第4話 許嫁

 二ヶ月前、父さんがいきなり家を訪ねてきた。

 基本父さんは家を留守にしている。

 理由は知らないし、興味もない。

 けど久しぶりの再会に、俺も舞い上がっていたのは本当だ。

 だからこそだろう。

 父さんの性格を忘れかけていたのは。


「北馬、彼女いるか?」


「い、いないけど……?」


 帰宅早々父さんの一言目はこれだった。

 失礼を通り越して疑問だ。

 しかし彼女が居ないのは自分の問題。

 父さんのせいにするのはお門違いだ。


「はっはー。だろうな。なんて言うかお前、彼女出来そうな顔立ちじゃないからな。本当、母さんにそっくりだ」


「おい、失礼だな、母さんに」


「はぁ〜。そう言う所だよ、母さんに似てるのは。本当、俺に似なくて良かった」


 それは否定できない。

 どうやら俺は母さん似らしい。

 自分では分からない。

 理由は俺を産んだ後、すぐに天国にいったからだ。

 母さんは俺を抱っこする前にいった。

 だから俺は母さんに触れられていないのだ。

 顔は写真でしか見たことがない。


「あぁ、そうだ。こんな話をしに来たんじゃなかったな。ほら行くぞ」


「は? 行くってどこに? せっかく帰って来たのに出掛けるのか?」


「どうせ暇なんだろ? 中学校行くまでまだ時間あるんだろ? もうすぐで……、中学二年生」


 もうすぐで高校一年生だよ。


 心の中で叫びつつ、声には出さない。

 当分は父さんに会っていなかったが、性格は嫌と言うほど知っている。

 言っても無駄なのだ。


 父さんに連れられて着いた場所は、いかにも高級そうなレストランだった。

 豪華、ゴージャス、綺羅びやか。

 目がチカチカするくらい、光がうるさかった。


「父さん、こんな高そうな所に連れてきてなんだよ。何かいい事でもあったのか?」


「あぁ、なんと今日はタダだ。今日だけだから旨いもん沢山食えよ」


 なんと贅沢な発言だろうか。

 外見からして豪華なレストランの内装はもっと豪華だった。

 店内に待っていた店員が、俺達に気付きやってくる。

 どうやら決まった場所があり、そこに案内してくれるそうだ。


「どうぞ、こちらでごさいます」


 丁寧な言葉遣いに、きちんとした服装。

 そして何故か俺もきちんとした服装になっていた。

 父さんが家を出る前に、着替えろと言ってきたからだ。

 自分はダボダボの服を着ている癖に。


「……んッ、ゴボン」


「どうしたんだよ。そんな真剣な顔して。父さんらしくない」


「お前に一つアドバイスしておく。男は勇気と根性だ。ナメられないよう正面向けよ」


「お、おう……?」


 いきなり真面目な事を言ってくる父さんに疑問を浮べる。

 過去を遡ってもこんな真面目な父さんは見たことがない。

 レア中のレアだ。


 ――コンコン。


 気品のある扉を、二回叩く父さんは、目をがっと見開いていた。


 そして――。


「りゅううううううううぅぅぅ!!!! 来たぞおおおおおお!!!」


 聞いたことのない大きな声量に、俺を含めこの店のスタッフさんもびっくりする。


 そのまま扉を開け、部屋に入る父さんに続いて、俺も入る。

 そこには、厳つい、いかにもヤ○ザのような風貌の男性。

 そして、可憐な花が、一人無邪気に咲いているような風貌の、少女が座っていた。


 そして厳つい男性が口を開く。


「そいつが俺様の娘の許嫁相手か」


 は? なんて? 許嫁?


「父さん……? これは?」


「あ。そう言えば言ってなかった。お前には許嫁がいる」


「――それを! 最初に! 言えええええぇぇぇ!!!」


 俺は初めて感情的に、父親を怒鳴った。

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