第9話 スキルて便利だね
ホーンラビットの肉の買い取り価格が上がり、自分たちの資金が増える。
それにより今後の未来のことを、現実的に考えるようになった。
増えた収入もそのままで良いのか。更にもっと増やす方法はないのか。
良い武器も欲しいし、お金もいっぱいあったほうがいいに決まっている。
いつまでも、木剣と解体用のシースナイフなのも嫌だしね。
「俺も今持っているラウンドシールドを、グレードアップさせたいしなぁ。
盾術のスキルのランクも上げておかないと、騎士団の試験も受けられないぜ」
名前も知らない誰かを、力のない誰かを守れる騎士となり、悲しむ人を失くしたい。真っ直ぐなベルトランらしい夢だ。
ポーに関しては、回復魔法があるので治療師や、神官を目指すのかと思っていたら、なんと商人が良いそうだ。
とにかく、お金、お金と細かいのはそのせいなのか。
「ええ、お金大事じゃないですか?
あれば大抵の事はなんとかなりますし、大商人ともなれば、世界各地へ行って、それまで知らなかった品も扱える。素晴らしいと思いませんか?」
何にしても大きく稼ぎたい。そして話し合った結果、狩る獲物をゴブリンに変更することにした。
ドロップアイテムや、解体で得られるものはない反面、討伐部位証明の右耳をギルドに持っていけば、銀貨3枚にもなるんだ。
しかも、ゴブリンの一人歩きが少なく、常に2~4人で行動をしている。狩りにくい反面、大きく稼げるんだ。
それと森には、薬草などの採集物もあり一石二鳥だよ。
そのための作戦会議だ。
「2匹3匹の時は良いけど、4匹となると先制攻撃で1匹倒したとしても、こちらと同数。
位置取りによったら、こちらが1人に対して、向こうが2匹になるパターンが怖いぜ」
「そうですね。いくら弱いゴブリンとはいえ、一撃もらう可能性が出てきますね。
連戦を想定していますから、MPも温存しておきたいですしね」
「それなんだけどさ、僕まだ試していない術があって、それでどうにかできないかと思っているんだ」
「お、何か良い案か?」
ふふふふ、それは〝分身の術〞なんだ。
非常にコスパが良く、1体につきMP1で、現在レベル×1体を作り出せる。
早速いつもの草原で、ホーンラビット相手に試してみる。
「それじゃ、いくね【分身の術】」
印を結び発動させると、自分そっくりなもう1人の自分がすぐ横に現れた。分かっていたけど驚いちゃう。
「これが分身の術かよ! すげー! 何もかも同じじゃん」
「ふはははっははー、どっちが本物か分かるかな?」
「分かる訳ないだろ。 馬鹿やってないで、検証始めるぞ」
つれない…………。もう少し楽しませてくれてもいいじゃんか。
でも検証の結果、色々なことが確認できた。
「見た限り、本体と全く同じ動きではないですね。
攻撃箇所も違っていましたし、自由度が高いのでしょう」
「それと、別々の敵にも対応できそうだし、使えそうだぜ」
これが1つの大きな利点だと思う。
目をつぶったりして試したのだが、流石に僕が認識していない敵には、行動を起こさない。
一度でも見たり意識を向けた敵には、うまく立ち回ってくれる。
これで喋ってくれたり、忍術を使ってくれたら最高なんだけど、それはないみたい。ざんねん。
それと、1度でも攻撃を受ければ、立ち消える。HPの概念がないのかな。
それでも、1度出したら意識して消さない限り、存在し続けるようだ。
「よし、基本こちらからの先制攻撃の場合、ユウマの鎌鼬で1匹を仕留めた後、 左が俺、真ん中が影分身で、右がユウマ。ポーは補助として動く作戦でいいな」
「いよいよ森へ進出ですね。もっと時間がかかると思っていたので、少し緊張しますね」
「ねぇ、失敗しないかな?」
「大丈夫、俺たちなら仲間を気にかけられる。
強い弱いじゃない、お互いを信じて助け合う。これがあれば間違いはないぜ」
「「そうだね、やろう!」」
本当に緊張する。でも周りは見えているから大丈夫さ。
森へ入って少し行った場所で、ベルトランがゴブリンを見つけた。
いきなりの4匹パーティか、しかし心は決まっていて、お互いを見合わせて頷く。
深い呼吸をして印を結ぶ。僕の術の発動が開戦の合図だ。
まだこちらに気づいていないし、この距離ならいける。
【風遁の術・
5つの刃がゴブリンの首元を後ろから襲う。突然の仲間の事態に騒ぐ3匹。
雄叫びをあげたベルトランが突っ込む。早!! 影分身君も早く行って。
ベルトランの迫力に、左の2匹が惹きつけられる。
それをフォローする形で、影分身とポーが斜め後ろから駆けつけた。
残る1匹が僕のほうへ向かってくるが、動きがすごく遅い。
攻撃されるのを、律儀に待っている必要もないので、木剣で首を打つとあっけなく倒れた。
あまりにも簡単で信じられなく、念のためナイフでとどめを刺しておいた。
振り返り見ると、2人は右耳をもうすでに取っていた。
