僕の決意を2人は受け止めてくれた。
ふふふ、まずはゴブリンを倒して倒して、倒しまくってやるー!
しばらくしてのある日の夕方。冒険者ギルド。
「……こんばんは、モニカさん。
これ買取カウンターの証明書になります。
換金とギルドポイントの書き込みを……はぁ、お願いします」
「お疲れ様、3人共最近すごく頑張ってるわね」
「ははっ……ゴブリンをやりすぎて、何でも緑色に見えてきましたよ」
あの日の決意から、MP丸薬を使いゴブリン三昧の毎日である。
丸薬のおかげで、いくらスキルを使っても休まずに次々といける。
見つけては走り出して倒し、また見つけては走り出すの繰り返し。
ちょっとしんどい。
「大丈夫? 疲れがたまると思わぬミスが出るから、休みはちゃんと取りなさいね」
「数を数えていると、止まらなくてねぇ」
「まあ程々にね。
うわっ! すごい数ね。やっぱり、噂になるだけはあるわ!
ルーキーの中では断トツ勢いがあるって、注目されているわよ」
「注目されている? な、何故ですか?」
「ユウマ君、君たちは朝から晩までゴブリンを追いかけて、
ゾンビみたいな顔色でギルドに帰ってくるのよ。
買取金額もすごいけど、ある意味怖がられているわ」
「ま、マジ? 目立ちましたか? ヤッター嬉しいー!」
「…………ベルトラン君、彼だいじょうぶ?」
「なんか〝忍ばない忍び〞を目指しているらしいです」
「何ソレ? 普段から充分目立ってるじゃない」
「まだまだ足らないらしいですよ。
そういえば、ギルドランクアップってまだダメですか?」
「う~ん。ゴブリンだけだとね~。
ギルド指定のクエストを何個かこなしたらいいけど、どうやってみる?」
「いや、またにします」
「分かったわ。はい3人のギルドカード。
ちょっとはお休みなさいよー!」
〝忍ばない作戦〞でみんなに認められテンションは上がっているけど、
疲れていて振り返るのも辛く、手だけをあげてギルドを出た。
レベルアップだけじゃない、やることは他にもイッパイある。
納品のMP丸薬のほかに、まだ作っていないアイテムもいくつもあるし。
お金も貯まってきたので新しい武器や防具も新調したい。
そんなことを考えていたら、孤児院にたどり着いていた。
「ユウマ君、ちょっと待って!」
声をかけてきたのはハンナだった。
そういえば最近話していなかったな……。
「こっちを見て……」
なんで悲しそうな顔をしているのだろう?
「この前教えてくれた目標に向かって頑張っているだよね?
……これ、元気になるって店のおばさんが分けてくれたの。飲んで。
……みんな心配しているよ」
疲労回復薬だ。そっか、そんなひどい顔しているのか。
心配をかけてしまって、それも気付かずに。2人にも付き合わせてしまった。
「ごめん……ちゃんと休むよ……………ありがとう」
明日は休もう。
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