第5話 再婚した

 二ヶ月前の顔合わせから今まで。

 俺は愛南と同棲生活をしている。


 華奢なからだ。

 細いながらもやはり女の子と言える体型。

 何より未だに発展途上段階と愛南自身が言っている。

 歳は14歳の2個下。

 身長は160あるかないかで、見た目のイメージは天使に近いだろう。

 学校でもモテモテだという。


 シュシュで髪を右に寄せて、完全装備という風のドヤ顔である。


 ちなみに愛南のお義父さんは、ヤ○ザだった。

 『りゅう』という名前からして怪しいと思ったのだ。

 昔父さんに世話になったかしい。

 本当に俺の父さんは何をしているのか。

 疑問だ。

 そんなことより、今は日下部の事だ。


「愛南、今日お前は妹だ。いいな?」


 日下部には嘘を付くことにした。

 理由は、正直自分でも良くわからない。

 友達に嘘は付きたくない。

 けど、嘘を付かなかった時の事を考えると、無性に不安になるんだ。

 だからこそ、愛南に妹役をお願いした。


「えっ……それって。妹プレイってやつ? あいな一度やってみたかったんだよねーそれ!」


「あっそうですかー」


 二ヶ月一緒に暮らしてきたが、未だに愛南の思考が読めない。

 回答も読めない。

 想像していた切り返しの斜め上を常に生み出す少女だ。

 だから俺はもう突っ込むのをやめた。


「とにかく、余計な事は考えるなよ。感じろ。お前は妹だ。妹。ただの妹だ。賢いとか変な設定は付けようとするなよ」


「うん、分かった! なんかこれ、ゾクゾクするね! 感じちゃうかも…」


 うん、なんで?

 感じるって変な意味じゃないよね?

 それに俺は愛南がボロを出さないかヒヤヒヤなんだけどね?



ーーー



 リビングにある大きなテーブルに対立するように座る。

 風呂上りの日下部は、何故かワイシャツを着ている。

 他にもあったというのに。

 何故かワイシャツだ。


「おぉ、大胆だ……」


 隣に座っていた愛南は小声でそう言う。

 確かに大胆だ。


「あ、あのな。誤解してるかもだから言っとくが、愛南は妹だから……」


「昔遊んだ時は妹なんて居なかった。それに北馬のお母さんは……」


 そこで日下部さ口を継ぐんだ。

 これ以上はデリケートな内容だと思ったからだろう。


「実はな、再婚したんだよ。こいつの親と。今父さん達は海外旅行に行ってるから家に居ないけど」


「じゃあその子のお母さんと北馬のお父さんが結婚して、新婚旅行に行ってるってこと?」


「え? ちょっと待って。あいなのお母さんは今天国にいってるよ?」


 ええええぇぇぇぇ!?!?!?

 そうだったのぉ??


 聞いてない。

 そんなこと聞いてない。

 どうしようどうしよう、日下部の目が段々鋭くなってきてる。

 ここままじゃバレる。

 なんとかしろ俺!


「ほくばぁ?」


「結婚したんだ。……そう。俺の父さんと、愛南のお義父さんが……」


「え……!?」


 際ど過ぎる内容に、日下部は反応に困る。

 俺も表情を隠して言っている。

 申し訳ないからだ。


 ほんと、ごめん。

 父さん、お義父さん。


「えぇ! そうだったのぉ? あいな初耳なんだけど!」


 お前は黙っとけっていただろ!

 フォローした所から潰しかかるな、本当に!


「内容がアレだから今まで黙ってたんだよ。ごめんな」


 暗い雰囲気で、謝罪なような物をする。

 すると、愛南は慰めるように俺を擦ってくれた。

 愛南の行動はもはや演技ではない。

 地雷を作ってしまったが、どうにか愛南が許嫁という事は隠せそうだ。


「そう、だったんだ。もう夜遅いから、私帰るよ」


「ああ、なら送っていくよ」


「大丈夫大丈夫」


「いや、でも……」


 流石にワイシャツで下着が透けている状態で返すわけにはいかない。

 それにまだ4月。

 夜の気温は低く、風を余裕で引けるレベルだ。


「本当に大丈夫。だって家隣だし」


「え?」


「じゃ、また明日な。起こしに行くから目覚ましかけるなよ。あと、明日から日下部じゃなくて西夏って呼べよ。じゃおやすみ!」


「あぁ、おやすみ」


 風のように帰っていった。

 驚きながらも玄関から出て隣を見ると、日下部、いや西夏が入っていく姿が見てた。

 本当だったのだ。


「……愛南」


「なに? 北馬くん」


「妹設定続行で……」


「うん、いいよ!」


 これから隠し通すと考えると不安になる。

 なのに愛南は少し嬉しそうだった。

 やはり思考が読めない。

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