第10話 闇の人達

 迷宮都市・ユバ。ここは迷宮の魅力に取り憑かれ、様々な人種が集う場所。

 ある者は財宝を手にし、ある者は夢に破れ、またある者は信念に従い迷宮に挑み続ける。


 その中ここに1つの志を持つ者たちが集まった。老いも若きも男も女も関係はない。

 ただその光に誘われ、光と戯れ、光に恋をする。

 儚く愚かな者達よ。


 今日も集いしその者たちの名は


  『ユマちゃん見守り隊』


 今日も今日とて、彼らは偶像を追いかけ享楽にふけるのである。



 No.1「それでは第4回ユマちゃん見守り隊、定期会合を開きたいと思います。前回予定していた順番での発表ですね。隊員No.8さんからになります。今回のテーマは〈私のユマちゃん〉です」


 No.8「それでは早速ですが、天使を見たお話をさせて頂きます。……先日激しい夕立がありましたよね。突然だったので、我らがユマちゃんも雨に打たれ、雨宿りをしている所でした」


 会員「雨のくせに! なんて酷いことを!」

 会員「ユマちゃん、かわいそう」

 会員「今度来たら俺が追い払ってやる!」


 No.8「髪はびしょ濡れになり滴が垂れ、少し寒そうで見ていられませんでした。しばらくすると雨も止み陽が射してきました」


 No.8「そうするとその光でユマちゃんが照らされ……そう、溢れる光の中にユマちゃんがいたのです。もうキラッ☆キラ キラッ☆キラしていて、凄く綺麗でした。今まであんな美しいもの見たことありません。サイコーでした」


 会員「マジか、光のユマちゃん……」

 会員「想像しただけで心が洗われるわ」

 会員「それを再現しようとしたら、細かな天気の移り変わりを予測して尚且つ、いやそうするとかなりの魔力を必要とするな……しかし、やらねばならぬ」





 No.2「次は私ですが、今朝ユマちゃんに『おはようございます』と言われました」


 会員全員「「「………………」」」


 No.3「笑顔でか?」


 No.2「ええ、しかも、オチャメな寄り目で」


 会員「ムリ、むり、無理! 可愛すぎる」


 会員「ヒイィィー、息ができない。息ができない。そんな、そんな……僕も見たい~」


 会員「うらやましいー! 私も門番になれば良かったわ」


 No.19「ちょっとそれは、職権乱用じゃないか? それはイカン、イカン。私と代われ、私なら真っ当につとめ上げるぞ」


 No.2「ははは、あなたの仕事は、他の誰に代われるというのですか? それにこんな門番なんてつまらない仕事、私には丁度お似合いですよ」


 No.19「左遷してやるー!」


 No.1「まあ2人とも、それ位にしておいて下さいね」





 No.11「次は私です。みなさん、まずはこちらをご覧ください」


 会員「袋に入った帽子のようだが?」


 No.11「はい、これは店に来たユマちゃんが、試着していった帽子です」


 会員全員「!!!」


 No.11「女性用だと分かると、恥ずかしそうに出て行かれました。そこですかさず私が、買い取った次第です」


 会員「う、う、売ってくれ! 定価の5倍、いや10倍出すぞ」


 会員「ハァッ、ハァッ! 私は20倍出そう!」


 No.11「いえいえ、これはお譲りできませんよ、フフフ」


 会員「そこをなんとか……ジュルッ」


 No.1「ストーーップ、ストップ、みんなストップだ。…………会員No.11。それは本当にユマちゃんが被ったものなのか?」


 No.11「ええ、目の前でしたので、間違いありません」


 No.1「ユマちゃんから贈られたプレゼントではないのだな?」


 No.11「ある意味、プレゼントと言って良いかもしれませんね。

 いや、ご褒美かも、グッフフフフフッ」


 No.1「そうすると、No.11よ。……それは立派なストーカーだ」


「「「……うッ……」」」


 No.1「我らの誓い覚えているだろう? 『我らは平等、ユマちゃんに付かず離れず見守りながら、その笑顔を曇らせない』」


 会員全員「それが我らの意地である」


 No.1「君の行為の原点は、愛である。だがその先の君は誇らしいものか? その先にいるユマちゃんは笑顔でいるのか?」


 No.11「……分かっていました。……これはいけない事だと、でも目の前の誘惑に勝てず……ごめんなさい」


 No.1「気づく事は良いことだ。しかし、処断はしなければならない」


 会員「………………」


 No.1「その帽子、この場にて焼却しよう!」


 会員「待って下さい、それはあまりにも」

 会員「人類の宝が……」


 No.2「みなさん落ち着いて。No.1の意見は正しいと思います。確かにやりすぎ感はあります。ありますが……私たちは律しなければなりません。それに、この決断の重さはNo.1も皆と同じく感じているはず、そうでなければ、あの流れる涙は嘘になってしまいます」