「なんか……あっけないね……」
「あぁ……」
勝った喜びよりも、一太刀で勝てたという事に恐怖を感じた。
この一太刀も敵が、力のある者だったのなら、結果は反対になっていただろう。
そのことにみんなも気付いていたようだ。
……でも勝てた、しかも一気に稼いだよ。
「今は素直に喜ぼうぜ! ……それよりこのクズ魔石をどうするかだ。決めていなかったよな」
ホーンラビットは解体途中で取り出していたが、ゴブリンは解体しない。
わざわざ、体を開かなければいけなく面倒臭い。
「1個銅貨5枚のクズ魔石なんて、いらないですよ。やめておきましょうよ」
時間がかかるし、次の獲物を探したほうが効率いいもんね。
そして今度は2匹のゴブリンを見つけた。
「今度も鎌鼬から始めるけど、ポーと影分身は待機をしていてくれ。
その代わり周囲を警戒して、何かあったら声がけを頼む」
2匹だと、もっとあっけない。簡単なのはいい事だと思いながら、右耳を取っていると。
「やはりもう1匹いましたよ。右手のほうから戻ってきます」
ポーのおかげで奇襲は受けずに助かったよ。
この快勝後も森の深い場所を避けて、次々とこなして行き、いつしかひらけた場所に着いた。
見通しもよく警戒もしやすい場所なので、少し休憩をいれる事にした。倒木に腰をかけ水を飲む。
ポーが腰をかけた足元で何か見つけた。
「これって、魔力草じゃないですか?」
お、すごそうな名前が出てきた。高価格での買取の予感。
「たくさん生えているな。1人10株ぐらい持って帰ろうか。いい金になるぞ」
オォ~、いいね~。でも何かどこかで聞いような名前だけど、どこだっただろう?
「ユウマ、取り方教えるからこっちこいよ」
今いくよ。
「いいか、根っこごと掘り出すには、主幹の根が必ず南へ伸びている。
だから南側のこの辺りを、こう……刃を入れると。
……ホラ簡単に質の良いのが採れる! やってみな、あまり採りすぎるなよ」
これも初めてのことなので、すごくワクワクする。
そして採取している最中に、さっき引っかかったことを思い出した。
「ねぇ、これなんだけど僕が取った分は、売らなくても良いかな?」
「いいんじゃないですか。それはユウマの取り分だし、好きにしたらいいですよ。でもどうするつもりですか?」
「実は僕のスキルに使えるかもって思ってね」
「それは楽しみですね。どうなったかあとで、教えてくださいよ」
この魔力草の使い道は、帰ってからのお楽しみにして、その日は時間いっぱいまでゴブリンを狩り、合計16匹となった。
「なんか稼ぎすごくない?」
「ああ、ここまでいくとは思わなかったぜ」
「それより2人とも何か忘れていませんか?」
「ギルドで報酬をもらうまでは、気を抜くなってことだろ。ポーは真面目だな」
「いいえ、私も今になって気づきましたが、ノルマのホーンラビットがまだです」
「しまった! 今日の夕食分忘れていた、急ごう」
その後なかなか獲物が見つからず、遅くなり調理当番に、すごく文句を言われちゃった。ごめんね。
次の日の午後は休息日なので、街にあるリーブラ錬金雑貨店というお店に向かった。薬製作に必要な道具を買うつもりだ。
今回作るのは丸薬になるので、すり鉢のセットと、干す為の網だけを買い孤児院へ帰る。
裏庭の片隅で作業開始だ。
作り方だけど、スキルとは大したもので術や魔法と同じく、どうしたら良いのかがちゃんと分かる。
作るのは持続効果型のMP回復丸薬だ。
MP回復ポーションも魔力草からできるけど、携帯するのに便利な丸薬を選んだ。
材料も少なくて、採取した魔力草と水遁の術の薬水だけ。
すり鉢で魔力草をすりおろし、適量の薬水を加え練る。
あとは小分けにして丸め、天日で干すだけだ。
言葉でいうと今の通りだ。
要所要所でスキル【 薬製作 】が発動し正しい方向に持って行ってくれる。
自動運転アシスト機能みたいなものかな。便利で過信しちゃいそうだよ。
次の日、2人にお願いをして、丸薬の効果を確かめてもらった。
ゴブリン相手では、なかなかMPを使うスキル発動は難しいが、無駄打ちをしたりと、なんとか検証することができた。
性能は12秒にMP1を回復して、それが4時間のあいだ続いた。街に帰ってきてもまだ続いてるのが笑える!
その足で、昨日行った錬金雑貨店へ付き合ってもらった。
「いらっしゃい。この前の子だね、どうだい上手く作れたかな?」
「はい、使い易い道具ありがとうございました。
これが出来上がったものなのですが、買い取ってもらえるでしょうか?」
「どれどれ失礼するよ…………」
服用せずに見るだけでわかるんだ、凄い。
「君、これはどうやって作ったのだい?」
やっぱり失敗か。最初っからうまくいくはずないもんね。
何処がいけないのだろう、教えてもらえるかな。
「いやいや失敗どころか、効果がすごいんだ。通常のと比べ回復量が多いし時間も長い」
…………ん?
