東京の街

エリー.ファー

東京の街

 捨てられてしまって、何もなくなってしまって。

 気が付けば、一人だけ取り残されている。

 宇宙船は行ってしまったし、ここに私がいることなんて誰も気づかないだろう。所詮は代えのきく兵士でしかない。いなくなれば補充され、い続ければいなくなるまで使われ続ける。

 私の記憶は戦争しかない。

 必ず誰かが叫んでいて、そして、泣いている。

 そういう場所で生きてきた記憶しかない。

 東京の街は、思ったよりも綺麗だった。地球である訳だから、どことなく空気が悪く、病原菌が多いというイメージをしていた。実際、そのあたりのことが原因で人類は滅んだとも聞いていたし、少し気を付けていた。

 私がロボット、というか人造人間というかエイリアンというか、まぁ、その類の何かであるせいか、体に異変は生まれていない。

 私は知らないのだ。

 地球のことを。

 そして。

 地球は知らないのだ。

 私のことを。

 私が、兵士という役目から逃げてしまったことを。


 煌びやかな日々に別れを告げるような生き方は、難しい。

 自分の中に作り出した世界が、僅かばかりの音をたてて微笑むのを直視したいのだ。

 頼むから、私が少しでも近い存在で。

 頼むから、私とあなたの間がコントロールされた世界で。

 頼むから、高等遊民としての立場を東京という世界で築き上げたい。

 可能か。

 可能であることの証拠はどこにあるというのか。

 隠された考え方の一つ一つが遊戯場に放置された鴎のように近づいてくる。

 溢れてしまわぬように、自分の構成物質を欲しがるのは我が身だけの証明になる。

 触るな、語るな、捨てるな、喋るな。

 そこにある東京の兵士で作られた肉塊になんと名をつける。

 あぁ。明日は我が身か。


 東京という町に希望はあるか、と問われればそこに意味はないと答える。

 結局のところ、自分で作り出した世界を東京で築けるかということでしかないのだ。一応のチャンスはある。しかし、一応である。期待をしてはいけない。

 自分の考える世界を、自分の世界に住んでいる人たちに説明することだけがすべてではないのだ。ここにはリアルがあり、そのリアルを説明する義務を求められる。

 自分を失ってはいけない。高く保たなければならない。

 自分の作り出した命を疑ってはいけない。それは現実よりも時間の圧縮にシビアなエレメントである。

 いずれ、私はこの街で起きたすべてを話すだろう。

 その時には、きっとこの情報は価値のあるものになるだろう。

 慌ててはいけない。


 東京にしか私の知っている人はいない。

 どこにもいないのだから、不憫なのだ。

 自分に向かって使う言葉なのか。

 あぁ、分からない。

 分かりにくい。

 私の人生は、私だけが邪魔なのだ。

 東京という場所によって、ようやく完結するのだ。

 あぁ。私は。

 私を探してこの年齢になった。

 東京に何がある。東京のどこにいる。東京で生まれている。

 文化ではない、差別だ。

 分かってやってくれ、これは東京の呪いなのだ。


 東京でなければ、人を救うことはできなかった。

 私も、僕も、俺も、あたしも。

 東京にいる。

 東京に希望はない。

 しかし、余白はある。

 その余白に希望を書くかは、あなた次第である。


 分かったような口で東京を語る奴が嫌い。

 マジで嫌い。


 

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