 会員「そうだな、ありがとう。No.1、私たちは危うく道を逸れるところだった」


 No.11「ごめんなさい、私が、私が……」


 No.1「みんな聞いてほしい。No.11のした事をこれにて許してあげてくれ。そして、我らも再スタートとし、更にユマちゃんを見守っていこうではないか」


 会員全員「おう!」





 No.19「新人のNo.19です。よろしくお願いします。さて、確かな情報なのですが、ユマちゃんの身辺を考慮すべき事実を掴みました」


 No.1「それは緊急を要する事なのですか?」


 No.19「はい……先ずはユマちゃんのジョブが〝中忍〞であるとのことです」


 No.13「中忍か……忍者といえば、東方の国が起源のジョブだと聞いた事がある」


 No.4「忍者って読んで字の如く忍ぶ者だけど、ちょっとユマちゃんのイメージには合わないかなぁ」


 No.13「うん、可愛いオーラ出しまくりだし、姿を隠すなんて無理だよね」


 No.7「僕ならユマちゃんが金庫に隠れていても、見つけることができると思うな。へへへ」


 No.2「ちょっと待てよ。それだったら俺だって目ん玉潰されてもユマちゃん見つけちゃうもんね」


 No.19「おほん、さすが、お2人よくご存じで。ですが、そのジョブは問題ではありません。そこから派生するスキルが、些か波乱の予感がするのです。そのスキルの名は、分身の術です。ご存知の方は?」


 No.13「いや、初めて聞くスキルだな」

 No.4 「私も……同じです」


 No.19「このスキルの特徴は、自分と同じ姿形の実体を作り出せるというものです」


 会員全員「なに!!!!」

 会員「ということはユマちゃんが2人?」

 会員「ダブルユマ、声がエコーするのか?」

 会員「私は、2人が回す大縄跳びを跳んでみたい」

 会員「イヤ、私が回す縄を跳んでもらいたい」

 会員「ユマちゃんの魅力が大爆発だ!」


 No.19「そうです。そこが問題なのです。みんなが興奮するユマちゃんの可愛さ! そして本物とは別に分身体。この分身体を、得ようとして各国が動くかもしれません」


 No.13「イカン、それは断じて許されない。取られてなるものか」


 No.4「忍びの能力でなんとかならないんですか?」


 No.19「このことはいずれ、知れ渡ると覚悟はしておかなければいけません。ユマちゃんの魅力を、隠しておけるはずがありませんからな」


 No.1「恐ろしいことだ、ユマちゃんの可愛さが全世界を巻き込むとは……」



 と、どうでも良いことを語り合う。

 今日も今日とて偶像を追いかけ、享楽にふけるのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな馬鹿馬鹿しいおしゃべりをしている同じ時刻、

 ハンナはユウマの悩みを聞いていた。


「ユウマ君、それって本当に君のことなの?

 存在感がなく友達がいないなんて信じられないわ。

 どちらかというと注目されている方だし人気者だよ」


「ううん、そんなこと全然ないよ。

 どんなに頑張っても僕って印象が残らない体質なんだよ。

 そりゃ、あこがれの忍者嬉しいさ。

 だけどジョブのせいでこれ以上影が薄くなるの嫌なんだ」


 ユウマ君は自分に自信がないのかな……それで苦しんでいるのなら力になってあげたい。


「その忍者の特性が嫌なら、反対の行動をしてみたら?」


「反対?」


「うんそう、えっと『主君のために技を磨く』だっけ?

 その反対だから『何があっても主君を持たない』ていうのはどう?」


 しまったわ! 適当なこと吹いちゃった。

 ふざけているつもりはないけど、これはさすがに怒るよね。


「主君を持たない…………そ、そっか!

 誰かの影として動かなければ、存在感がないって怯えなくていい。

 凄いよハンナ、天才だよ!

 しゃあ『1人闇夜を突き進む』てのは?」


「え、え、え? えっと、えーと、『夜遊びしない』?

 うん、『昼間みんなと元気良く』だよ」


 これはちょっと無理があるかな。


「おおー、楽しそう! 『黒装束で気配を消して』は?」


「それは『毎日好きな明るい服で挨拶をする』だよ!」


「挨拶大事だもんね、でもお金ないから服は毎日違うのは無理かな」


「なんでもいいのよユウマ君。『どこにも隠れず楽しくオシャベリ』」


「わ~、なんかやれそうな気がしてきた。

 〝忍ばない作戦〞僕頑張るよ」


 よかった、元気が出たみたい。

 でも、今言った事ってユウマ君はもう既にしているんだよね。

 ウフフ、内緒にしておこうかな。



 こちらもちょっとおバカな会話ですが、気にしないであげてください。

 お願いします。

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