だい〝じゅうご〟わ【南洲ノ会】

 件のリストに名前が載っていて未だ未接触の最後の一人、上伊集院さんに声を掛けるという方針だけは固まった。


「作戦とかどうするんですか?」そう尋ねた。ついつい山口先輩相手には〝作戦〟って使ってしまう。


「そんなの無い」山口先輩があっさり言った。だけどこう付け加えた。「——こんどはさんにんで一緒に行こう」


「図書館に着く前に結論が出ちゃったみたいですけど一応行くんですか?」と訊く。


「当然よ」山口先輩は言った。


 明日上伊集院さんが僕たちの会に参加しようとしまいと規定人数は満たさない。明日より後はどうなっちゃうんだろう? たまたま隣の席にいた徳大寺さんを巻き込み頼みを聞いてもらってたのにここまでで終わりになっちゃうのか。


「分かりました」山口先輩の『当然よ』に応え、僕は言った。


 徳大寺さんも口を開く。

「確か上伊集院さんの同好会の名前は『南洲ノ会』でしたよね? なんでしょう? 『なんしゅう』って」


「徳大寺さん、調べてなかったの?」山口先輩が言った。


「……え? わたし?」


 人に振るってことは山口先輩も調べてないっぽいが。


「今川くん。今川くんは?」その徳大寺さんがこっちの方に振ってきた。皆さんスマホ持ってるでしょうに。検索、かけません?


「西郷隆盛ね」僕はその答えを言った。


 これはきっとアレだ。明智光秀のことをついつい惟任日向守これとうひゅうがのかみと言いたくなるというヤツに違いない。


 その答えを聞いた徳大寺さんは、

「渋い。渋すぎる」


 山口先輩は、

「渋いのとも違うのかも。太った中年のイメージしかないし」


 いやいやいや、確実に山口多聞さんも中年ですよね? もちろん口に出してナド言わないけど。


 しかしこんな人が好きだなんて上伊集院さんって変わってる。僕も中年になってもイケたりしないか?

 でも『変わってる』を言ったら、たったひとりで同好会なんて登録していたリストの中の人たち、あっ、ひと組だけ二人でやってるところがあったけど、みーんな変わってる。


 そして僕もその中に入っている……



 結局『南洲』がどういう意味か分かっても図書館行きの予定は変えず。後は図書館ロビーで三人仲良く(?)雑談タイムとなった。

 この流れの中で徳大寺さんが口をすべらせてくれた。僕のことだ。


「中学までサッカーやってたんだって」そう山口先輩に言ってしまったのだ。


 僕は実に迷惑そうな顔をしたことだろう。しかしもう後の祭り。山口先輩は興味津々。


「やってみて」と簡単に言ってのけてくれる。


「一人でどうやって?」


「リフティングなら一人でもできるでしょ?」


「でもやれったってボールも無いし、ここ図書館じゃないですか」


 僕は渋るぞ。


「家にボール無いの?」


「無いです」


「じゃあ学校しかないのね」


「今からですか? どうせどこかの部活が使ってますよ」


「じゃあ明日の昼に見せてね」


「上伊集院さんはどうするんです?」


「もちろん予定通り」


「昼休みにふたつもの用事を済ませるなんて」


「昼休みはひとつだけのつもりだけど」


「へ?」


「だから明日のお弁当はみんなおにぎりで」


「どういうことです?」と言ってしまったのは徳大寺さん。


「昼ご飯の時間に見せてもらうのよ。十五分もあれば脚前は分かるでしょう?」


「あしまえ?」と僕。


「脚で蹴るから」


 無言な僕と徳大寺さん……ともかくさすが上級生、僕たちを仕切っているのはこの人、山口先輩。もしもそんな未来があったらの話しだけど、各会の合併に成功したら会長はもう決まっている。こうして火曜日が終わっていく。

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