だい〝ご〟わ【徳大寺聖子さんノリ始める】

 たったいま授業終了のチャイムが鳴り終わった。今度の『キインコロォン・カランコロォン』は一日の授業が全て終わったことを知らせるチャイム。この後もろもろの雑事を経なければ放課後は来ない。別にカノジョというわけじゃない。あまり気安くあまり馴れ馴れしく話しかけてはならない。女の子は軽く扱ってはダメって徳大寺さんに言われたし。



 で、本物の放課後になった。時間が充分に取れる今こそ、その時。


「僕は現実主義なんだよね」

 今日ずっと徳大寺さんと話しているので周囲の視線が僕にもちくちく来る。しかし気にしない。状況打破に動くのみ。


「どういうこと?」徳大寺さんは訊いた。


「仮にまとまって同好会がひとつになっても、男子が僕一人、他が女子ばっかの同好会はなにをするんだろう?」


「それをわたしに訊かれても」


「つまりまとめた後の活動が想像できない」


「まあ確かになにをするんだろうって思うけど」


「徳大寺さんに協力してもらってもそういうのを理由に女子たちが拒否する可能性は多分にある。そこで——」


「そこで?」


「ペーパー上でも構わないという条件を付けてくれて構わない」


「他の女の子たちが仲良くお喋りなんかしていて、今川くんがペーパー会員でいいの?」


「構わない。『大学入試を一般入試で受けない』ためだから」


「で、ペーパー会員で卒アル写真に入れてくれるの?」


「……右上辺りに出ないようにしないとね」


「『出る』って幽霊じゃあるまいし……」


「出られりゃまだマシかもしれないけど」


「まぁ最悪ペーパーでも良いのなら女の子たちを説得しやすくはなるかもね」


「そうそう! なんかさ、女子って好きな男子には優しいけど、どうでもいい男子には優しくないよねっ」


「うっ。今川くん、それは真実なのかもしれないけど、あまりにもハッキリ音声にして出し過ぎるというか……っていうかわたしが女子だってことまた意識の外に飛んでなかった?」


「いやそうじゃなくて単なる女子じゃなくて集団としての女子というのか——」と話題を変える。


「で、どういうコがやっている同好会なの?」どうやら『伝えたいこと』が伝わったよう。


「僕が学校側から紹介を受けたのは四グループ。うち。全てのグループを合わせれば楽勝で新規定を満たす」僕は言った。


「一人でやってる? それって俗に『ぼっち』よね。『ぼっち』って言うんだよね?」


「一般論では」


「今川くんは変わっているけど、それに匹敵する女子がいるっての?」と言った後、徳大寺さんははにかみながら、「まぁね、わたしも大きなことは言えないんだけど……」と付け加えた。


 これには少し驚きだ。自覚があるんだ。僕にも自覚があるが。自分のことも棚に上げない徳大寺さんなんだ。照れ隠しなのか、

「いったいどういう基準で紹介されたの? 要するに人数合わせってこと?」と続けて徳大寺さんが訊いてきた。


「一応学校側も配慮らしきものはしたようだ。というのもを紹介された」


「どんな系統の同好会なの?」



「へぇ『歴女』ってことばもすっかり定着しているからね」


「そのコたちってひとりで同好会なんてつくってなにをやっているんだろ?」


「やっていることは基本読書部と変わらないらしい」


「じゃあなんで読書部に入らなかったんだろうね?」


「関連本しか読まないらしい」


「……けっこうわがままなコたちなんだ」


「普通じゃないって感じ、するよね」


「しかしいまどき『ぼっち』とか、『もじょ』ってのもあったっけ? 独りでいるって事がマイナスそのものになっているご時世にたった一人で同好会つくっちゃうなんてどんなコたちなんだろう?」それは徳大寺さんの率直な疑問だった。


 ひとつため息が出た。こんなに一癖も二癖もありそうな女子が相手とは……しかし『癖』以前の問題があるんだよな〜。いわゆる女子の特性だ。その問題を指摘しなければならぬ。


「問題がある」僕は言った。


「どんな?」


「僕を入れなくても女子たちだけで五人人数が集まってしまう」


「あっ、確か『一人でやっているのが三つ、二人でやっているのが一つ』って言ってたよね。1×3+2で5だ」


僕は驚いた。徳大寺さんって人の話しをここまでよく聞いて覚えられるんだ。


「どうかした?」徳大寺さんに訊かれた。あっけにとられている場合じゃない。


「そう! それそれ! そこが問題なんだよ!」


「確かに深刻だよね。女子が五人集まって楽しくやっているところに誰だか分からない男子がひとりやって来て『仲間に入れてくれ』なんて言ったら断ってしまうかもね。ほぼ確実に」


「やっぱり徳大寺さんもそう思う?」


「もうその五人のコたちは結束しちゃったの?」


「分からない。今日僕が知らされたことを考えるとどこも今日知らされたと思う」

 徳大寺さんはなにごとか考え続けている。さてどうしようか? といった感じで。


「正直協力してあげていいと思っている」徳大寺さんの返答だった。しかし余計なものがくっついた。


「なにか面白そーだし」


「……」


「でも真っ正面から行ってもだめなのはなんとなく分かるよね? 工夫が要るよ。どんな工夫をすればいいのか作戦を立てないと」


「徳大寺さんって戦略家なんだなぁ」と誉めた。


「まだ作戦立ててないけど」


「なにか考えるには情報が充分じゃないと」


「なるほどね」


「なるほどね、じゃないでしょ! 情報ちょうだい!」

 そう言って徳大寺さんは右手の手の平を僕に向けて出した。


「よろしくお願いします」

 なにを言われたのか一瞬分からなかった、という顔を徳大寺さんはしていた。僕は徳大寺さんの右手をぎゅっと握り上下に動かしている。


「ちょっと! なにしてんの⁉」

 びっくりしたっ! 思わずすぐに手を離す。そしてあわてて言った。

「握手」


「日本人は握手しないでしょふつう!」


「ふぇーっ男子と手を握っちゃった。手の平を上に向けていたのに」徳大寺さんに言われてしまった。


「ごめんなさい……」


「まぁ、男の子が素直に謝ってくれるとなんとなく嬉しくはなるけど……ってこんなこと公言しちゃいけないけど」


「あまり謝らないで済むように心がけます」僕は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る