ソラの語り①
アンドレとの出会いは、スターズ試験にまで遡る。
スターズになるためにはいくつかの試験に合格しなければならない。その試験はどれも超難関である。俺だって簡単に受かれたわけじゃない。俺があの試験をクリアしたのはある意味奇跡の連続だった。
数多の敵にぶつかりながら、数多の味方の手助けを借り、俺はスターズになることができたのだ。
俺とカツミがアンドレに初めて会ったのは、スターズになるための一次試験でのことだった。
ただし彼が敵か味方か、今の俺にはわかっていない。彼の消息がわかっていないからではない。
彼との出会いが、敵と味方の繰り返し、つまり裏切りなしには語り得ないものだからだ。
一次試験は数千人もの受験者で戦う勝ち残り戦、つまりサバイバルだった。
俺とカツミは受験生が事前に他の受験生のことを調査しているという情報を知らず、苦戦を強いられていた。
そんな時に、情報と引き換えに自分を仲間に入れてくれと頼み込んできたのが、アンドレだった。
『信じてた仲間に俺は裏切られた……。』
アンドレはとにかくクールな男だった。
何をするにも馬鹿みたいに騒ぐ俺やカツミと違い、火起こしや経路確保、地形把握までそつなくこなした。彼がいなかったら俺はきっとスターズにはなれなかったであろう。
試験中は時刻を確認することもできなかったし、気候も不安定で、一体何日間彼と寝食を共にしたのかわからない。それでも俺たちとアンドレは親しくなっていった。
だからこそ、俺は信じられなかった。
あれは、暴風のような弓の中を3人で走り抜けた後のことだった。
『…この試験には、たくさん強い奴がいる。俺なんかじゃどうやっても敵わない奴がたくさん。当然、俺は蹴落とされてその他の一つになるわけだ。』
そう言ったアンドレの目を俺は忘れないだろう。
『この試験に挑む奴は多かれ少なかれ何かを背負ってる。期待とか、宿命とか、伝統とか、夢とか…復讐とか。』
さまざまな感情の入り混じったその瞳だった。ハッとするほどに深い紫色の瞳。
『だから負けるわけには行かないんだよな。絶対に敵わないはずであろう相手たちを蹴落とさなければいけないんだ。どんな姑息な手を使ってでも蹴落とす必要があるんだ。だけど………』
俺はそれを見て思ったのだ。
『お前らじゃなかったら良かったのに。』
人間はこんな顔もできるのか、と。
自分の横腹を確かに貫く熱い痛み。あの牢獄で何度も味わった痛み。そうか、と俺は確信した。
アンドレが俺を刺したのだ。
今でも微かにだがこの時の傷が残っている。鏡越しに見るたびに彼のことを思い出すこの傷も、今となっては彼が生きた証になるのだから滑稽だ。
…どうやら、俺は少々喋りすぎたようだ。
とにかく俺が言いたいのは、俺が成り上がるうえでアンドレの存在は必要不可欠だったこと。そして"裏切り"というものを俺に教えてくれたこと。
この2点だ。
アンドレを語るうえで、俺よりも適任なやつが一人いる。今度は彼女に語ってもらうとしよう。
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