VOL.4
まず俺と霊子嬢は二人して都内にある、
今年に入ってから、入院患者の死者が増えたとか何とか、マスコミで騒がれている某総合病院に出向いた。
魂を拾うには、病院より的確な場所はないからだ。
確かに収穫はあったな。
彼女はくすんだ灰色の、今にも人の身体から離れそうになっている魂を幾つか手に入れる事が出来た。
だが、これだってそうは簡単にはゆかない。
どんな世界でも競争はあるものだ。
俺達が行くより先に、病院には数体の”死神たち”が待ち構えていた。
誰もが考えることは同じで、皆病院に集まってくる。
いわば”魂の争奪戦”が繰り広げられるという訳だ。
当り前だが、霊子の姿も、そして他の死神たちも、俺以外の人間には見えない。
だから俺が彼女と会話していても、独り言を喋っているようにしか見えないから多分、いや間違いなく、
『頭がおかしな男』だとしか思わなかったろう。
それにしても死神同士の”魂の取り合い”というのは、実に壮絶極まるものだった。
バーゲン品に押し寄せる女性の群れを、倍ぐらいに拡大した迫力はあったな。
死神の風体も様々で、伝統的なあのスタイルのもいれば、最新流行のファッションを身に着けたのもいた。
男もいれば、女もいる。
年寄りがいるかと思えば、子供もいた。
そいつらが寄ってたかって”魂の争奪戦”を繰り広げるわけだ。
無理もなかろう。どいつもこいつも、ノルマを達成出来なけりゃ、百五十年、或いはそれ以上の”再修行”が待っているんだからな。
ええ?お前は何をしたのかだって?
何もしていないよ。
仮にも連中は”カミ”の端くれだから
たかが人間のこの俺が、文字通り”異世界”に住んでいる連中のやることに介入なんか出来ると思うか?
しかしこっちも一応金で雇われている身だ。
最低限霊子が危害を加えられない程度、つまりはボディーガードの真似事程度はやってみせなければならない。
連中は俺の事を”ただの人間”と侮っていたんだろうが、彼女から死神の弱点は教わっている。
なに、そんなに難しいことじゃないよ。
一回だけ指を鳴らし、右の掌で奴らの額を押すんだ。
すると連中は腰砕けになって、これ以上近づいて来られなくなるって訳だ。
何故そうなるのか、理屈は教えてくれなかった。
まあ知る必要もないだろう。
今後の俺の人生で、役に立つとは到底思えないからな。
兎に角、霊子はこの病院だけで十個もの魂を手に入れる事ができた。
これでまあノルマは達成できたのだが、彼女としては後もう少し”稼いで”から、閻魔の庁へ報告に行きたいという。
そうすれば駆け出しである彼女の能力も少しは上がり、次からはもう少し楽に魂集めが出来るというわけだ。
”もう少し付き合って頂けますか?”
彼女はすまなそうな口調で俺に言った。
しかたがない。俺は肩をすくめた。
着手金として幾らか多目に貰っているからな。
ここで終わりという訳にもゆくまい。
”いいだろう。但し
法外ともいえる俺の要求に、彼女はあっさりと承知をしてくれた。
このときの気分はねずみ男だった。
俺はゲゲゲの鬼太郎ほど、無欲には出来上がっちゃいないからな。
相手が何者であれ、多少はがめつくやらないと、フリーの探偵稼業なんざやっていられない。
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