だい〝ろく〟わ【主人公今川真の『戦国負け組のススメ』】
「……そもそも今川くんって日本史系のひとり同好会やってんでしょ? 日本史のどこあたりが好きなの? やっぱり戦国系なの?」
「徳大寺さんカンが良いよね、やっぱり戦国系は基本型だし押さえるのが当然というか」
「いえ、カンもなにもよくあるってゆーか。こっちもやっぱりそうなんだって思うしかないけど」
「ただ、僕の場合少し違うんだよね。他の人と違うというか」
「でたなぁ。マニア。『僕は他の人とは違うんだ』っていうミョーなこだわりが。いるんだよねー戦国オタクに。こんな人知ってるかーっていうノリの人がさ。わざと有名な人を外したりしてね」
「マニアじゃありません。ファンです」僕は努めて冷静に言った。
「じゃあ誰のファンなの?
なんでこの人たちの名前が出てきたか? 明らかに元ネタはマンガだったりするな。人を試すようなことをされているなぁ。
「いや、そういう幸せな人生を送った人じゃなくて、逆の人」僕は言った。
「わからない」
「失敗した人」
「だったら仙石秀久だって古田織部だって失敗しているんじゃないの?」
「一見そう見えてもある意味彼らは『成功者』でしょ」
「じゃ浅井長政?」
「確かにそれは言えるけど、そんなカッコイイ感じじゃなくて、もうちょっとしょうもなさ感が濃い人の方が親近感を感じるなあ」
「もうっじゃあ具体的に名前言って」
「
「武田勝頼だけ知ってる」
「まあ有名だからね」
「ところで今川氏真って言った?」
「言った」
「今川くんとなにか関係があるの?」
「たまたま名字が同じだけで無関係だけどどうも他人とは思えない」
「今川氏真ってそもそも誰?」
「あの今川義元の息子」
「桶狭間の?」
「田楽狭間ともいうけど」
「え? 今川って桶狭間の後もいたの?」
「そりゃあったよ。別にあの戦いは織田軍が今川の本拠地にまで攻めて行ったわけじゃないから」
「で、その人のどこがいいの?」
「『いい』というと語弊があるけど、滅ぼしちゃった人ってところが」
「誰を滅ぼしたの?」
「戦国大名の今川家。でも本人は滅ばなかったけど」
「はい?」
「え、と。今川氏真本人は死んでないってこと。実際滅ぼしたのは武田と徳川の連合軍で、これ念のため」
「自分の家を滅ぼしちゃった人に興味があるわけ?」
「まあ、なんとなく」
「それで武田勝頼の名前も入っていたんだ……。しかしこれはまた……ネガティブというか退嬰的というのかデカダンスというのか……」
「デカダンス?」
「つまり……さ。後ろ向きすぎない?、ってこと」
「言われれば後ろ向きかもしれない。ただ自分の気持ちがこれなんだ」
「ダメだよ今川くん。要するにヘマをして自分の家を滅ぼしちゃった人が好きだなんて、そんな後ろ向きな人といっしょに仲間になろうなんて誰も思わないよ」
「そうかなぁ」
「ちょっと今川くん!」
突然叱られた。
「なんでしょうっ?」
「女の子を惹きつける決定的な何かが足りませんっ」
「『決定的な何か』って分からない。決定力不足?」
「分からないの⁉ いっしょにいて楽しいとかそういうのだよ! いっしょにいて鬱になってしまうようなそんな性格の男子といっしょにいたいとは思わないよ!」
「うぅ……」と言いながら頭を抱えてしまう。「——徳大寺さんキツいよ」
「とーぜんのアドバイスです。それとも同好会は廃会ですか?」
「嫌だ! 『戦国の敗北者を抱きしめる会』を跡形もなく解散させるなんて!」
「せんごくの……敗北者を…抱きしめる……かい?」
「そうだよ。なんとも愛惜の念がこもった素晴らしいネーミングだろ?」
「……でもさ、他の同好会と合併しちゃったらその会の名前も別なものになるよね?」
「そこは説得してなんとかなればなぁ……」
「……たぶん説得なんてできないと思う」
「そうなの?」
「決まっているじゃない!」
「だって結果的に敗北者になってしまっただけで自分の家を滅ぼそうとしてそうなったわけじゃないっ! いろいろな原因、時代の流れ、なにかをやろうとしてもどうにもならない状況の中懸命になにかをやろうとしてそれでも上手くいかなくて、あるいはみんな人間だから間違いも起こしてしまったりして結果が最悪になってしまっただけなんだ。結果のみを見てバカだのアホだの大所高所からあげつらえる人間を僕は信頼できない。僕は彼ら敗北者に限りなき愛惜の念を感じるんだ‼」
徳大寺さんはあっけにとられたような顔をしている。はっ、とする。僕はなにを言ってしまったんだ!
「圧倒されちゃったな……ネガティブはネガティブだけどこれほど熱いネガティブだとはね」
あれっ⁉ 肯定的に受け取られた?
「そうっ熱いでしょっ⁉」
「しかし容赦はしませんっ! 女の子を惹きつける決定的な何かが足りませんっ」
「また話しをもどしちゃうの?」
「女の子を仲間にしないと今川くんの会も消えちゃうんです」
「うぅ」
「『うぅ』じゃありませんっ! あんまり弱音をはいてるともう協力しませんよっ!」
「待って! 待ってよ」
なんだかやりすぎちゃったかな……(たぶん)っていう顔を徳大寺さんはした。
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