だい〝はち〟わ【軍師徳大寺聖子、策を披露する】

 金曜日。

 学校が終わって放課後、僕と徳大寺さんは市の図書館にいた。別に場所は学校でも良かったけどなんていうのか「周囲の目が気になるから」と徳大寺さんに言われて場所を変えることにした。図書館は原則私語厳禁だけど、ロビーのようなスペースがある。そこの椅子に座ればそこは私語がフリーだった。


 徳大寺さんが切り出してきた。

「数を合わせる上でこの四つのグループを全て合わせなくちゃだけど、問題は声をかける順番よね」


「そうだよね。味方になってくれそうな人をまず確保したいな」僕は言った。


「そう、それ。この中でたった一つ、構成人員が一人じゃなく二人の同好会がある。そしてこの中でたった一つ、学年が三年の人がやってる同好会があるわけだけど……。あとの二つは同じ学年のおひとり様同好会——」


 僕は、うんとうなづく。


「——で、今川くん、最初どこから行く? ひと晩考えた結論はどうなった?」


「徳大寺さんからじゃないの?」


「わたしはあくまでお手伝いの役割だから。今川くんが主体になるべきでしょ」


「じゃあ……似たような境遇の、学年が同じで構成人員一人のところから始めるべきかな〜、なんて」


「それ二つあるけどどっちから?」


「テキトーに」


「ダメです。却下します」


「え〜じゃあ徳大寺さんはどう考えるの?」


「エッヘン! わたしの考えですか? 三年の人から始めるに決まっています」


「え〜上級生の女子なんて一番声かけにくいんだけど」


「確かにかけにくいでしょう」


「じゃあ?」


「考え方を変えましょうか? 一番最初に声をかけちゃいけない会はどこでしょうか?」


「消去法で考えろと?」


「そうよ」


「え〜っと、たぶん構成人員二人のトコ」


「びんご!、わたしと同じ」


「そうなの?」


「ある意味当たり前だけどこの二人は仲良しに違いないと思う。そんな中今川くんがひとりでノコノコ入っていけると思う? まず無理でしょ。ただでさえ今川くんの他は全員女子になっちゃうんだし、順番を間違ったらアウトだと思う」


「それじゃあ同じ学年の人より上級生を先にする理由はなんなの?」


「三年はセンパイだから」

 徳大寺さんは自信満々に言い切った。


「意味が分からない」


「中学・高校は学年の一学年の違いがけっこう絶対的な意味を持つってことくらい分かるでしょ? 元サッカー部なんだし。この三年生を最初に味方につければ残りの人の勧誘がやりやすくなる」


 なんか、徳大寺さんが頼りになるっぽい——


「徳大寺さんって、さく……じゃない軍師だよね」


「いま〝策士〟って言おうとしてなかった?」じとっと見られながら言われた。


「いやいやいやっ、軍師って言い換えたし徳大寺さんは僕の軍師官兵衛だよっ!」


「軍師は諸葛孔明じゃないの?」


「それ『三国志』だし日本じゃないし」


「その人凄いの?」


「凄い!」


「でも名前が『かんべえ』だよね」


「……」


 そう言やもう一人の軍師も『はんべえ』だった……

 言われてみれば、なんというご老公のお付きの者感……(道化担当)

 嗚呼、黒田官兵衛さん、竹中半兵衛さん……


「ちょっと、今川くん。いまくだらないこと考えてない?」


「いやいやいやっ、考えてないよ!」


「で、先輩に声かけるの?」と、またもじとっと見られながら言われた。


 パイセンか……、部活の悪夢……よみがえっちゃうなあ……

「その三年の人、いい人だといいけど」


「今川くんには定期的に渇を入れる必要があるみたい」


「え?」


「そんなこと考える必要はありませんっ!」


「どうして?」


「このリストにある人全員参加させないと人数を満たせないんだから。わるい人だろうといい人だろうと絶対参加なんです!」


「う……ん」


「『うん』じゃないでしょっ! 今川くんがその人を味方につけるんだよ!」


 それを言うと徳大寺さんは手に持ったリストに改めて目を落とした。


「三年二組の山口さん……」徳大寺さんは言った。



 徳大寺さんは僕にとっておきの秘策(?)を預けてくれた。

「大丈夫のはず、絶対成功するはずっ!」とやけに自信たっぷりに。しかし徳大寺さんはこうも言った——「だけどこの人の同好会名に一抹の不安があるんだけど……」と。


 その会名について徳大寺さんに訊かれてしまった。


「『軍令部』ってなんなの?」と。


「きっと軍の組織だ!」

 ……それしか思いつきませんでした。


「そんなのわたしだって想像がつくよ」徳大寺さんに言われてしまった。


 こうして金曜日が終わっていく。

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