第6話 勇者とその仲間たち
アリナ・ロディンは勇者である。
神に祝福された彼女は、16年前にクリムランド王国の王都クロービスで生まれた。
ロディン家は侯爵で王国貴族の家柄。
何不自由なく育てられた彼女は、やがて才能を開花させ、人間世界を暗黒に陥れる大魔王アトゥムスを倒す旅へと出発していた。
彼女の力は勇者として恥ずかしくないものであった。
勇者としての経験は5年。
ゴブリンの100匹や200匹は電撃魔法『雷撃弾』で瞬殺できるし、大型魔獣ケルベロスも手にする聖剣『シャイニング・ブレード』で倒してしまうほどだ。
さらに自分や仲間の防御力を上げる魔法、攻撃力を上げる魔法を使い、パーティの士気を高めると共に、回復魔法で受けたダメージも治せるという無敵ぶりであった。
大魔王アトゥムスを倒すにはまだまだレベルをあげなければいけないが、それでもこの世界の人間の中では、唯一、大魔王に抵抗できる人物である。
現在のアリナのステータス
勇者 クラスS 16歳 女 攻撃力S 防御力S 体力A 俊敏力S 魔法力S 器用さB 耐性力A 知力B 運S カリスマS
光の剣(シャイニング・ブレード)光の鎧(シャイニング・アーマー)光の盾(シャイニング・シールド)戦乙女の髪飾り 妖精の服 白竜のマント 猫足の靴
勇者には当然ながら、付き従う仲間がいる。この光の勇者には3人の優れた仲間が付き従っていた。
まず一人目は、北の大国アイスバッハ帝国で剣聖と呼ばれたダンテ・ロスチャイルド。
36歳の年齢は剣士として円熟期に達している。
金髪ロン毛の渋いイケメン顔に似合わない上半身の筋肉は、彼が剣の技巧だけではなく、パワーにおいても人間離れをしているということを理由付けていた。
性格はストイックで常に己の肉体の鍛錬を怠らず、剣技を磨いている。
国には愛妻と愛娘がおり、家族を守るためにも大魔王を倒すと心に誓っている。そういった意味でもこの旅に対する士気は高かった。
現在のダンテのステータス
戦士 クラスS 38歳 男 攻撃力S 防御力A 体力S 俊敏力A 魔法力C 器用さA 耐性力S 知力B 運B カリスマB
魔剣レーヴァテイン ゴリアテの鎧 ゴリアテの兜 ガントレット サラマンダーのマント 剛力の腕輪
2人目は、南の大国ジュノー共和国で賢者とうたわれた大魔法使いユグノー・ロックフェラー。
老齢ではありながらもその魔法攻撃力は人間界随一。古代竜ですら魔法で圧倒したと言われる伝説級の魔法使いである。
今回、大魔王を倒すために老いた体に鞭を打ち、この旅に同行していた。
ユグノーの師匠はかつて大魔王アトゥムスを封印したとされる7英雄の一人であり、彼もまた、大魔王を封印することを自分の使命としていた。
得意魔法は火炎系と氷結系。
特に3匹のドラゴンを召喚し、3方向から火炎のブレスをさせる『地獄の息吹三連』はこの世界では彼しか使えない火炎系の究極魔法の一つであった。
ユグノーのステータス
魔導士 クラスS 63歳 男 攻撃力C 防御力B 体力B 俊敏力B 魔法力SS 器用さA 耐性力A 知力S 運A カリスマs
審判の錫杖 力天使の衣 パワーストーン 浮力の靴
3人目は西の宗教国ボニファチウスから来た神聖魔法の使い手。
光の神に仕える大神官サラディン・ベゾフ。
2mの身長に体重100キロ超えという巨体にスキンヘッドに神を称える神聖文字を書いている姿は異様に映るが、その表情は慈愛に満ちている。
その神聖魔法はアンデッドの大群を一瞬で塵と化し、魔法攻撃を完全に遮断する絶対防御魔法『聖天使の盾』を発動させる。
どんな重傷でも一瞬で治す『復活』はこの国の神官の中では彼しか使えない。
サラディンのステータス
大神官 クラスS 48歳 男 攻撃力S 防御力S 体力S 俊敏力B 魔法力S 器用さB 耐性力A 知力A 運S カリスマS
断罪のメイス 聖戦の盾 穢れ亡き衣 白銀の胸当て 白狼の靴
