VOL.7
俺はまず指を鳴らしてみた、しかし奴は何の反応も示さない。
続けて腰の特殊警棒を抜き、
だが、何の手ごたえもない。
逆に次の瞬間、こっちの身体が何かに突き飛ばされるように、後方に5メートルばかり弾き飛ばされ、コンクリート製の屋上の床を滑り、物干しの支柱でしたたかに背中をぶつけて止まった。
俺は後頭部をさすりながら身体を起こそうとする。
するとあの死神がさっきより倍増しの残忍な笑みを浮かべ、右手の人差し指を俺に向けた。
『邪魔をするってのか?上等だ』
尖った爪の先から、細い光が出て、又それが俺の腹に当たり、再び俺は弾き飛ばされ、コンクリートの上を滑った。
『たかが人間が、俺様のようなAランクの死神に対抗しようなんざ、百万年早いんだよ!』
三流のヒーローアニメで、悪役がよく口にする月並みのセリフを吐き、口を耳まで割けさせて、大きな声で俺を
『いてぇな・・・・だが本物の死神さん相手にマトモな喧嘩が出来るなんて実に光栄だ。これで俺の履歴にハクがつくってもんだ。』
正直、俺にも相当ダメージが来ている。
弱みを見せるわけには行かない。
『ほざけ、お前の方から先に地獄に送ってやるぜ』
俺はちらりと霊子の方を見た。
彼女は手で俺に合図をした。
俺はポケットに手を突っ込み、さっき彼女から渡されたものを見た。
弾丸である。
黒光りする、あまり見たことのない代物だ。
懐からM1917を抜き、シリンダーを振り出して、六発の弾丸を全部排出させ、そいつを一発だけ込めた。
『ふん、銃か・・・・そんなもので
奴は長い舌で、割けた唇を一舐めした。
真っ赤な唇が安物の娼婦のルージュみたいにぬめった。
奴はまた俺に向け、右手の人差し指をまっすぐ前に伸ばす。
爪の先がまた光る。
ためらいなく、俺はM1917の引き金を弾いた。
風に乗って高らかに、(大袈裟な表現じゃないぜ)銃声が辺りに
よく見ると、幽霊男の腹の真ん中に、向こうの景色が見える程、大きな丸い穴が空いていた。
『れ・・・・霊子・・・・お前こいつに・・・・』
奴は苦痛に顔を歪め、俺の隣に立っていた霊子を睨む。
『ま、また再教育か・・・・やだよ・・・・150年なんか・・・・』
最後に情けない言葉を口にして、奴は前のめりにコンクリートの上に倒れると、
そのまま全身が茶色くなって大きなヒビが入り、更にそれがより細かくなって、遂には塵になってしまい、風に乗って宙に散っていった。
『大丈夫ですか?』
霊子が俺に駆け寄る。
『さっきも言ったろ?これは
全身が痛かったが、俺はやせ我慢をしてそう言い、特殊警棒を拾い、拳銃を元通りホルスターにしまった。
『ところで、さっきのアレは一体何だったんだね?』
『閻魔大王の
『奴は死んだのか?』
彼女は俺の言葉に黙って首を振った。
当り前だな。
痩せても枯れても『神』と名の付く存在が死ぬはずはない。
『助かったよ。何しろ俺はまだ探偵になってから、射殺だけはしたことがないんでね。これで警察から免許を取り消されずに済む。しかし・・・・危険手当だけは割増しを頼むぜ』
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