「……解っていない顔だね。いいかい、こちらがこの店で、1つ銀貨1枚で売っている丸薬だ。
効果は1分毎に回復MP3で、効果時間は1時間」
「それに対して君のは、12秒毎にMP1、しかも4時間も続くんだよ。
こんなに差がある品物は初めてだよ。何をしたらこうなる、教えてくれ」
すごい迫力! 優しいおじさんの変わりようがちょっと怖い。
初めて作ったもので、普通との違いをと言われても分からいないです。
「いや、こちらこそすまない。
こんなすごい事、レシピにしろスキルにしろ、おいそれとと話せるわけないのに……すまない。マナー違反だった。………それにしても素晴らしい」
いえ、そんなに誉められると照れますよ。
「これ買い取りといったよね! 是非売って欲しい。
できるなら、定期的に仕入れたいのだが可能かい?」
いきなり大きな話になってきたよ。 嬉しいけど、どうしよう。
定期的とは、どれくらいの量なんだろう。
僕は駆け出しだけど、冒険者として頑張っていきたい。量が多いと対応しきれないし、それと値段が気になるかな。
「それについては、このMP回復丸薬の凄さを、世間に受け止めさせるようにと考えているよ。
ズバリ、 1日限定5個。売り値を銀貨12枚にと思っている」
メチャクチャな数字が出てきたよ。
店の12倍の値段って、いくら性能良くても高すぎで売れないでしょ。
せめて、性能にそった値段にしたほうがいいじゃないかな。
「君は冒険者を続けていくと言ったよね。それがあるから、この値段にしたんだよ」
「あ、そうか。ユウマくん、この人の考えがわかったよ」
ポーどういう事?
「効果に対する価値と、需要に対する価値ですよ」
益々分かんないと、頭を抱えていると丁寧に教えてくれた。
まず効果の対比だけど、店のものに比べて、僕のは約6.6倍もの回復量がある。
これを仮に値段に反映させると、銀貨6枚·銅貨60枚だ。
その値段で売り出したら、みんなどちらを買うかだ。同じ価値なら、一回の服用で手間のいらない方を選ぶ。
それともし、もっと安い値段で売ったとしたら、他の薬師の丸薬が売れなくなってしまう。
そうすると薬師は作ることをやめたり、他の所へ行ってしまうかもしれない。
そのうえで、僕までも辞めてしまったら、街はどうなってしまうだろ。
丸薬が一切、手に入らなくなってしまうってことだ。
「なかなかいい読みだね。彼の言った通りだ。他の薬師を駆逐し、市場を独占するなら始めは安価でいい。
この丸薬には、それを可能にする力がある」
「だけど、それはできないし、やってはいけないって事ですね」
つまりこういう事だ。
1. 他の職人の反感を買わない値段設定
2. ターゲット層をワンランク上げる
3. 効果+需要を考えると、一般の10倍は欲しい
一般の丸薬が買える客層は、その効果内で満足している。
現実として1時間の中、戦闘回数はそう多くはない。休みが多く、銀貨1枚が限界となってくる。
しかしベテランになってくると、戦闘回数が増え、時間も長く動けるので稼ぎが良い。おのずと出せる金額も上がってくる。
だからその客層が、ギリギリ出せるであろう銀貨12枚にしたのだそうだ。
「はぁ、勉強になりますね。ユウマ君」
「ははは、そして数量限定は、購買意欲を高める為と、宣伝効果を期待してのものだよ。
それと買い占めをさせない対策も、ちゃんとするからね」
1日に5個ということは、月に150個か。
値段はわかりましたが、月に150個ができるかはまだわかりません。
魔力草の群生地も多く知らないですし、3ヶ月ぐらい様子みても構いませんか?
「それでいいよ。それより買取金額だが、売値の75%でどうだろう?」
ポーが言うには破格らしい。値段交渉の練習なるかと思っていたけど、するまでもないそうだ。是非受けてみてはどうかと言われたよ。
そこまで言われると、儲けが心配になったので聞いてみた。
「君がいい人だね。その代わりの条件だが、私の店での専売にさせてほしい。
この丸薬で儲けが少なくても、これ目当てでお客が増えれば、ほかで利益が見込めるからね」
店主と握手をした後、2人に相談をした。
僕1人では薬草集めは無理なので、2人に手伝って欲しいのだ。
その代わりに利益を等分にするからどうだろう?
それに対し2人は反対してきた。
薬草採取は手伝うが、作るのは僕だし、その儲けは僕が取るべきだと言っている。
頑としてる譲らない2人。
結局、採集するときの日当と、パーティでの狩りをするとき、MP丸薬を1人1個渡すことで落ち着いた。
あはは、2人の頑固さには笑っちゃうよ。
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