そんな人間界で最強とうたわれる四人が朝食を取っている。
今日から暗い洞窟での探索が始まる。
時折、この攻略基地(クエストベース)に戻って来るとはいえ、何日かは携帯食で過ごす不自由な日が続く。
「全く、ユートの作る飯はうまいな」
「この目玉焼きの絶妙な焼き具合は、王宮の料理人でも再現はできないと思うのじゃ」
「いえ、まだまだです……」
戦士ダンテと賢者ユグノーはそうユートの仕事を褒める。
しかし、ユートはそれで顔を緩めることはない。
これくらいは当然であり、自分が使える勇者アリナに褒めてもらわなければ、意味がないからだ。
「この水もうまい……ユート、これはどこで汲んできた水なのだ」
出されたコップに並々と注がれた水を一挙に飲みほした大神官サラディン。水の味が故郷の国ボニファチウスの聖都ベヘナの泉に湧き出る水と同じであることに驚いた。
「はい。夜のうちに聖都まで行って汲んでおいた水です」
ユートは事も無げにそう答えた。
その様子にこの少年は、近くに山の清水の湧き出る場所を見つけて、汲みに行ったのであろうとサラディンは理解した。
聖都までは1週間以上かかる道のりだ。どう考えても冗談に決まっている。
「うむ。実にお前は気が利く」
サラディンはそう褒めた。少年の無邪気なジョークには、大人の対応をするのが正しい選択である。
水に限らず、今日並べられた食材は見事なものである。
一番近い村まで2日はかかり、その村ではおよそ手に入らない食材ばかりなのだ。
だが、勇者アリナを含めた勇者一行はそんな小さなことに疑問は抱かない。
大魔王アトゥムスを倒すためには、そんな些細なことにかまっている暇はないのだ。
「僕は勇者アリナ様のために精一杯お仕えするだけです。アリナ様が気持ちよくモンスター退治ができるように美味しい料理を作り、寝心地のよいベッドを用意し、快適に過ごせるようにするのが僕の仕事です」
ユートはそう勇者パーティのメンバーに話す。これはいつも話していることだ。自分はモンスターを倒す力はないので、せめてそれができる勇者をサポートすること。それが自分の務めなのだと。
「でも、ユートは、本当はこのパーティに加わって一緒にモンスター退治をしたいのよね」
そうアリナはふかふかに焼かれたパンを頬張り、そうユートに尋ねた。
この女勇者の言う通り、将来的にはユートは戦闘の面でも勇者の役に立ちたいと思ってはいる。
しかし、それはあくまでも夢である。
「はい。それは夢です。実現できないかもしれない夢ですが、努力はしています」
「そうだな。俺たちと一緒に戦うには体力を付けないとな。筋肉トレーニングは毎日やっているのか?」
そう尋ねたのは剣聖とうたわれる人間界最強の戦士ダンテ。
将来、仲間に加わりたいと思っているユートに基礎訓練が大事だと話して、いくつかの筋肉トレーニングを課していた。
「はい、今は少しだけ数を多くして毎日行っています」
「それは感心だ。でも、さぼると筋肉はすぐになまくらになる。常に自分を鍛えることが大切だ。いざという時に鍛えた筋肉は嘘をつかない」
「はい、ダンテ様」
「そうだ。あとアドバイスをするなら実戦だな。訓練だけで戦えるようになっても実戦では役に立たない。モンスターと実際に戦う必要がある」
「はい、ダンテ様。実戦も必要だと思って、昨晩、少しだけ弱いモンスターと戦ってみました」
そうユートの答えにダンテはにやりと笑った。
どうやら、この少年の向上心は思っている以上に高いらしい。
自分たちの世話をしつつ、弱いモンスター相手に実技を重ねているようである。
ただ、この少年の武器は、馬車に立ってかけてある樫の枝を加工した棒である。
あんな武器ではせいぜい、レベル1程度の雑魚モンスターを1,2体倒すのが精一杯であろう。
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