第10話 傲慢な考え

 どうやら今日、西夏は風邪で休みだったらしい。

 クラスが違うため、下校時間になるまで分からなかった。


 原因はワイシャツ一つで外に出たからだろう。

 西夏は昔と変わっていない。

 昔から風邪を引きやすい。

 活発なイメージがあるが、昔はもっと病弱だった。

 勿論元気な時は元気だが、風邪を引くと、とことん活発性が失われる。

 上がり下がりが激しいと言うのだろう。


 一応家の前まで来た。

 昨日の事が原因なら、俺も一枚噛んでいる。

 お詫びも兼ねて態々足を運んだのだ。

 と言っても隣だが。


 俺は一度帰宅するという選択を消した。

 理由は帰ると、時間が食われると確信していたからだ。


 ピーンポーン。


 チャイムを鳴らす。


 昔遊んだ仲だが、ヅカヅカと家に入り込む度胸はない。

 そもそも昔西夏の家に来たことすら、無かった。


 チャイムを鳴らしても、辺りは静かなままだった。

 どうやら寝ているのだろう。

 なら態々起こす必要も――。


 ―――ガチャ。


「どぉぞぉ」


 帰ろうとした時。

 気の抜けた声が、玄関の向こうからやってくる。

 俺は言われた通り中に入った。

 そこにはパジャマ姿の西夏がいた。

 見るからに熱がある。

 見るからに寝ぼけてる。

 ボタンを掛け違えている。

 普段の西夏ならやらない行為だ。


「だ、大丈夫か?」


「うぅ〜」


 なぜ唸る?


「お腹空いてないか?」


「ううぅ〜」


 だから何で唸るんだ?

 よく分からないが重症のようだ。

 熱が頭にまで来てるのだろう。


 心配していたら、いきなり笑い始めた。


「あー。ほくばぁだぁ〜。三人もいるよぉ〜」


 どうやら俺は西夏の頭の中で、分身を披露しているらしい。


「あー。おかゆ作ってあげるから自分の部屋で寝てな」


「はぁい。やったぁ。三人のほくばぁが家にきたぁぁ……――」


 はぁ、まだ言って――。


 ―――バタッ。


「……西夏?」



ーーー



 西夏は倒れた。

 と言っても、ただ眠っているだけだ。


 それにしても驚かされた。

 急に倒れたからだ。

 本当に、心臓が止まるかと思った。

 心配したのだろう。

 それもそうだ。

 西夏は大切な友達だからだ。

 失いたくない友達。


 俺にとって、なんて『傲慢な考え』だろうか。


 西夏の部屋が何処なのか分からなかった為、リビングらしき部屋に運こんだ。


 運んでいる最中。

 熱のせいだろう。

 西夏の体温が強く感じられた。

 そして今まで経験した事がない、未知の柔らかみ。

 安心させてくるような香り。

 全てが全て、俺の知らない西夏だった。


 けど俺はそれでも良いと思った。

 これから知っていけばいいと。

 まだ時間は十分にあるのだから。



ーーー



 おかゆを作ったあと、俺は西夏にそれを食べさせた。

 どうやら食欲はあったようだ。

 けど、会話は成立しなかった。


 俺を再び三人にしたり、唸ったり。

 相当重症と言うことだろう。

 ならとことん看病するまでだ。


 おかゆを食べ終わってから数分後。

 西夏の目は通常の三分の二状態まで開く。

 ちなみに昏睡状態だった時は、ほぼ目を開けてなかった。


「ほくば……」


「なんだ? 俺に出来ることならなんだってやるぞ!」


「じゃあ……、ふいて……」


「……え?」


「せなか、ふいてぇ」



 そう言うと、西夏はパジャマのボタンを外し始めた。

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